WBCで恥ずかしくない感動を

 スポーツ観戦では多くのドラマがありますよね。先日、イタリアのミラノ・コルティナで冬季オリンピックが開かれ、そこでも、もちろんドラマはたくさんありました。例えば、フィギュアのりくりゅうペアの闘いは、『史上最大の逆転劇!』と言われています。フリーで世界歴代最高を更新する異次元の158・13点をマークし、合計231・24点でショートプログラム(SP)5位から巻き返して、金メダルを獲得しましたが、これもショートプログラム終了時の氷上の泣き崩れからのフリー終了時の自信に満ち溢れる笑顔の落差を見ると、多くの人が感動の渦に呑み込まれたのではないかと思います。これだけじゃない。スピードスケートの高木美帆さんの最期までの根性の走りも、これまでの経緯を知っている人から見れば、尋常じゃないタフさに驚き、感動しないではいられない。しかし、それらはだいたい日本人ががんばったことに対してのものであり、これは、ナショナリズムに内包された『日本チャチャチャ』の感動であり、海外の人や海外の人どうしの試合にはそういう感動を覚えないのではないだろうか。

 「いやそんなことない、サッカーワールドカップで、ロナウドやメッシのテクニックを見たら感動するよね」って言われる方も多いとは思いますが、それはスポーツの面白さとしての感動であって、日本チームや日本人が勝つ感動とは別ものであるように思います。

 ザ・イエローモンキー、通称イエモンっていうバンドの『JAM』って曲をみなさん知っていますか。ちょっと古いのだけれど、あの歌詞の中に、こんなフレーズがあります。

♪外国で飛行機が堕ちました
 ニュースキャスターは嬉しそうに
 乗客に日本人はいませんでした
 いませんでした いませんでした
 僕は何を思えばいいんだろう
 僕はなんて言えばいいんだろう
 こんな夜は君に逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて
 君に逢いたくて 逢いたくて
 また明日を待っている♪   (作詞作曲:吉井和哉,1996)

 私は、この曲を初めて聴いた時、確かに、私たちは直ぐに、日本人がどうなったかばかり気にするよなって思いました。日本人と外国人を差別化している訳じゃないし、ニュースキャスターも決してニコニコしながら情報を伝えたとは思えませんが、国民みんなの心の奥底にナショナリズムが眠っていて、日本人ファーストは自然体で定着しているものなんだと思えます。そして、その気持ちの一端があからさまになった時のばつの悪さ、自分の心の小ささに居た堪れなくなり、親しい人や恋人と逢うことで、有耶無耶にしてしまいたくなるのも頷けます。

 しかし、スポーツの観戦では、ときどきナショナリズムを越えた感動に出会えることがあるようです。それは、スポーツの面白さとしての感動とも、日本チームや日本人、または押し国が勝つ感動とも違います。それが、先日のWBCの韓国対オーストラリアの予選ラウンドの2位決定戦だったように思えます。それほど野球に精通していない私にとっては、はっきり言って、どちらが勝ってもそれほど感動があるものではく、大谷さんや鈴木さんが何本ホームランを打って勝ち進むか、予選リーグ一位でも二位でもいいから、日本が順当に勝ち進んで本戦に行ってくれればそれで良いという思いぐらいでしか見ていません。ですから、あまり真剣に見ていなかった訳です。しかし、皆さんご存知だと思いますが、この試合、韓国とオーストラリアは同じ勝率なので、韓国が2位となって予選を通過するためには、“5点差以上かつ2失点以内の勝利”を達成しなければならないらしく、それ以外ならオーストラリアが2位となり、まさに1点の攻防であったのです。そして、ドラマは幕を開けます。韓国が5点差にしたら、すぐにオーストラリアが1点を入れて、4点差に引き戻し、オーストラリアが優位に立つ。1点を巡る、真の生き残りのシーソーゲームが展開されたのです。結局は、韓国に軍配は上がったのですが、おそらく、両チーム、選手全員の「勝利へ向かう魂」の総量が尋常ではなかったのであろう、見ている内にどんどんと引き込まれていきました。最終的に、ナショナリズムなんて吹き飛んでしまい、野球を愛する女神様が降りてきて、平和的にどちらのチームにも盛大な拍手を送る喜びを感じました。

 どっちが勝った負けたと感じる気持ちがある内は、きっと戦争は無くならないのだろう。自分自身が持つ断ち切れないナショナリズムへの恥ずかしさを隠さず、「僕は何を思えばいいんだろう」と悩める者になりたいものです。イエモンの歌詞にある飛行機が堕ちて、ニュースキャスターが日本人はいませんでしたと伝えていることと、韓国対オーストラリア戦は、まったく異なる状況なのですが、何故か、私の心の中ではあからさまなナショナリズムへの恥ずかしさとして一致してしまったのでした。

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