ローソクの科学

 ちょっと、遅ればせながら、旭化成の名誉フェローである吉野彰氏のノーベル賞の話題から話を進めることにします。話を進めると言っても、私がリチウムイオン電池に詳しい訳でもなく、また、私も科学者の一人であったとは言え、ノーベル賞を取られるような方について語るほどの研究者としての力量はないので、彼の研究そのものについての話ではありません。

 皆さんも一度はテレビや新聞などで吉野さんを拝見されたと思いますが、インタビューなどでもわかるように、吉野さんは我々の目から見ると、とても気さくな方のように見えます。研究に対する厳しさとあの朗らかさが如何に一人の個人の中に同居しているのだろうかと不思議です。

 もうだいぶ前のことになりますが、私は一度この方の講演会を聞いたことがあり、あのリチウムイオン電池は、この人の功績なんだと聞き入るとともに、とても話が面白かった印象が強く残っています。

 ノーベル化学賞を受賞され、久しぶりにテレビのインタビューや記者会見の様子を見て、この方にはノーベル賞とっていただきたかったと、その当時思ったことを今更ながらに思い返しました。専門外であるので、ずっと彼の研究を追いかけることはありませんでしたが、コンパクトデジタルカメラに入っているリチウム電池を見るたびに、あの方の研究だよなぁと、思い返しました。

 吉野さんが科学を志したきっかけになった1冊の本が、イギリスの科学者ファラデーという人が書いた「ロウソクの科学」だというお話は、今では、多くの方が知るところとなりましたが、確かこのお話もその講演会で聞いた記憶があります。

 ロウソクがなぜ燃えるのかについて書かれた本ですが、吉野さんは、これを読んで、子ども心に科学っておもしろそうだなと思ったそうです。どんな人も、ある時期に、誰かに刺激を受けて、こういうような分野で将来こうなってやろうという、必ずそういう局面がありますが、彼の場合は、それが「ロウソクの科学」だったというのです。

 私は科学者を目指したわけではなく、気が付いたら科学者になっていた訳なので、本や人との出会いが科学者への道を開けたとは言えませんが、考えてみれば、私にも、理系→科学→研究者という流れになった本はありました。

 私の理系への目覚めは、「理科なぜなぜ教室」という保育社が出していた本です。覚えている方はいらっしゃいますか。1年生から6年生まで一冊ずつあって、小学生時代、繰り返し繰り返し、ページが破れるほど読みました。この本は、生き物のことから宇宙のことまで幅広く書かれていて、覚えた知識は、教室で知ったかぶりして、友達に披露したものです。

「卵を産む哺乳類って世界に2種類だけいるんだぜ」机の周りに人を集め、

「カモノハシとハリモグラ」と勝ち誇ったように、威張っている。

 おそらく私は、「何故燃えるのか」には興味がいかず、友達の前で威張る方に関心がいってしまったので、ノーベル賞に届くような研究者にはならなかったのでしょう。(笑)

 でも、吉野さんの言われる、好奇心をくすぐるようなイメージが沸き上がることのすばらしさはよくわかります。自然と好奇心を持って、関心を持って、仕事に臨むことの重要さを彼が勧めるのもよくわかります。

 さてここで、農村づくりの話になります。この研究会の「言わせてもらえば」は、農村づくりのヒントをひも解くコーナーですので、単に、吉野さんの話とおめでとうと、私がノーベル賞に届かなかった理由の話で終わる訳がない。

 実は大切なのは、好奇心をくすぐるような関心を持つということは、農村づくりでも重要だと言いたいのです。これが今回の話の落ちです。

 農村づくりは、一般的に「関心」→「参加」→「発見」→「理解」→「創出」の順で進みます(今後、農村づくり講座なので解説していきます)が、やっぱり最初は「関心」でなければならないのです。興味がなく、問題を見つけられず、不思議だと思えないなら、何かしようということにはならないと思います。

 吉野さんの場合はたまたま科学であったけれど、科学だけが関心事項となる訳ではありません。今あなたの家の裏山のことでも、もっと近くのことで、家の花壇の花でも、近所のお寺のことでも良い、もちろん、田んぼや水路の状態やため池の状態でも良い。まずは、様々な農村の資源や環境の状態を、高い好奇心でもって見つめることが「農村づくり」の始まりです。

 農村づくりを進めるためには、常に好奇心を掻き立てていただきたいと思います。そのポテンシャルが高ければ高いほど、「創出」までの勢いがつくものです。

※落ち葉に関心を寄せると、森の声が聞こえてくる。ミシミシ、バリバリを歩く音に関心を寄せると、風景が見えてくる。

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。