石の上にも三年

 今日は、楽ちん多面のお話というか、多面の事務軽減に関するお話です。いや、多面事務軽減そのもののお話ではありません。それにまつわる『本当にあった嬉しいお話』を紹介いたします。

 今回の対象の読者は、多面事務作業を簡単にやりたいと思っているが、パソコンを使うということに躊躇されている方、また、パソコンは持っているが、「楽ちん多面」などという得体のしれないソフトは使うのが怖いと思っておられる方々です。よって、楽ちん多面だけでなく、どんなソフトでも構いませんが、パソコンを使って事務の軽減をすでに図られている皆様方は、以下読んでもあまり参考にならないと思います。そういう方は、今週の記事はハズレだということで、来週にご期待ください。

 只、いつも矛盾を抱えたまま、どうしようもなく記事をアップしていますが、そもそもパソコンを使っていない方はこの記事を読むことはできないので、以下の記事がパソコンを使わない方の多面事務の軽減の促進には繋がらないでしょう。でも、こういう話もあったと言うことを記録しておくのも、研究会の「言わせてもらえば」のコーナーにとっては大切な情報ですので、書かせていただきます。ちょっと前置きが長くなりましたが、それでは始めます。

 さて、「楽ちん多面」は以前から何度もこのコーナーで紹介させて頂いておりますが、国立研究開発法人農研機構の農村工学研究部門と仙台に本拠地のある株式会社イマジックデザインが共同で開発した、多面事務作業の軽減を目的としたアプリケーションであり、令和元年の11月11日に発売が開始されました。農村づくり・ICT支援研究会は、本ソフトが必ず現場のお役に立つと信じ、その有効性を認め、発売と同時に、ホームページ「楽ちん多面」を立ち上げ、これまで普及活動をボランティアで進めて参りました。

 おかげさまで、現場にも徐々に認知され、現在は全国多くのユーザーの皆様に使って頂いております。また、発売当初より、『ユーザーの皆様と共に開発していくソフト』をコンセプトとしており、皆様からの意見を頂きながら、毎年、数回の改良と本省の様式変更に対応して現在3年目に至っております。

 お話はA県のとある地区の一人の方から、私の方に電話があったことから始まります。販売を開始して直後のことでした。ちょうどその年、A県の研修会で楽ちん多面の事務軽減について、本ソフトを紹介する機会があったのですが、電話の主は、その研修会に出席された78歳(お歳はかなり後になって聞いた当時の年齢)のとある町のB地区の多面活動の会長のCさんでした。

 会長さんからいただいた相談はこんな感じでした。

「私は、今年からB地区保全会の会長になったのだが、先日、研修会に出て楽ちん多面の話を伺った。たいへん便利なものがあるなと感心して、我が地区でも使いたいなと思ったのだが、如何せんパソコンを使ったことが無い。私のところは私の家業を継いで、息子が店をやっているので、インターネットは通じているが、私自身はパソコンもメールも持っていないし、使えない。家のパソコンはお店用のものだから使う訳にはいかないが、どうしたらよいだろう」

 私は無謀にも、「分かりました。パソコンは少しずつで良ければ私がお教えしますので、会長さん自身のものを買いませんか。パソコンは交付金で買うこともできますが、勉強するなら自分のものがあっても良いと思います。しかも、このソフトは安いパソコンで十分動きますから、息子さんや電気屋さんと相談して、一台買ってください。そして、メールを作ってください。そうしたら、分からないことはメールや電話でやり取りしましょう。街のパソコン教室ほどはうまく教えられないかもしれませんが、おおよそのことはやれると思います。」と答えてしまった。実に無謀である。

 しばらくしてから、「パソコン買って、インターネットとメール繋がったぞ 次は楽ちん多面教えてよ」というお電話が入り(ここが笑える! メールができるようになったと言うのに電話だ)、私との遠距離個人授業が始まりました。

 そんなある日、会長の息子さんから電話が入りました。「あなたところは、宗教のたぐいなのか? なんだか小難しいソフト売りつけやがって、熱心に教えているようだが、親父が毎日苦しんでいるじゃないか。ちょっとは私も見てやっているが、忙しいから対応できないし、私も事務の中身は分からないから、限界があるよ」

 Cさんが、あまりに簡単なことを私に聞くのが恥ずかしかったのと、メールで文章を書くのが面倒だったので、しつこく息子さんに使い方を聞いたようで、息子さんが根をあげられたのだ。また、私が熱心に長い時間電話をしているので、宗教かなにかの勧誘のように感じたのでしょう。

 確かに、息子さんのおっしゃるとおりであるが、ソフトが難しいというより、農林水産省の様式に合わせる事務が面倒なのであって、楽ちん多面の責任ではないことも含まれている。只、私の教え方が悪かったのは間違いないだろうと、その至らなさにショックを受けて、Cさんにはその後も、より丁寧に、丁寧に説明させていただきました。Cさんも会長さんになったばかりで、自分がなんとかせねばと努力され、めきめきと上達されました。

 最初の数か月は毎週のように質問がありましたが、そのほとんどはパソコンそのものの使い方に当たるもので、楽ちん多面自体の質問はありませんでした。数か月を過ぎた辺りからようやく楽ちん多面の操作に関する質問が始まりましたが、パソコンそのものが分かってきたので、こちらについては1ヵ月ほどの質問応答のキャッチボールで済み、それ以降は電話が来なくなりましたし、質問のメールも時々入ってはいましたが、ここ1年、音沙汰はありませんでした。

 『便りが無いのは良い便り』だと思って、順調に使って頂いているのだろうと思っていましたが、つい先日、C会長さんから久しぶりに電話がありました。「このソフトいつまで使えるのだ。次期も使えるのか」と言う電話でした。

 彼が言うには、来年度は会長を辞めるらしいのですが、このソフトで培った事務処理のノウハウは貴重なので、事務委託で引き続き私が事務だけはやろうかと思っているという事でしたが、仕組みが代わったりしないか心配だということでした。

 「本ソフトの次期開発は、農林水産省の動きを見ながら、なんとか対応できるようにしていきたいとは考えています」と答えたところ、「是非、頑張って作ってくれ」と、檄を飛ばされました。

 パソコンを持っていなかった、使えなかった方が、3年の楽ちん多面使いを経て、事務委託を受けてやろうかと思っているとまで言われる。我慢して耐えるほどのことではないが、それでも『石の上にも3年』なのである。あまりにも嬉しすぎる言葉である。パソコンを使える人からしたら、「なんだ、そんな話」と思われるかも知れませんが、宗教紛いとまで言われた私としては、涙のちょちょ切れる思いであります。私自身に対しても『石の上にも3年』であったのかも知れません。

 ICTは慣れてしまえば、当たり前の世界です。要は、如何に早く慣れまで到達するかではないでしょうか。松岡修造さんではありませんが、できないではなく、「必ずできる」なのです。研究会は、農村と高齢者のパソコン技術の向上にこれからも挑戦して行きたいと思います。

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。