教育改革と農村づくり

 先日、会員の方から電話があって、「山本先生、今日、町の小学校の校長先生と話す機会があったのだが、なんと来年度から、小学校では一人一台タブレットパソコンが配布されて、子供たちみんながタブレットを普通に使うようになるらしい。これを機に、子供たちの環境教育をがんばっている私たちの町では、農村づくりとも連携していきたいと思うので、是非、今後ともご指導よろしく」と言われました。

 私は、教育と農村づくりをICTによって連動することは、子供たちの環境教育の観点からも、持続的な地域力を養成する農村づくりの観点からも非常に重要なことであると、かなり前から主張しており、現役時代、それを実現するための具体的なコンテンツの開発についても自己流で模索してきました。

 平成15年には、まだ普及過程にあった携帯電話のFORM網を活用して、農家や専門家と小学校の授業をリアルタイムでつなぎ、米づくりや野菜づくりと農業の現状を学習してもらう食農教育を手がけ、当時、茨城県石岡市で実験授業もやらせてもらい、全国からたくさんの教諭の皆さんが見に来てくれました。実際に農業現場に行く課外授業も大切ですが、いつでも全員が行けるものでもなく、こういったリアルタイム双方向通信も必要なコンテンツではないかと新聞にも掲載されました。

 また、平成16年からは、子供たちの理科離れ対策と地域環境教育の推進を、ICTを介して行うという目的で、総務省のSCOPEという大型の研究プロジェクトの予算を頂き、新潟県十日町市里山科学館「森の学校」キョロロの学芸員と長岡技術科学大学のe-ラーニング研究開発室の先生たちと共同で、『住民参加型地域振興のためのユビキタスフィールドナビゲーションシステムの開発』を立ち上げました。その中で、主には動物や植物ですが、子供たちや地域住民が地域内で発見した様々なお宝である地域資源の写真を収集、整理し、ネットで公開する『ダイジンガー(この地域の用語で「だいじなもの」という意味)』と命名した地理情報システム(GIS)を開発しました。その中で、ダイジンガーを使った実験授業も旧松之山町の小学校で行いました。

 当時、ICT利用の教育プログラムがある訳でもないので、どういうシステムになっていれば学習効果が上がるのかとかはよく分からず、教育の専門家とも話し合いながらシステムづくりをし、学芸員の皆さんが試行錯誤しながら授業を進め、時には、先生や学芸員の皆さんが教育として求めていることをシステムとして実現できない部分もあり、開発には苦労しました。

 しかし、2020年度から始まる教育改革に伴うICTの導入には大きな期待をしています。ようやく、私の想いが実現するのだとワクワクしています。おそらくは今回の教育改革で、私がコンテンツづくりで成し得なかったこと、苦労したことも徐々に解消され、ICTを効果的に使った授業(教育プログラム)もたくさん生まれてくるものと思います。

 なぜなら、私が手掛けた「教育と農村づくりとICTの連動」は、単に三つを引っ付けただけで、ICT部分はデータの整理に過ぎなかったのですが、今度は、アクティブラーニングを核にして、考える力を養うツールとしてICTが意味を持って使われると思うからです。

 今の子どもたちが社会人となり、社会に影響を及ぼす20年後には、少子高齢化、グローバル化も今以上に進み、AIやロボットが人間の労働に代替する時代が訪れていると予測されています。今回の教育改革は、そのような社会において、AIではできない人間ならではの創造力や行動力、協調性を備えること、言語や文化、生活背景の異なる人々と協力し合って社会を支えていくことができる人材を育てることにあります。

 「実際の社会で生きて働く知識・技能を習得すること」、「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力を育成すること」、「学んだことを人生や社会に生かそうとする力・人間性を涵養すること」をバランスよく育むことになりますが、そのためには、子ども自身が興味や関心をもって、自分から学ぼうとする姿勢をつくり、周囲との対話やディスカッションを通じて自分の視野を広げたり、新たな気付きを得て、深掘りしたり、いろいろな教科で学んだ知識や生活で身に付けた知識を関連付け、自分なりに解決策やアイデアを創造したりして、自分の学びを深めていくことが求められます。これが『アクティブラーニング』の本質だと思います。

 そして、文部科学省は、アクティブラーニングの学習基盤として、外国語とプログラミングを科目化し、学校現場で子供と向き合う一人一人の教員の授業力を最大限発揮させるためのICTや民間教育ツールの活用を促進し、教員養成・研修の強化も図ります。さらに、ICTを活用した教育を行う上では、学校の情報環境整備も重要で、学校で使用する情報機器の整備やネットワーク環境について、海外の優れた取組も参考にしつつ、子供が利用する端末の「1人1台体制」や安定した無線LAN 環境などを構築することになります。

 会員さんが校長先生から聞いたタブレットを一人一台配布することの背景には、この『アクティブラーニング』の実現が引っ付いている訳です。

 ただ、私は、あまりにも急激な変革には賛同できない点もあります。いつも言っていることなのですが、政策は多様性が重要です。タブレットを持つことによる弊害もたくさんありますし、アクティブラーニングが万能であるとは思えません。教育だからこそ余計に、そのことには注意しなければならないでしょう。主体的で考えなくてもいい場面もあるでしょうし、詰込み型の教育場面もしっかりと残していかなければならないでしょう。

 なんの知識も持たないで、言葉だけは匠であったり、知識も偏っていたりと、対話で学ぶ以前に、相手の意見や知識に耳を傾けないで、自分の言い分だけを主張するタイプの子供も多いことは確かです。対話は大切ですが、知識の総合化、統合化に意味がある訳で、タブレットを開いて検索しましょうだけではだめですし、データを集めて並べるだけでもダメです。脳に留める訓練と脳で混ぜ合わせる訓練だけはしておかないと、想像力そのものも枯渇する可能性があるのではないでしょうか。「読み書き」が最初にあって、「記憶する」が次にある、そして「対話」に繋がるICTツールが必要で、それらで学習した子供たちは、自然と農村づくりにも大きな役割を果たせるようになるのではないでしょうか。

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