ノリつっこまないボケ

 若手漫才師に「ぺこぱ」というコンビがいます。一昨年のM1グランプリでは、優勝こそしなかったものの、初の決勝進出で3位となり、昨年は結構ブレイクして、CMやバラエティ番組で引っ張り蛸だったようです。昨年暮れ、2020年のM1グランプリでは準決勝止まりだったので、もうそろそろ飽きられかけているのかもしれません。

 漫才はほとんど見ない人でも、また、お歳の召した方で、「最近の漫才は何を言っとるかよくわからん。何が面白いんだ」と言われる方でも、テレビに出て来るなり、クキッ、クキッと奇妙な体の動きを入れて、「松蔭寺大勇(しょういんじたいゆう)だ、ヒュー(口笛)」と言う自己紹介や、ネタの途中で入る「時を戻そう」、「悪くないだろう」はなんとなく覚えがあるのではないだろうか。

 漫才には「ボケ」と「つっこみ」があるというのは皆さんご存じだと思います。私、何を隠そう、”兵庫県尼崎市”出身で、幼少の頃、芸人みたいなおっちゃん連中に囲まれて育ったことから(実際に吉本新喜劇の喜劇王、岡八郎さんが近所に住んでいた)、お笑いと漫才にはちょっとうるさい方ではありますが、改まって、「ボケとつっこみとは何か」と訊かれると、適切な回答をするのが案外難しい。そこで、ネットで調べてみると、「ボケ」は、冗談を言う、話題の中に明らかな間違いや勘違いなどを織り込む、笑いを誘う所作を行うなどの言動によって、観客の笑いを誘うことが期待される役割、「つっこみ」は、ボケの間違いを要所で指摘し、観客に笑いどころを提示する役割と書いてありました。まぁ、そういうことらしいです。

 ダウンタウンで言うと、松ちゃんがボケて、浜ちゃんが『アホか』と怒鳴ってつっこむ、千鳥だと、大悟がボケて、ノブが『癖がすごい~』とつっこむ、タカ&トシだと、タカがボケて、トシが『欧米か!』とつっこむという具合です。漫才とは、この「ボケ」と「つっこみ」の駆け引きを聞きかせるのが技術となるのですが、このペコパの漫才は「ノリつっこまないボケ」と言われており、せっかく相方のシュウペイちゃんがボケても、松陰寺がフォローしてしまい、ボケを真っ向から否定せず、「まぁ、そういうこともあるのかもしれない」みたいに流してしまうので、何とも歯切れが悪いつっこみとなり、それが寧ろ「ボケ」になってしまうというスタイルである。

 一つ、ネタの事例を示すと、こんな具合だ。

 高齢化社会において、お年寄りにやさしくすることが大切だというテーマで、電車で席を譲る練習をしてみたいとシュウペイちゃんが言い出す。おじいさん役を演じる松蔭寺が、電車に乗ってくるが、席に座っているシュウペイちゃんもおじいさんを演じている。

 年寄り風に語るシュウペイちゃんのセリフ、

「アウアウアウ…ヨカッタラ席どうぞ」(お年寄りは「アウアウアウ」なんて言わない)

 ここで、松蔭寺のゆるいノリつっこまないセリフが出る。

「イヤ、お年寄りがお年寄りに席をゆずる、・・・時代がもうそこまできている!そうだ・・・これが日本の現実なんだ」(観客笑)

 普通なら、「なんでお前まで、お年寄りの役すんねん。若者やれよ」とつっこむところを、相手のボケであるお年寄りに扮するボケをそのまま流してしまうのだ。

 さて、ここからが本題であるが、考えてみれば、なんとなく曖昧で、歯切れが悪く、煮え切らず、つっこみ切らない会話が、最近の世の中に増えているように思う。これって風潮なのだろうか。優しさなのか、気づかないのか、つっこみ返されると嫌だからなのか、つっこむだけの知識がないのか、なんとなく、適当なところで、流してしまっている。

 つい先日、テレビでニュース番組を見ていて、なんだが、このペコパのノリつっこまない感じに似ているなぁと思ったものがある。1月8日のテレビ朝日の菅総理が報道ステーションに出演した時の、キャスターやコメンテーターと菅総理のコロナ対策に関する質疑応答の場面だ。ぼそぼそ喋る菅総理に対する質問のツッコミが足りなさすぎる。菅総理も「ボケ」ている訳ではないし、漫才じゃないから、『アホか』とツッコムこともできないだろうが、「1カ月頑張ってやらせて頂きたい」と言った菅総理の言葉に「1カ月後に結果が出なければどうするつもりか」と質問したことに、「仮定の質問には答えられない」と返答するのは、けっこう「ボケ」に近いようにも思う。富川キャスターは『なんでやねん』、もしくは『横柄か!』ぐらい言ってもよさそうだ。後、菅総理の言葉が出ないところで、そうとう会話をフォローしていたようにも思う。富川キャスターの方が、なんとなくたくさん喋っていないかとも思うし、国民が疑問に思っていることをツッコまずして、「おせちなど食べる時間はあったんでしょうか?」なんて質問あるだろうか。総理も苦しいのだろうとは思うが、そこは気遣うところではないはず。「会食する時間はあったんでしょうか?」と皮肉ってもおかしくないくらいだ。でも、やり過ぎると降板があるかも。

 総理であろうが、陛下であろうが、訊くことはしっかり訊く。国民の身になって、政治を代弁していく報道でなければだめだろう。富川キャスターを例にさせてもらったが、彼だけの問題じゃない。日頃の大臣の記者会見でも、報道陣の質問に時々しょうもないのがあるとは思いませんか。とにかく、国民全体のツッコミが弱い。日本では、昨今、デモも弱くなっているように思います。政治への関心を放棄してはいけない。「嫌なものは嫌」、「やってほしいことはやって」、「教えてほしいことは教えて」と、ズバッとつっこまないと。

 農村づくりにおいても、最近は、講演などをしたときの会場からの質問が少ないように思います。昔はもっと質問が飛び交っていました。時間的な制約があることは分かりますが、せっかくの機会ですし、みなさん、絶対に疑問に思うことや訊いておきたいことがあるはずです。聞き流してはいけませんよ。是非、講演者が、「それはなかなか回答が難しいですね」とタジタジになるぐらい、ツッコンでください。

 「時を戻そう」て言っても、戻らないんだし、「ボケ」て、質問に返してくるんだったら、サンドイッチマンみたいに、『ちょっと、何言ってるか分からない』と「ボケ」で返したらどうでしょうか。

 今日は、済みません。漫才嫌いの方や見たことない人には、分かりにくいネタでしたね。

※大阪府豊中市庄内にあった私の実家の写真屋です。この店にも、吉本の芸人さんがよく来てくれました。生前の父と母が写っています。中高をここで育った私は、毎年、大晦日から元旦にかけて、店頭でフィルムやアルバムを売ってました。これをやらないと、お年玉が貰えなかった。

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