みどりの食料システム

 10月16日、野上農林水産大臣の記者会見で、大臣から「みどりの食料システム戦略」について、こんな発言がありました。農林水産省のホームページからそのまま転記しますと以下の通りです。

 “農林水産大臣に就任して約1か月を迎えまして、温暖化・自然災害の増加ですとか、あるいは生産者の減少・高齢化、地域コミュニティの衰退、新型コロナの発生など、課題が山積していることを痛感いたしております。今後SDGsや環境への対応が重要となる中、農林水産業や加工流通を含めた、持続可能な食料供給システムの構築が急務と考えております。また、このような環境と調和した持続的な産業基盤の構築は、国産品の評価向上を通じ、輸出拡大にもつながると考えております。農研機構で、今週、スマート農業の実証やイノベーションの状況を視察いたしましたが、こうした施策の実装もますます重要と考えております。このため、我が国の食料・農林水産業の生産性向上と、持続性の両立をイノベーションで実現させるための新たな戦略として、「みどりの食料システム戦略」について、来年3月に中間取りまとめを作成し、5月頃の策定を目指して検討することを、事務方に指示をいたしました。”

 環境と調和した農林水産業の推進がとても重要であることは、おそらく国民の誰もがよくわかっていることなのだと思います。菅総理も、就任早々に、成長戦略の柱に『経済と環境の好循環』を掲げ、「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言しました。これまでの環境政策への消極姿勢に対する世界の批判をかわし、日本も本腰入れますよと胸を張るとともに、毎年毎年、気象変動により頻発する自然災害への対応だけで疲れたくないという思いもあるのだと思います。まぁ、ついでに、将来の総理候補の呼び名も高い進次郎さんが疲れないように、傷がつかないように・・・そんなことはないか。

 素直に、野上農林水産大臣の発言を読むと、もともと他省庁の中でも縦割りが緩めの農林水産省と環境省が協働して、骨太の環境政策に踏み出すのかと感心します。しかし、どうでしょう、素直に読んで良いものなのか。最後の方の発言にある「我が国の食料・農林水産業の生産性向上と、持続性の両立をイノベーションで実現させるための新たな戦略」と言うところが、もう一つよく分からないし、引っかかる。

 いや、分からない訳ではない。おそらくは、生産から消費までの物流の流れの各段階で、環境負荷軽減、脱炭素社会に資する技術体系を構築するとともに、スマート農業技術を活用し、例えば、土壌条件に応じた肥料、農薬を使用することで、肥料、農薬の削減を図るとか、センシングドローンを飛ばして、必要な生体にだけ農薬をかけることで、無駄な農薬を使わないとか、牛にげっぷとおならをさせない飼料開発、またはげっぷしない牛の品種改良で大気中へのメタンガス放出を減らすとか、電気自動車を多用し、物流内の炭素排出を抑えるなど、生産性向上とコスト低減、環境負荷軽減を両立させるということだろう。

 何も間違いはない施策で、ちょっと笑えそうなのもありますが、それなりに必要な技術開発だと思えますし、がんばって実現せねばならぬ目標ではありますが、私は違う見方をします。生産性向上とコスト低減・環境負荷を無理して両立し、どちらも勝ちにする必要はないのではないのかと思うのです。

 そりゃあ、理想はそうでしょうし、中期政策目標として理想を掲げることは大切です。農林水産省が産業省庁として、農業経営者に向けて経済的マイナスをいう訳にはいかないのかもしれませんが、そんなことを言っている場合なのかという気がするのです。

 言葉が過激な環境活動家であるスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリさんではないが、「あなたたちが話しているのは、お金のことと経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」という言葉が心に染みる。

 技術体系とイノベーションで解決できるならそれは良いことなのですが、すべてそうはいかないはずで、もう技術でなんとかすると言い切ってはいけないところへ来ているのではないのか。目的はズバッと、「生産性向上よりも環境負荷軽減で気候変動対応するのだ!」、「食べ残し無し、規格外廃棄等の食品ロスのない食生活に変えるのだ!」と言い切って、もしかしたら、ちょっとはイノベーションが解決してくれるかもしれないぐらいで良いのだ。「そんな腰の引けた目標があるか!」と、農政行政マンは言いたいだろうが、スマート農業ありきを前提にしてはいけないし、生産性向上を担保してはいけない。それを入れてしまうから、少女に「大人は嘘つき」って言われてしまうのだ。

 「みどりの食料生産システム」と言うなら、隙間技術を狙わず、環境省みたいに、問題にしっかり猪突猛進してしまっていいのだ。

 10月23日に農林水産省と環境省は、『コロナ後の経済社会の再設計(Redesign)に向けた「農林水産省×環境省」の連携強化に関する合意』というものを交わした。この中には、脱炭素社会、循環経済、分散型社会への移行について14の合意事項があるが、なんやら盛り込み過ぎで、関連施策を含めて達成に向けて進むのだと言う意気込みはわかるが、結局はお互いに協力して実現に向かいましょうと言うだけで、目的意識の異なる省庁の壁が取っ払われた連携にはなっていない。本気でやるなら、農林水産省の「みどりの食料生産システム戦略」と環境省の「地域循環共生圏の創造」は一つにして、本当の骨太の環境政策を国民に見せて欲しいものだ。

 各省庁には省庁の所管事項があると主張しあっていては、環境問題は絶対に目標値を達成しないだろう。17歳の少女をこれ以上グレタ少女にさせたくないと私は思いますね。

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