絶対ないとは言えない

 ニュースではよく聞くことですが、先日、本当にそんなことがあるのだと、身をもって経験しました。近くのスーパーへ買い物に行った時に、駐車場で急発進した車に轢かれそうになったのです。列になって並んでいる駐車場の車止めのある側の歩道を歩いて、スーパーの入り口に向かっていると、その車は急にバックしてきました。車止めが付いていますし、歩道になっていますから、歩道側へ車止めを超えてバックして来るとはどうしても考えられませんが、その車は、あっと言う間にあり得ない運転をして、歩道側に入って来たのです。週日の午前中で、私以外に他の人はいなかったので、あと数センチの所で後ろに仰け反って事故は避けられましたが、土日なんかは小さな子供たちもたくさん通るところなので、もし子供でもいたらどうなっていたかとヒヤッとしました。

 急発進の事故は最近特に多いようで、毎週一回ぐらいは耳にしますが、その多くは高齢者の運転者のブレーキとアクセルの踏み間違いみたいです。私が遭遇した事故未遂の車も、高齢者専用の駐車スペースからバックして来ましたから、おそらく高齢者の運転手の運転ミスなのだと思います。

 状況はニュースでやっているのと同じようにパニクった感じでした。しまったと思ったのでしょう、急いで前へ戻ろうとしましたが、車止めを超えるためにさらに前進アクセルを相当強く踏み込んだみたいで、もの凄い勢いで前に出たものですから、車止めに片輪だけ当たって、右方向へ曲がりながら出てしまいました。そこでブレーキを踏んで停まっておれば良いものを、さらにそれを修正しようとアクセルを踏んだようで、今度はかなり前へ出過ぎて、右側から駐車場を通り過ぎようとした車とぶつかりそうになりました。事故にならなくて良かったし、私も轢かれなくて良かったが、ひどいのはそれからです。その車、そのまま運転手は降りても来ず、何もなかったように走り去っていってしまいました。そもそも私に気づいていたのかどうかも分かりません。

 ひどい運転だなとは思いますが、こういう運転をする人は、案外何も見えていないのかも知れません。自分がどう進みたいかだけで運転しているのではないでしょうか。高齢者専用の駐車スペースから発進した軽自動車には四ッ葉マークがあったので、おそらく運転者は高齢者なのでしょうが、早く免許を返納された方が良いのではないかなと思います。

 ただ、こういうものを見た時、「自分は絶対にそんな運転はしない」と思ってはいけないのだと思います。『人の振り見て我が振り直せ』ではなく、『人の振り見たら我が振りと思え』と自戒的に物事を解釈した方が良い。

 最近、私もかなり運転に自信がなくなってきました。そこで、今の車には急発進防止をはじめとしてほぼすべての安全サポートのオプションを装備して、自分の認知能力の弱まった部分をできる限りテクノロジーで補うことにしています。こうすると、あまりにもいろいろとITセンサーが働きすぎるので、どちらかというと煩いくらいの指示があります。中央分離帯をちょっと踏んだだけで、ハンドルが重くなって、自動的に中央に戻ろうとしますし、信号で出遅れると、「信号が変わりました」と声で注意してくる。更に、ちょっとよそ見しただけでも、「ピッ・ピッ・ピッ」と鳴って、赤いサインが付き、「運転姿勢が正常ではありません」と怒られます。駐車の時には、隣の車や車止めとは十分に間隔が空いていると私は思っているのに、「右です」、「左です」と注意を促されるので、終いには「問題ないから黙っとれ!」と言い返したくなります。それでも、このお節介テクノロジーの安全サポート機能が功を奏することも多々あります。私が一番重宝しているのは、ブラインドスポットモニターというもので、車線変更時に後ろから高速で迫る車が死角になって気づかない場合をセンサーで知らせてくれるものです。あれは素晴らしい。私は右肩の骨折以来、少々右後ろへ首を曲げるのがおろそかになる癖があるのみたいで、右車線へ移動しようとして車が来ていることに気づかずに慌ててハンドルを戻すことがありますが、この安全サポート機能のおかげでこの危険をかなり回避できるようになったと思います。今のところ、ブレーキとアクセルの踏み間違いでブレーキを自動で掛けてくれる急アクセル加速抑制がかかったことはありませんが、もしかしたら近い将来、私だってこの何も知らずに逃走してしまった運転者と同様の事故未遂をしてしまうかも知れません。あまりテクノロジーに頼り過ぎてはいけませんが、煩いぐらいに注意してくれる安全サポートがこれからは大きな頼りであります。

 息子たちと話をしていて、「親父は何歳で免許返納するつもりだ?」と聞かれると、「75歳かな。それぐらいまではなんとか運転させてくれよ」と回答します。車好きの私としては、本当は80歳ぐらいと言いたいところを少し控えめに応えます。しかし、免許返納は年齢で判断する問題ではないのでしょう。確かに車が使えなくなると、生活がしにくくなるし、行動範囲が狭まることでより老化が促進されるようにも思います。そう言えば、父も80歳まで運転していましたが、私が車を取り上げてから急に老いぼれたように思います。運転免許の返納は難しい問題ですが、どこかで踏ん切りはつけなきゃならない問題ではあります。

 私は「絶対にあんな運転はしない、できないだろう」と思ってみるものの、「いやいや、私の運転だって、もしかしたらあんなものかも知れない」と思った方が良いのです。メンタリストの方たちは「老化を防ぐ方法としてはネガティブに考えないとか、自分は若いと思って生活をすべきだ」などと言います。気持ちは若くありたいですが、認知機能の低下は否めない事実であります。私は逆に、『絶対ない』なんて頑なに思うようになったら、それはもう老化しているということなのだと思っています。

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