ワークショップをやってみよう(8)

6.脳を鍛えて、農を考える

 ここまで、ワークショップとは何かについて考え、いろいろなワークショップの方法を紹介し、特にその中で、環境問題への気づきを養うのに有効な方法の一つである「集落環境点検法」についてのマニュアルを示しました。また、点検活動を展開する上での、技術ノウハウについてもお話をしてきました。

 ですから、ここまでのお話で、私が伝えたいワークショップの全体像はすべてお話ししたことになります。ここまでの事ができれば、みなさんは、十分にワークショップの専門家であり、後は、この方法を自分なりに地域のスタイルに合わせて実践し、経験を積めば、地域づくりを率先する優秀な地域リーダーなり、地域づくり支援者となることと思います。

 但し、まちがってはいけません。私は、はじめから、地域づくりでは必ずワークショップをやりましょうとは言っていません。よろしいでしょうか。大変重要なことを、ここでもう一度言っておきます。

 「形だけのワークショップならやらないで下さい」

 子供、女性、お年寄り、農業者からサラリーマンまで、多様な人々が、集まって地域みんなで地域の環境について考えよう、新しい活性化の方向性を探ろう、そのためにみんなで、問題を共有しよう、解決策を探ろうと言う活動に対して、ワークショップは行なわれるべきです。しかし、とにかくやれば良いと言うことではありません。

 また、「我が集落は、まだそんなワークショップをやれるようなレベルに達していないよ。人集めたって、意見も出ないから、役員だけで決めるよ、それが我が地域のオリジナルな合意形成なんだ」と思っていらっしゃる方がいましたら、それも、少し考え直していただきたい。

 ずっと、この講座で話してきましたように、環境に関わり、生活をしている以上、何も言いたくない人はいないのです。それは、十分に意見を出せるだけのコミュニケーションの場が形成されていないと言うことです。もし、「まだまだ我が集落は」と思っている方は、是非、もう一度、はじめから読み返していただき、ワークショップと言うやり方は、場合によっては、前進的、建設的な意見を集め、新しい地域づくりに繋がる可能性があるようだと考えて下さい。住民がそのレベルに達しているかいないによって、ワークショップができるかできないかと言うことはありません。

 只、これまでに紹介した方法、特に、集落環境点検の方法には大きな欠点があります。それは何かと言いますと、活性度の高い自由なコミュニケーションと言う意見交流の方法であるため、いろいろと出た意見やアイデアが形となって蓄積されにくいと言うことです。そこで、今回と次回の二回に渡り、ワークショップ講座の締めくくりとして、集落環境点検法を踏まえ、これらの欠点を補うことのできる新しい方法について、事例を踏まえながら、紹介しておきましょう。

 みなさんは、GISと言う言葉をお聞きになったことはありますか。

 これは、地理情報システム(GIS:Geographic Information System<ジオグラフィック(地理)インフォメーション(情報)システム>)の頭文字をとったものですが、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術のことを言います。

 「空間データ、地理的位置・・・」、分かりにくいなぁと言う感じでしょうが、車に付いているナビゲーターを思い出してもらうと簡単です。あれは、自分の乗っている車の位置が分かって、周辺の地図や建物の情報が次々とモニターに映し出されますよね。最近販売されている能力の高いナビゲーターですと、コンビニやレストランの位置とか、場合によっては、その店の定休日とかお薦め商品まで案内してくれます。まさに、あれがGISです。(本当はもっといろいろ機能がありますが)

 農村の場合だと、地図の上の道路や水路や農地や建物等の施設とその情報が整理されているコンピュータのシステムと考えていただきたい。

 この技術はかなり古くからありますが、平成7年の阪神・淡路大震災の反省等をきっかけに、政府においてGISに関する本格的な取組が始まり、平成19年には地理空間情報活用推進基本法が成立し、平成24年には地理空間情報活用推進基本計画が閣議決定し、また、官民データ活用推進基本法が平成28年に制定され、公共的なデータを国民が幅広く使う流れができ、様々な産業のICT化が促進され、ますます国を挙げての利用が進んでいます。そうは言っても、まだ十分な地図・地理情報が提供されていないのですが、それでも、だんだんとハードウェアもソフトウェアも低価格化が進み、簡易なGIS導入が可能となってきました。

 集落環境点検活動は地図上の位置を確認します。確認した位置にある施設等の現状を把握し、新たな環境要求を地図上に書き込むと言うことが基本ですから、これらのワークショップは、GISと親和性が高く、GISはコンピュータでのデータ整理なので、うまく使えば、これまでのワークショップの欠点であった、得られたデータの住民間の共有や蓄積を補うことができます。

 これまでによくある事例は、以前にワークショップをやったことがあるが、その成果は今はどこにいったかわからないと言ったようなことですが、こんなにもったいないことはありません。出されたいろいろな意見、共有認識したことをしっかりとデータとしてもっておき、新たに実施したワークショップと比べることは環境形成には不可欠な活動と言えます。両親や祖父母の時代に集落で検討されていたことが、時代を超えて情報として残っていると言うことはすばらしいことです。

 そこで、農村工学研究所(現:農研機構農村工学研究部門)では、平成19年~21年にかけて、株式会社イマジックデザインとの共同研究において、農村部で、少し勉強は必要ですが、地域住民が使えるようなGISツールとして農地基盤地理情報システム「VIMS:Village Information Management System(地物と地物データの整理システム)」とワークショップを支援する住民参加型農村計画策定支援システム「VMF: Valuation of Multi functions(地物や地物の属性データに対して評点を付与し、空間評価するシステム)」と言う二つのソフトを作成しました。

 決して、VIMSやVMFがなければGISを使ったワークショップができないことはなく、一般のGISツールを購入いただいても同じようなことができますが、VIMSやVMFは住民参加支援のためのワークショップ用のツールとなっていますので、他のものでこれをやろうとするとかなり困難ではありますし、経費も相当かかります。 さて、それでは次に、どのようにして、点検活動をGIS上に展開していくのかについて、その考え方の基本とVIMSを使って地域づくりを展開した事例を紹介し、その有効性をお話ししたいと思います。

※文頭写真は、ワークショップのアイスブレークでやった「地域の形をグループ全員の身体で表現しようというもの。初対面の人同士がこれで打ち解け始めます。

※続きはありますが、今はここまで。

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