ワークショップをやってみよう(2)

2.百聞は一見に如かず

 皆さんは、ワークショップに参加したことがありますか。中には、進行役に当たるファシリテータをやったことがあるという人もいるかも知れませんが、言葉は聞いたことがあるが、やったことは一度も無いという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。もしかしたら、それがワークショップだと知らずに、すでに参加していた方もいるかもしれません。 今や、ワークショップはいろいろな研修会、講習会、話し合いの花形となりました。

 ワークショップの一番古いものは、クルート・レヴィンという人が1945年に「雇用差別撤廃のためのワーカー再教育」において実施したものです。彼は、ロールプレー(いろんな役割を演じることで相手の立場が理解できたり、実際にその事柄が起こった時に円滑に対処できる)や自由討議による学習で、意識啓発と実践的トレーニングを行いました。その後、教育やアートの分野で多くの実践がありましたが、地域づくりの観点で住民参加を謳って、初めて行われたのは、1970年代のローレンス・ハルプリンの方法となります。  このハルプリンの方法を受けて、日本でも、農村振興においては、昭和54年に、藤本信義、木下勇、三橋伸夫らの建築学の先生方が、山形県、長野県、新潟県などで、生活環境点検等を通して、土地利用計画や地区計画を住民参加で策定するプロセスを実践しています。 これらの活動は、生活改善普及事業においても、山口県の普及組織を皮切りに、昭和51年より全国的に多用され始めました。また、農林水産行政施策に関しても、ふるさとづくり等でこれまでにも多くの地域で実践されてきています。 しかし、農村部において、社会基盤そのものの整備が遅れていた時代には、ハード整備が先行し、住民参加で生活そのものの質をどう高めるかよりも、農村に都市的な便利さを求める方が先で、住民側に多様な価値観はあまりなく、どの人も都市的な生活をしたいと言う意識が強かったため、このような住民参加のツールは十分に機能してこなかったのかも知れません。

 もちろん、先進的な地域づくりを目指している自治体などでは、早くから現場で、ワークショップによる住民参加が行われてきましたが、農業農村整備に関わる現場では、一般的には平成13年の土地改良法の改正において、環境との調和への配慮と住民参加が盛り込まれた以降、ようやく徐々に浸透し始めたように思います。

 これまでに説明してきましたように、ワークショップと言うのはアートでも、教育でも使えるものであると言うことからしてもわかりますように、様々なタイプがあります。抱えている問題に対して、効果的なのはどう言うやり方かと言うことはありますが、一つの決まった方法がある訳ではありません。いくつかのワークショップに関する書物で、集落環境点検マップと構想マップづくり等がよく紹介されているため、まるでこれがワークショップだと勘違いされている方もあるかもしれませんが、これはワークショップの中の一つのツールにすぎません。また、ワークショップはひとつのプログラムではなく、一連のプログラムですから、一回で終わりと言うものでもありません。

 なんとなく、マニュアルがあると、その通りにやれば安心できるからマニュアル通りにやってしまいがちですが、ワークショップをマニュアル通りにやるほど、効果が低く、おもしろくないものはないのではないかと私は考えています。 地域毎の住民の特性は異なりますし、地域が抱える問題も異なりますし、参加者も異なる訳ですから、一回一回、その場その場で、何が一番効果的な方法となるかを主催者はしっかりと考え、いくつかのこれまでに紹介された方法を組み合わせたり、改変したり、あるいは新たな方法を模索しながら実践していくことが大切です。

 また、主催者はワークショップのプロでは無い場合が多い訳ですから、必ず成功するワークショップをやる必要はありません。プロに頼んで、必ず沸き立つワークショップをやってもらおうという考え方もあると思いますが、手慣れたワークショップで、住民を楽しませるのではなく、参加者といっしょに場を作っていくワークショップを持つことが大切です。そういう意味で、大変ではありますが、やはり、私は、主催者が支援者(行政、専門家等)と力を合わせてプログラムを作っていくことが大切だと思っています。

 初めての場合、とにかく、「なんとか目的を達成せねば」とか、「遊びばかりだと成果が得られない」と考え、堅苦しいワークショップになりがちです。また、事業の目的から離れると良くないと考え、違う方向に話し合いが進まないように進まないように工夫しているワークショップもよく見かけますが、ある程度方向性が見えてきたところで、方向の統一を行う意味はよくわかりますが、初めから自由度が制限されるのも、参加者にストレスだけがたまるだけで、あまり良い方法とは思いません。

 そこで、先ず、地域づくりの場合のワークショップの原則をお話ししておこうと思います。このことだけは、どんな場合も意識して実践してもらい、後は、野となれ山となれと思ってやってみて下さい。この原則が後々ボディブローようにじわじわと効くと思います。 <楽しさ>楽しい雰囲気で  ワークショップは継続することが大切です。そのため、参加する人が緊張することなく、楽しく、また興味をもって参加する雰囲気づくりが大切です。ワークショップの目的、規模、参加者の属性に応じた雰囲気づくりをしましょう。

<驚き>

 新たな発見を  日頃何気なく通っている場所でも、みんなと一緒に別の視点で見ると、新しい魅力を発見することができます。また、大人と子供、男性と女性では、まったく違ったものの見方をしていることにも気づきます。今まで、当たり前だと思っていたことが、他の地域の人から見れば当たり前じゃないことだってあります。お互いが、「教え・教えられ」、新たな発見をし、驚きのある活動をすることが必要です。

<触れて>

 五感をフル稼働した身体感覚  ものをしっかりと「見る」、人の言うことを「聴く」、「触って」、「嗅いで」確かめる、「味わって」楽しむ。人や環境に接するとき、人は何を使うかと言うと、結局は五感です。しかし、日常的生活においては、情報が先に脳に入ってきて、十分に身体感覚を持たずに情報を受けいれている場合が多いようです。ゆっくり五感を使って確かめれば、様々な疑問や課題が出てきます。ワークショップと言うのは非日常的活動です。是非、みんなで、この本来の人間の持つ重要な機能をフルに使え、暮らしの知が鍛えられるような状態を作るように心がけて下さい。

<みんなで>

 新しいコミュニケーション  ワークショップは、子供からお年寄り、男性から女性まで、多くの人が参加して一つのテーマについて、みんなで検討することができます。問題解決の合意形成を行うと言う単一的な目標を達成することに終始せず、集まって、同じ作業を通して、新しいコミュニケーションを作りながら、目的を達成することが大切です。

<想いを>

 地域の自由な意見交換  ワークショップでは特定の意見に偏らず、みんな平等に積極的な提案をしましょう。だから、どんな意見も否定してはいけません。また、「そんなことは前に言った」とか、「できない」とか、意見が違っても、違った意見を謙虚に受け止め、相手の立場に立った認識も必要となります。  なかなか具体的な方法の話に入れませんが、本当のことを言うと、この原則さえ意識して実践すれば、後は「百聞は一見にしかず」であって、いろいろと説明をするよりも、やってみたり、参加してみたりした方が学びとしては早く、しかも効果的です。 次節から、具体的な方法について説明していくつもりですが、是非、ワークショップに参加したり、手がける方がいらっしゃいましたら、これ以降の説明は無視して、「百聞は一見にしかず」を優先した方が良いと思ってください。

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