エンゲル係数を考える

 日本のエンゲル係数は、現在26%程度だということを皆さんご存知ですか。エンゲル係数とは、1世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合のことです。一般的な考え方としては、水や食料などの飲食費は人間が生きる上で不可避な消費活動であって、極端な節約は困難ですから、家計において、エンゲル係数が高いということは食費以外に生活費を回す余裕がなく、生活水準が低いと解釈するものらしいです。

 時代を表す数値でもあり、総務省の統計を見ると、戦後すぐの日本は65%以上であったものが、戦後の経済復興において、瞬く間に低下し、東京オリンピックの開催された昭和39年には35%になっています。また、その後更なる経済成長とともに低下を続け、平成10年には、23%に到達し、それ以降は、微妙な上下はあるものの、おおよそこの付近の割合になっています。結論を言うと、先進諸国については、ざっと家計の20~25%程度は食費ということになるということです。ただ、最近また新たな動向が確認され、平成17年辺りから上昇して、最近は3ポイントほど高い26%を維持しています。

 この上昇要因については、様々な学者先生が分析をしており、「物価変動」、「食生活や生活スタイルの変化」、「高齢化」とする方もいます。安倍政策の失敗に結び付けたい野党としては、アベノミクスによる生活水準の低下だと結論付けたかったのでしょう。当時の国会でも、いくらか議論されたのも記憶に新しいです。また、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア等では、日本と同様に、1995年頃から始まった通信革命が落ち着いたのを契機にエンゲル係数が上昇傾向にあることを理由に、「若者は食費を割いてでも、携帯料金を支払う」と通信経費の増大に結び付けた分析をしている方もいらっしゃる。しかし私は、考えたくは無いのですが、どうも、気候変動に伴う世界的な食料需給のバランスが崩れ、食料価格の上昇が生じ始めていることや、それも含んだ、中国の経済発展に伴う食糧危機が影響しているようにも読んでしまいます。なんとなく、じわじわと迫ってくるところは、今の新型コロナ感染者数の第4波の始まりみたいな嫌な感じです。

 まぁ、エンゲル係数を読み解くのは専門の先生方にお任せするとして、今回私が注目したいのは、エンゲル係数の数値に食に対する意識の違いが反映している点です。限度までエンゲル係数が低下すると、今度は、『エンゲル係数が高いということは食費以外に生活費を回す余裕がない』という一般解釈よりも、『食にどれだけ意識を向けているのか』ということの方が強くならないだろうかということです。そして、それはGDPとは関係しないということです。

 世界各国のエンゲル係数のトップ30を並べてみて、参考として、外食比率とGDPの順位/10を比べてみました。私が興味を引くのは、数パーセントの違いではありますが、先進諸国の順位です。2011年のデータ比較になりますが、スペインは34%、ギリシャは31%、アイルランドは28%と、外食比率の高い国はエンゲル係数が比較的高い。しかし、外食比率がそれほど高くなくても、イタリアと日本は26%、フランスの24%と、食文化にこだわりのある国は高めである。それに対して、アメリカは15%、ドイツ、オランダの20%、イギリスの22%です。ちょっと失礼な言い方ですが、料理に深みのない国は低めではないでしょうか。

 おいしさというのは、人それぞれの好みであり、比較することは困難です。アメリカやイギリスの料理が悪いと言うことはありません。でも、この順位を見ると、一般的に言われるグルメ国ランキングとエンゲル係数はそれなりに対応しているように見えます。世界うまいもの国ランキングは、国際メディアであるCNNが行った調査や日本のトラベル会社が行ったものなどいろいろあって、それぞれ順位は異なりますが、上位にランキングされるのは、イタリア、日本、ギリシャ、スペイン、フランスであり、日本人に好まれない食は、アメリカ、イギリス、ドイツであることは間違いなさそうです。

 ということは、エンゲル係数は、国民の食に関する関心度も表していると言えるのではないでしょうか。その関心とは、『旨い』というのももちろんありますがが、安全・安心、郷土愛も含めたものであり、食育やオーガニックの推奨へも関心は及んでいくものではないのかと思います。

 確かに、エンゲル係数は、生活が豊かでない時代では生活水準の高低を表すかもしれませんが、30%台を切って来ると、生活の水準よりも、食へのこだわりに関わるものが数値に現れると言っても過言ではありません。

 エンゲル係数は無理に上げるものではありませんし、上がったからと言って、すぐに食料消費に結びついて、農業総産出額が上がったり、ましてや農家所得が上がるということではないのですが、スーパーへ行って、とにかく安いもの安いものへと流れるのではなく、国産に拘る、地消地産に拘る、有機に拘る、機能性に拘る、生産者との絆に拘る、食品ロスに拘るという姿勢を続けることは、日本の農業にとって、消費者が最も考えるべきことであると思います。

 日本の農家は国産生産物の消費拡大に向けて、海外産の価格の脅威と闘いながら、絶え間ない努力しているが、生産者が消費者のニーズを意識するばかりではいけない。消費者が普通の消費行動で良い訳が無いのだ。最近は『安いものを買う』から『ブランドや品質に拘って買う』という消費行動が増えつつあるようだが、服や靴やバックではなくて農産物にその消費行動を向けてもらいたいものだ。特に、高額所得者のエンゲル係数はもっと押し上げて良いのじゃないか。

 そろそろタケノコの季節だ。スーパーで水煮のパックを見ると、国産は中国産の2倍~3倍の価格はしている。青椒肉絲(チンジャオロース:筍と牛肉細切の中華味の炒め物)ぐらいなら中国産でいいかなんてついつい思ってしまうが、いや、あのタケノコの独特な風味は日本産でないと出せないと正直思う。消費者が国産の価値に拘っていけば、少しは日本の農業を助けられるのではないだろうか。

 私は毎年、京都山崎の国産タケノコに拘って頂くが、これを食さないと春が来ない。私は高額所得者じゃないが、この山崎のタケノコだけは、今月のエンゲル係数を押し上げても、携帯の利用を控えても、なんとかありつきたいと思っている。

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