小島と景観と多面事務ソフト

 11月15日に仙台で仕事の打ち合わせがあったが、次の日はフリーだったので、朝早くから松島海岸に寄って、島の遊覧と瑞巌寺、円通院を参拝してきました。円通院の紅葉は見頃まっただ中、心が洗われました。今年は、長崎の九十九島も巡りましたが、あの島々というのは、特に松島はそう思うのですが、何故もあれほどまでに雑然としているのに、景観としては整っているのだろうか。日本三景に入るだけの景勝であるからだと言ってしまえばそこまで。いや、何故に自然の状態のものがあれほどまでに、島が一つ一つの個性を輝かせながら、一つの景観として纏まるのかです。生態系的な多様性の美しさや文化的な価値に囲まれた生活者のなりわいの一体感というのが一つの答えなのかも知れませんが、造形の纏まりについては、景観の研究者でありながら理屈が分からない。只々不思議な感覚をもたらす景観です。今回は、年寄りの一人旅。遊覧船の中から、次から次に現れては過ぎていく島々ののどかな様子をのんびりと見ておりましたが、ふと先週あったできごとを思い出してしまいました。どっぷり風情に漬かればいいものを、どうも私自身が風情を楽しむ体になっていないようです。

 「楽ちん多面」を2年前に購入しているのに未だに使っていないという地区の代表から電話で相談があったのです。「どうやって使っていけばいいだろう」と。あまりにも衝撃的言葉でした。2年間も使わずに勿体ないというのもありましたし、もうすぐ初期5年間の保守サービスが終了するというのに、どうして今頃になってと思いました。普通は、使いたいので買うのですから、買ったら直ぐに使い始めるものと思い込んでいましたが、その地区の代表が言うには、「体制が整わないから使えない」と言うのです。

 「体制が整わないとはどういうことですか」と聞くと、誰が誰に末端組織の活動や金使いの状況をどのように連絡して、それを誰が楽ちん多面に入力するのかを決めることができないので、楽ちん多面は未だに役員で練習している程度だと言うのです。

 ここまで聞いてもまだ理解できないので、ユーザーさんをそんな状態で放ってはおけないと、近い地区であったので、すぐに現地に赴きじっくりと状況を聞いてみると、その地区は9地区の末端活動組織を束ねた広域事務局であって、これまでも毎年の申請や報告様式などはしっかりやれていました。全体ではExcelを使える人が一人いるので、その人に任せてしまっています。広域事務局の活動報告や金銭出納の独自様式があるので、各末端組織はそれにデータを入力したものがデジタルや紙で提出されるので、広域事務局員が一つずつ、それを本省様式に整理して、支払等の会計帳票も独自で作っています。確かに、楽ちん多面がなくても、この人一人で十分できてはいるのですが、かなりの手間になってしまっていました。末端ではパソコンが使える人がいる集落と使える人がいない集落があって、使える人のいる集落や事務局員は、「いちいち新しいものに替えなくても、今までのやり方で良いよ」というし、使える人のいない集落は、「事務が面倒なので活動を止めたい」という始末だということです。広域の役員たちとしては、今の事務局員が辞めたら事務処理を誰がやれるのかと気になって、早々と楽ちん多面を購入してみたものの、さて、どう使おうかというのがこの真相でありました。

 「楽ちん多面」を導入した地区でも、それほど便利にはならず、未だに事務局員が奔走している地区はたくさんあります。例えば関東のK地区は全6組織がみんな事務員におんぶにだっこで、末端組織は活動をいつやるよということしか連絡してこないので、いちいち全部、広域事務局員が出向いて行って、その活動組織の代表から、今日は誰と誰が来ましたか、何時からやりましたか、活動内容は何ですかと聞いていく訳です。写真も撮ってあげて、『上げ膳据え膳』対応をして、なんとか活動データが収集でき、広域事務局へ戻って楽ちん多面へデータを入力する。私が、「楽ちん多面を組織毎に配布して、クラウド共有しないと、事務局員さんが大変じゃないですか」と助言したら、「いやいや、末端組織にやらせたら、活動項目番号を入れ間違えたり、写真が無かったりするから、広域事務局で全部対応した方が間違いが少なく早いよ。楽ちん多面はデータ入力が簡単だし。組織別の整理も簡単にできるので、末端組織は何もせんで良いの良いの」と言われた。完全な末端組織過保護化である。

 また、北陸にある全65地区からなる大規模広域事務局を持つM地区は、これほど末端組織からの活動データの収集が多様なところも無いでしょう。活動状況をExcel(自前で作っていた)で作ってきて持って来てくれる組織もあれば、軽トラで広域事務局にやってきて、今日、誰と誰が来て、草刈りを何時から何時までやったよ。お茶買ったよ。領収書はこれだよと口頭で報告するだけだったり、以上のことを広告紙の裏に鉛筆で走り書きしたものを置いていくだけの組織もあれば、パソコンが得意な人がいる組織もあって、そういうところは、末端組織で楽ちん多面を使ってくれている。ですから、入力したデータをクラウドで管理するだけで広域事務局員はかなり楽になる。事務局長なんかは、「あまり『楽ちん多面』が幅を利かすと、便利になりすぎて事務局の作業費が取りにくくなるよ」なんて笑っている。実際には、チェックしたり統合したりするので、それなりに事務員は忙しいのだが、楽ちん多面導入前よりはだいぶ楽にはなったと聞いています。

 考え方も意識も能力もバラバラになっている末端組織を広域で纏めていくのは結構難しいことではありますが、事務ソフトなんていうものは、単なるツールであって、やれるところだけ使って、うまく行き出したら広げて行けば良いのです。運用体制をガチガチに決めて、全末端組織でモバイルを使って現場から活動項目や日時、参加者名簿のリストを送ったケースもありましたが、日の指す現場で、50人程度の出欠をモバイル端末の小さな画面から入力するのは結構面倒なことで、入力漏れが多くて結局止めたなんて地区もありました。

 確かに、運用体制をどのように整えるかは大切な問題ですし、ある程度は固めないといけません。でも、活動様式や金銭出納の様式で出してもらわねばならないデータは決まっているのですから、とにかく、一通りやってみるという事なのでしょう。ここで、戸惑っていてはいけません。どうしたら一番良いかではなくて、M地区やK地区のように、やれることをやってみるということで良いのです。

 松島の小島の数々は、決して初めからその位置に居てやろうとしたものではないのですが、何故かその位置に落ち着き、「景観」と言う「体制」に取り込まれています。そうです。これで良いのですよ。様々な位置にいる末端組織は様々な個性を発揮しながら、「小島」のようにいつのまにか体制に取り込まれるものなのです。無理に事務ソフトを押し付ける必要はないのです。事務ソフトのようなツールは小島に波がザブンと打ち寄せる程度のものなのです。形から入らない方が良いでしょう。

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