2020の基本計画策定へ

 農林水産省は2月21日、農業政策の基本指針「食料・農業・農村基本計画」の改定に向けた有識者会議を開き、今後10年の長期指標となる新たな基本計画の骨子案を提示しました。

 骨子案は4つのポイントで整理されています。一つめは、2030年度に向けた食料自給率の新たな目標の設定です。今回の見直しでは、生産努力目標に基づいた生産額・カロリーベースそれぞれでの自給率目標を設けることになりました。二つめは、輸入飼料によって生産された畜産物も国産とする食料自給率の指標の導入で、これも自給率目標に関する内容です。畜産農家の生産努力や消費者の実感を適切に反映するため、飼料自給率を反映しない「産出段階」の総合食料自給率目標も新たに目標として位置付けるということです。三つめは、担い手農家への農地集約、スマート農業の普及加速化で、これは経営政策と農村政策問題の柱となります。用語は隠れてしまっていますが、成長産業化と国土強靭化を合わせた基盤政策もここに入ります。そして、最後の四つめは、農林水産物・食品の輸出拡大と輸入や業務用の需要に応じた作物の生産強化となっていて、食料政策に当たる内容ということになります。

 これまでに、食料・農業・農村政策審議会において、今を代表する専門家が集まり、相当な回数の議論がなされてきた中での整理ですので、私が内容についてとやかく物申すことでもなければ、これまでの改定において、いつも目標値に達しない食糧自給率の問題についても、どうしていつもこんなに甘い予測になるんだとか、数字遊びになっていないか等と目くじら立てて怒ることでもありません。

 これから部分的な修正はあると思われますが、その方向性については、3月の閣議決定に向けて、すんなりと進んでいくでしょう。たいへんありがたいことであります。

 その中で、今日、私が注目したいのは、本体の内容ではなく、パブリックコメントのことです。農林水産省のホームページによりますと、令和元年12月14日~令和2年2月4日に寄せられた意見・要望は総計742件あるということです。今回は、令和元年9月6日から、意見聴取していたので、全体では1300件を超えるらしいのですが、とりあえず、基本計画の中身が十分に見えてきた12月段階以降の742件をざっと読んでみました。

 非常に興味深い点は、都道府県別の質問の数に偏りがあることです。インターネットと郵送での募集ですし、各自治体によって提出の仕方が異なることもあるので、一概に数だけを見て、特定の県が多いとは言えません。例えば、山形県は他県と比べて特別多い200件を超える意見が出されていますが、中身を見てみますと、同じ内容のものがいくつもの市町村から提出されているものをそれぞれカウントしているため、この数値となっているようです。それでも、それを勘案したとしても、山形県からはかなり多くの意見が送られたことは確かです。東京は人口も多く、一般消費者からの意見もたくさん出ていて、120件近くになっています。比較的意見が多いのは、愛知県、神奈川県が40件前後ですが、これも都市消費者としての意見が多いということで、妥当な数値です。農業関係者の意見として積極的に送ったのは兵庫県の63件で、それに次いで埼玉、長野、滋賀県もそれぞれ20件近くの意見が送られてきたようです。

 どの政策に対する意見が多いのかというと、私が読む限り目立ったのは、食の安全性の問題、畜産の生産に関する問題、農地維持に関するものです。特に、農業の大規模化・効率化一辺倒ではなく、日本農業の特徴である家族的な農業を大切にしながら、集落ぐるみでの営農組織の支援等、農業と地域の持続可能性の追求や消費者との連携といった目標を加える必要があるとの意見は多く、国連が決議した「家族農業の10年」「農民の権利宣言」「食料主権」「食への権利」の理念を基本計画に位置づけ、家族農業・中小規模農家の経営維持・継承にかかる支援を強化してもらいたいという意見まで出している人もいました。

 また、スマート農業の導入と連動した産地づくりについては、スマート農業の低コストでの現場実装を進めるため、農業者をサポートする組織の体制整備等を行ってもらいたいとの意見もあり、かなり現実を見据えた意見があることがわかります。さらに、畜産生産については、日本の畜産動物飼育の状況は世界的に最低レベルであり、畜産動物の福祉向上を目指してもらいたいという意見も多かったように思います。

 全体意見では、歯に絹かぶせぬ厳しい意見もありました。その中には、今日の食料・農業・農村が重大な危機に直面しているという認識とそれをもたらした重要な要因がこれまでの経済政策や農業政策にあったという自覚をもっとしなさいというお叱りもありました。

 しかし、それにしても不思議なのは、山形県を除いた他の東北5県、四国と九州の県、農業生産額から見て、もっと積極的に意見が出てくるのかと思いきや、北海道の17件に、千葉10件、茨城県に至っては1件だけで、意見がほとんどないということです。

 基本計画はすでに民意が十分反映されているということで、何も言うことがないということなのかも知れませんが、それにしても、静かすぎやしないか。また、まったく何も意見が出されていない県も10県程度ありましたが、これもどうしたものか。霞が関から遠すぎて、情報が届いていないのかと思ってしまう。

 審議に関わる有識者は、専門家だけでなく、様々な団体の代表で構成されている訳ですから、直接的ではなくても、なにがしかの国民の意見を背負っていて、審議の段階で国民の意見は十分に反映しているので意見が無いのでしょうか。コメントそのものが民意ということにはならないので、意見を言っても「暖簾に腕押し」、「糠に釘」ならば、奮闘して意見を言っただけ損したみたいになってしまうので、何も言うまいということになっているのでしょうか。また、行政が、このパブリックコメントを使って、計画策定に反映する仕組みを持っておらず、パブリックコメントは無駄な行政手続きの一工程となってしまっているからなのでしょうか。

 いや、私はパブリックコメントというものはそういうものではないと思っています。もし、すでに計画の中に書き込まれているなら、行政は、ちゃんと反映しているとフォローし、書き込まれていないなら、議論継承を担保し、政策と方向性が違うなら、違うという回答をした上で、計画は策定されるべきであって、この情報化時代において、選ばれた専門家が持つ以上の専門的知識を持った生の声は現場コメント中に存在するのであって、これは面倒であっても、行政は再度丁寧に読み、吸い上げる工程はやはり必要だと思います。

 行政のパブリックコメントの取り扱いも考え直していく必要があると思いますが、また国民側も、食料・農業・農村のこれからの5年間の政策方針が出されるというのに、黙っているということは無いのじゃないだろうか。無駄になろうがなかろうが、無視されようがされまいが、言いたいことは言う、一所懸命勉強して、考えたことは発言することは、毎日食べ物を口にしている国民にとって、とても大切なことだと思います。

※写真イメージ:パブリックコメントには、鳥獣害対策の要望も多かった。荒らされるとやる気がなくなり、放棄への道を辿ることとなる。被害額以上に深刻だ。

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