女性役員の比率

 6月5日、政府の第70回男女共同参画会議会合で、男女共同参画の推進に向けた重点方針「女性版骨太の方針2023」の案が示されました。この中では、東京証券取引所の最上位「プライム市場」に上場する企業の役員について、2025年をめどに女性を1人以上選ぶよう努め、2030年までに女性の比率を30%以上にすることを目指すとしています。

 ヨーロッパでは、一定の割合で女性役員の登用を義務づける「クオータ制」(実際には女性だけではなくマイノリティへの割り当てを言い、男女格差についてはジェンダー・クオータ制と言う)を取り入れる国や州が多くあり、女性役員の比率はフランスの45.2%を筆頭に、イタリアやイギリスなどで40%を超えています。少し遅れているアメリカでも31.3%となっていて、OECD各国の平均は29.6%なので、これぐらいが目標値としての落としどころではないのということみたいです。「欧米並み」って言う奴ですね。日本は現在、上場企業では2.2%しか達成していませんが、本当に後7年で、「欧米か!?」と言えるようになるのでしょうか。

 日本の多くの企業がこの目標値をどう見ているかと言うと、考え方には賛同するが、現実的には無理だという感じみたいです。ですから、経団連もそれを配慮して、達成は求めないらしい。つまり、初っ端から努力目標となってしまっていて、やる気があるのかないのか、なんとも心許ない。

 女性に人気のない企業もあるだろうし、歴史的に男性が多い職場で、そもそも女性職員が少なくて、役員に上げようにも人材がいないという企業もある。そういう企業が目標に近づくためには、採用から考え直さないといけないし、人材育成の方法や組織体制や制度も変えていき、企業体質そのものを体系的に改善し、多様化を目指さなければならない。なんと言っても、日本社会の子育てのライフスタイルそのものの意識変革が必要であり、一筋縄ではいかない時間のかかる問題であるのです。「紅一点で、女性職員一人だけいるので、その人を役員にするね」ってぐあいに簡単にはできないということなのでしょう。

 大手下着メーカーのワコールは、社員の9割は女性だと言うのに、管理職比率は27%で、役員数も1名、資生堂やコーセーみたいに女性中心の役員構成もあるものの、トヨタなんかは、執行役員は男性ばかりで、こりゃ目標値はけっこう大変な数字なのだと改めて思う。

 私の古巣である農研機構は国立研究開発法人であり、上場企業ということではないが、現在の役員を見ると、15人中女性は2人で、13%です。女性の管理職比率の目標値は13%としているが、実数は10%程度にとどまっている。3200人程度の職員数の内、女性の割合は21%と少なめであるが、高学歴者が多く、能力的な男女差はないはずなので、女性割合が21%なら、役員の目標値も13%ではなく21%で良いようにも思うし、役員ももう一人女性がいてもおかしくないが、なぜ、ちょっと低くめに設定しているのだろうか。日本の目標もそうである。何か控えめな数値である。

 到底実行できない目標は立ててもしかたないということで、控えめな数値としているなら、もうその考え方自体をやめないと、いつまで経っても、ダイバシティ―社会に到達しない。政府の目標値はいつも中途半端で信念がなく、欧米ばかりを見ている。政策の実行によって実質となる値を予測したものであると言いたいなら、それでも良いが、それならもっと実行計画を明確にしないといけないでしょう。そうじゃないなら、ここは本来あるべき姿である50%を目標数値とすべきなのです。日本はそこを狙うと強く言って欲しい。

 女性の視点が有用に働く企業なら、女性役員が7割も8割もあっていい企業もあるだろうし、これまでの男性中心の体制を維持することが企業の存続・発展にどうしても必要なのだと言い切るなら、無理に女性を登用しなくてもいい。自然体で女性の全体比率が上がることが望ましい。

 また、多様な人材ということであるなら、外国人の起用だってあるだろうし、もう男女云々というところで間違っているのかもしれない。LGBTもすべて含めて多様性を求めるべきなのだろうと思う。日本はこういう多様性問題において、いつも他人事みたいになっていること自体が気になって仕方ない。

 役員の女性比率問題は、農村コミュニティでも発生する問題です。今はほとんどの組織が男性中心で動いているが、これも良くない。いきなり集落自治の役員の体制や土地改良区の役員体制を変えるのは抵抗があるなら、農村づくりの推進役員だけでも良いので、是非、男性、女性を満遍なく配置してほしい。会長が男性なら、副会長は女性、会計、書記も会計男性なら書記は女性とか。各委員長も副委員長を設けて、男性が長なら、女性が副、女性が長なら男性が副として、役割を分担すべきではないか。 農村は本来、男社会ではありません。社会の風潮が男性社会のように仕立てているだけです。少なくとも、農村づくりにおいては、『役員の女性比率50%』を高らかに掲げて、逆に企業に、「そんなに女性比率高いのか。農村か!?(欧米か!?ではなく)」と言わせたいものです。

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。