また変わる防災情報伝達

 『特別警報』と『危険警報』はどちらがより危ないのかよく分かりません。「特別」という用語は「性質が違う」という意味であって、決して「上」と言う意味ではないからではないでしょうか。また、『注意報』と『警報』の違いはなんとか理解できますが、『警報』と『危険警報』の差もピンときません。辞書などで調べると、『警報とは災害や危険が迫ったことを伝えること』となっています。そもそも警報には危険は内包されているので、差が分かりにくくなっているのではないでしょうか。

 災害情報の専門家らによる検討会が、去る6月18日に防災情報の見直し案の最終とりまとめを公表しました。現行法である災害対策基本法が2021年に制定された時も私は言わせてもらいましたが(言わせてもらえば「避難情報は警戒意識に届くのか」2021.5.3投稿)、検討委員の中に「言葉」のプロが入っていないので、なかなかいい用語が生まれないのではないでしょうか。結局、今回も2年以上に渡って、防災気象情報に関する有識者検討会が開かれ、洪水、土砂災害等の災害種間の統一性は増したものの、用語選択についての議論は発散したまま終了し、「座長に一任する」という異例の対応で、『危険警報』を新設してレベル4にあたる情報としてまとめるにとどまってしまいました。そして、私たち国民は、「また、なんか表現が変わるみたいだ」、「また覚え直しか、面倒だな」と言う感じです。

 検討会は災害や気象の専門家やメディアの関係者が集まっているって言っても、みんな偉い人ばかりで、とにかく思考が固いように思います。災害に関する情報は人命がかかる問題だから間違いがあってはならないと、慎重に考察していることはよく分かりますが、みんな思考が固いので、考えて考えたその挙句の果てには意見が分かれてしまうことになります。参考で良いのですから、それこそ、言語学者の金田一秀穂さんとか、コピーライターの糸井重里さん、なんなら三谷幸喜さんとか、最近ならバカリズムさんでもいいから(‘でも’は失礼かな?)、ちょっと横からチャチャを入れる人を入れて、もう少し柔軟に考えて行かないと、見直しに見直しを重ねている内、何が本筋なのかを見失ってしまうかもしれません。

 冒頭で申しましたが、今回は下表のように、洪水、浸水、土砂災害、高潮のそれぞれの災害毎に用語を統一して、さらに住民のとる行動に対応した警戒レベルをつけて整理したというところで、防災情報としては綺麗になったとは思いますが、今度は切迫感がまったく見えてこなくなったようにも思います。

 私は専門家ではないので、たいした意見にはなりませんが、私なりに少し分かってきたことがあります。座長の先生は、「全て同じ表現形式で統一できた。シンプルでわかりやすい表現への大きな一歩にはなったと思っています」とおっしゃいますが、山本徳司が黙っていないということで、お言葉を返すようですが、「統一性の問題よりも、国民にどう伝わるかの問題であることを忘れてもらっては困ります。専門家として示したい情報と、避難するための住民の警戒意識の情報は異なり、すべての情報を持っていないと、住民は行動に至らないということは無いのではないでしょうか」

 つまり、情報が多すぎるということではないでしょうか。自分のところで「レベル4土砂災害危険警報」が発令されている場合は、それはもう、「避難指示:危険な場所から全員避難」であるということが伝われば良いのであれば、「危険警報」とか「警報」とか言う用語に関係なく、土砂災害が起こりそうだから全員避難ということにしかならない。同様に、「レベル5洪水特別警報」についても、『特別』感は専門家の間で交してもらえば良い情報用語であって、住民からすれば、『特別』とは何ぞやなどと考えることはなく、すでに洪水が発生している可能性もあるから「安全確保:命を守る最善行動を選択」ということで十分伝わるように思います。黄色から黒に至る色のついた警報レベルとその時に住民が取るべき行動とそれが何の災害に起因するものかだけが明確になれば良いと思うのです。

 専門家がそれぞれの専門分野の意地で用語を残したいと思い過ぎているし、メディア関係者は間違いなく伝えないといけないと思い過ぎているのではないでしょうか。どうしても用語を引っ付けたいなら、「危険」、「大危険」、「超危険」ぐらいの方が良いと思うが、これだと学術的ではないということなのかも知れない。とにかく、こういうものは定着が一番大切なので、適当なところで妥協して、とりあえず今回はこれにしましたなんて言わずに、せめて10年は運用しますと言う自信をもって案を出してきてもらいたいものです。また、国は安易に報告書に従うのではなく、国民と専門家の間に立って、責任逃れのない用語選びをしてもらいたいものです。26年度から運用らしいので、もう少し考える時間はありそうです。

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