A-FIVEの破綻

 ちょっと、時期的には遅れた話題となりますが、7月31日、農林水産省から「株式会社農林漁業成長産業化支援機構A-FIVEに係る検証報告」の報道発表がありました。その頃、一部の新聞に記事にもなっていたと記憶しています。

 A-FIVEは財政投融資資金300億円に民間からの19億円を加えた319億円の出資金で、平成25年にスタートした農林水産省が所管する政府系ファンドですが、結局、損失額は92億円で破綻し、このままの継続は断念となりました。政府系ファンドは、これ以外もいくつかあるが、全体的に最近うまく行った話を聞かない。

 A-FIVEは六次産業化の促進と生産者が新しい事業開拓をしていくことを目的に、ファンドからの出資を受け、農林水産業を成長産業に導いて行こうというものである。

 農業(Agriculture:アグリカルチャー)の「A」、資金(Fund:ファンド)の「F」と革新(Inovation:イノベーション)の「I」などの頭文字からできているのだろうということは容易に想像できますが、日本語でも頭文字でも長すぎるので、覚えられない。農林漁業の技術革新や事業拡張を目指す事業にお金貸してくれる制度と思っていればおおよそは当たっているはず。

 農林漁業者が新たな分野(2次・3次事業)へ取り組むことは資金や経営等のリスクがあることは確かだ。工業製品のように時間さえかければ何度も試作品ができると言うものではなく、生産物は自然を相手にしているので、イレギュラーが多いし、基本1年に一回の生産、特定期間の捕獲等、時間的制約も受けるので、開発して売り上げが出るまでにはそれなりに時間のかかるものです。だから、A-FIVEを活用した出資により農林漁業者の資本を充実させることができ、他業種とのマッチングなどの経営支援を通じ、農林漁業者の新たな取り組みを支援すると言うものだ。

 少額の自己資金で大規模の事業に取り組むことが可能になる上、政府系ファンドから出資を受けることで、信用力が上がり、原料調達や人材確保、販売力の向上などの派生効果も期待できる。

 ここまでのストーリーを聞けば、「リスクが大きいんだから、こういう制度が必要でしょ」とも思うが、経営の問題なのかリスクの問題なのか評価しにくいところも多く、経済ドラマだと格好の不良債権の題材みたいにも見えるし、また、ちょっと間違えれば、コンフィデンスマンのドラマのシナリオにも組み込まれそうな感じだ。(ちょっと額が小さいか。)

 平成25年、政府は農林漁業の6次産業化の推進の政策の目玉の一つとしてこの制度を持ちだしてきました。私は農研機構に所属し、ちょうど管理職になったばかりでしたが、矢継ぎ早に打たれるアベノミクスの成長戦略の矢である日本再興戦略、農林水産業・地域の活力創造プランに辟易としていました。「なんでもかんでもそんなうまく行かんだろう」と。優良事例の横展開なども期待されていましたが、地域活性化というものは、地域住民が頭を絞って絞って、あれもダメこれもダメとなっているもののなから、ちょこっと出たお金の成る木の小さな芽を見つけ、大切に育ててようやく一つ実が成るってものなのに、そんな、何糞ってな肥料を無理やりかけたところで急に育つ訳がない。国と民間の水掛け出資の水が多すぎて、せっかく出た芽も腐るってものだ。

 今回の報告では、サブファンドの体制が大きすぎたことも問題の一つとして分析されていますが、そんなこと分析するまでもなく、これだけの体制を用意しようとしたら、そりゃあ金もかかることはすぐ分かる。報告書を読むと、A-FIVE の1件当たりの投資額は平成 30 年度末までの累計で 9,400万円となっているのに対し、投資1件当たりの運営経費は 4,700万円であり、投資額に対する運営経費の割合は50.0%だと言うのだ。そんなことってあるだろうか。役職員の削減や高い事務所からの移転などを図ったと言うが、引っ越し貧乏って言葉があるように、引っ越しした方が金がかかるようになっている。経費削減というものは、これからうまく行かなくなりそうだという時に早々に手掛けるもので、ぐちゃぐちゃになってから何かしたってそう効果はない。更に言うと、そもそも、創造性豊かで、革新的な会社を見つけて、投資をできるような目利きの人材というのは、高い専門性が要求される上、分野が農林水産業と流通なのだ。このような特殊な分野に、イノベーションやハイリスク投資に不得意な公務員が関わってもうまくいかないのは分かり切った話ではないのだろうか。倍返しの半沢直樹でも、初めから引くのではないだろうか。

 私が一番言いたいことは、どんな優秀な人材を呼んできたとしても、どれだけの安心と安全の出資、民間のような貸し剥がしのない出資を受けたとしても、住民一人一人の地域に対する愛着の中から出た努力と匹敵するほどの投資効果は生まれてこないということなのです。地域の活性化にまったくお金が要らないとは言いません。ただ、それが如何にきれいな水であっても、お金を借りる前に、先ずは血と汗でできることをやっておきましょう。

 そして、政府はできれば、資源開発や社会変革のための新型輸送機や車などの開発でもない限り、ファンドにはなるべく税金を突っ込まない方が良い。立派な事業主もたくさんいらっしゃいますし、優秀な投資家もたくさんいらっしゃいますが、多くは、プレゼンの派手さと何処からともなく永田町辺りから聞こえてくる囁きに影響されて、本物は見つけにくくなっていますから。

 私は投資の専門家ではないので、検証報告をもっとしっかりと読み込むと、私の素人考えは無知の叫びに過ぎないのかもしれない。また、今になって「ほらっ、見たことか」と言うのは後出しじゃんけんみたいで卑怯なので、なるべくぐたくた言うのはやめようと思いますが、A-FIVEについては黙っておられませんでした。済みません。暴言を許してください。 補助金と比べて、投資制度が悪いとは思わないが、同じ税金、今はとにかく早く回収してくださいと思います。

※写真:内容とは関係ありません。暑い日が続くので、ちょっとひんやりした画像を・・・(新潟県十日町市美人林)

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