FIRE

 ニュースを見ていたら、東大卒業生へ「これからの人生設計をどう考えていますか」という質問をしていた。そのうちの一人が、「私は、若いうちにしっかり働いて、40代でFIREしたいですね」と答えていた。皆さんは『FIRE』ってなんだかわかりますか。恥ずかしながら、私はまったく分かりませんでした。『FIRE』って炎だから、人生成功して金持ちになるっていうような意味かと思ってそのまま聞いていたら、そうじゃなさそうだ。「どうしてですか」ってインタビュアーが更に問うと、「若いうちにしっかり働いて、節約と投資で、がっちり資産形成して、40代で会社をやめて、後は、資産運用だけで、旅行したり、趣味とかにお金使いたいですね。50才超えると身体も動かなくなるし、お金あっても使えなくて面白くないじゃないですか」って言うのだ。インタビュアーは更に問う、「いくらぐらい貯めるんですか」と。そうすると、その東大生は即答した。「まぁ、2億ですね」

 そこまで話を聞いてようやく『FIRE』とは何ぞやということが少し見えてきました。

 調べてみると、2020年にはダイヤモンド社から『FIRE 最強の早期リタイア術』と言う書籍が出ていて、日本でもベストセラーとなっているではありませんか。私の勉強不足が露呈し、お恥ずかしい限りです。

 最近、ある調査会社が、若い会社員や事業者等500人を対象に「FIREに関する意識調査」を実施したところ、FIREの希望有無やそのために必要だと思う資産額などについての考えが明らかになってきたらしい。「FIREをしたいか」と尋ねたところ、「とても思う」が52.6%、「まあ思う」が25.4%で、約8割が可能ならFIREしたいと考えていることが分かったという。その理由としては、「仕事・会社から解放されたい」が35.1%、次いで「時間を自由に使いたい」が27.1%、「好きなことをして暮らしたい」が13.6%だったらしい。もう、終身雇用などという考え方は消えてしまっていることは知ってはいましたが、仕事そのものを早期にやめてしまいたいという思いにまで至っているとは思わなかった。私の頭が時代遅れであることを改めて感じました。

 ここで、『FIRE』とは何ぞやということを正確に説明させて頂きますと、『Financial Independence, Retire Early』の頭文字を取ったもので、直訳すると「経済的自立、早期リタイア」となります。元々は欧米を中心に流行していた考え方ですが、日本でも昨今注目されるようになっているんだそうです。

 ここで言う経済的自立とは退職後の年金と退職金と資産の切り崩しではなく、投資による持続的な資産運用益のことを言い、運用益で暮らすルールとしては、リタイア後に4%の運用益を毎年確保できる考えで、例えば、リタイア時点までに用意できた資産が1億円であれば運用益は年間400万円なので、年間支出を400万円以内に抑えることができれば資産は減らず、翌年以降も1億円の資産を元手に運用を続けて、生活することができるということらしい。

 本当にそんなに上手いこと行くものだろうか。資産運用はそれほど安定していないのではないか。私の友人に優秀なディトレーダーがいて、元手がいくらかは聞いたことが無いが、確かに年間500万円ぐらいのプラスを弾き出している。そんな人もいないことはないが、皆が皆、そんな上手くはいかないのではないでしょうか。最近はトランプ大魔王によって、♪株はまた急落、のしかかる重圧♪(Funky Monkey Babys:HERO)で、先立つものもないけれど、試算したってうまくいきっこないと思います。社畜おとうさんのHEROではとてもじゃないけど、トランプ大魔王に勝てない。

 そもそも、そんなに会社から解放されて、自由になりたいものだろうか。『FIRE』は社会とのつながりが無くなり疎外感が生まれるとか、仕事のやりがいや生き甲斐がなくなるから幸せではないとも言われていますが、そんなことはそれほど重要なことではない。そういう昔の価値観で『FIRE』を目指す人を脅してはいけません。そんなことよりもおそらく重要なことは、人生計画って大事ではあるけれど、計画が破綻し、紆余曲折があって、思い通りにいかないところに人生の苦しさと楽しさがあるんじゃないのだろうか。そんな、仕事するときは全部仕事、遊ぶ時は全部遊びなんてことにはならないし、我慢できずに行き当たりばったりで使っちゃう弱い人間だから苦しくもなり、またそこに、我慢して貯める楽しさもあると思うんですよね。私も、老後はのんびりとなんて考えていたのに、がんになっちゃってガーンですよ。でもだから、「よ~し、これからだ」って再奮起できる。

 ♪ネオン街の誘惑 すりぬけて週末 体に鞭打って家族サービス また迎える日曜日♪(Funky Monkey Babys:HERO)があるから”いざ行かんゴールへ”となります。 もう、この考え方自体が古すぎるということなのかもしれませんが、私は、人生にとって大切なのは、まるっきりの安定性ではないと思います。ほどよい不安感とほどよい安定感の足し引きの面白さに自分が置かれることの『実存感』ではないだろうか。この辺りが、昨今の生活設計思想には抜け落ちている気がしますね。「経済的自立、早期リタイア」も目指してもらってかまいませんが、人生に求める面白さの根源を考え直してみたらなんて思います。

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。