農村づくりの技法(1)

1.プロセスづくりのススメ

 農村地域の土地と水を適正に管理し、農業生産を行なうことによって、多面的機能の維持向上に努め、農村地域の環境を守り、生産だけではなく、様々な地域資源を活かして、地域振興を支えているのは一体誰なのでしょうか。農村は国民のふるさとであるとして、国民の期待を受け、農村地域の環境を維持するため、実質的かつ具体的に地域づくりを考え、活動しているのは一体誰なのでしょうか。それは紛れもなく「地域住民」、そこに居住し、地域の環境を日常的に享受し、維持・変革に携わり、地域の文化を築き、伝承している人々そのものです。

 まるで、農村地域の自治体の担当者が農村づくりの計画主体となっているように見える場合がありますが、それは、あくまでも本来の計画主体であり、形成過程の中で実質的に行動する地域住民の委託を受けて、議決権を持つ議会の負託を得ながら、彼らが住民の持つ地域づくりの計画を形にしているだけで、推進しているのは住民自身に他なりません。

 そうです。ですから、農村づくりを支援する人(以下、農村づくり支援者と言う:自治体の担当者、地域の代表、研究者・専門家など)は、住民が主体となって進める農村づくりを円滑に推進していくために、そのための技能を修得し、支援に対する「優秀な受託者」になることが必要です。 しかし、これまで、農村づくり支援者は、果たして「優秀な受託者」となっていたのでしょうか、また、住民の方も「優秀な委託者」になっていたのでしょうか。もちろん優秀な受託者と委託者は全国にたくさんいらっしゃいます。しかし、全体的に、委託者と受託者の間に計画の一方向の流れが強調され、受託者と委託者が相互に連携し合う接点は見えない場合も多いように感じますが、読者の皆さんはどう思いますか。

 さて、それでは、行政機関等の担当者や研究者、専門家等の地域づくり支援者は、「優秀な受託者」としてどんな技術・技能を持たなければならないのでしょうか。  住民の意向を把握する技術、それを計画に展開する技能、計画の科学的根拠を説明する能力、合意形成に至らしめる技能、実際に整備し、保守する技術等いろいろと技術・技能は必要なのですが、最も重要なのは、住民が農村づくりの計画を円滑に推進していくために、適正なプロセスを組み立て、プロセスを円滑に進めるための情報を住民に提供する技術であると考えます。どんなに一つ一つの能力が長けていても、プロセスの順番を間違え、情報提供の場面を間違えると計画は頓挫するものです。

 「優秀な受託者」となる農村づくり支援者が果たすべき役割は、農村づくりのアイデアそのものを切り売りしたり、個人の思い入れで一つの方向へ住民を導いたり、農村づくりのシナリオを書いたり、あるべき姿を創造することではありません。そういうことは、本来は優秀な委託者である住民が行なうことであり、農村づくり支援者は、住民が円滑に農村づくりを進めるためには「どのようなプロセス」と「どのような情報」が必要かを冷静に探り出し、適時、適材、適所で地域住民に提供することになります。

 この考え方には反対者がいるでしょう。住民は何も分っていないのだから、行政機関等の担当者や知識を持っている研究者や専門家が導かなければ、活性化などは夢のまた夢であると言う意見を持たれている方は大勢いると思います。また、私の考え方は青臭いと言われる方もいらっしゃるでしょう。町長、村長の鶴の一声、有識者の助言を受け入れて活性化した事例だっていくらでもあるじゃないかと言いたい方もいらっしゃるでしょう。しかし、その場合の地域活性化の多くは、単に経済的な活性だけの成功であったり、一時期的な成功であったりで、住民自身が納得した地域活性化の成功事例とはなっていないものが多いと思います。真に持続的な地域活性化の成功事例を見ますと、質の高い農村づくり支援者が、専門的な技術力の元において、地域住民の地域を考える熱意と学習意欲をかき立て、そしてそれを自主的に実施していく人づくりと組織づくりが元になっており、彼らが先導しているとは言えません。

 さて、農村づくりは、地域住民の並々ならぬ努力によってなされるべきであることは提唱いたしましたが、それではいったい、農村づくりはどのように進めれば良いのでしょうか。

 そこで、ひとたび振り返ってみると。農村づくりを行うに当たって、「あり方」や「整備の視点」と言った、基本的考え方や地域資源の類型化と活性化のパターン、具体的な環境整備手法の分類等は、かなり明確になってきていますが、それでは、それをどんな段取りで整備していくのかと言った「やり方」については、十分にその方法が示されていないことに気づきます。

 本来、並々ならぬ努力はゼロから築き上げて行くべきものであるため、農村づくりに当たって、そのやり方を伝授することが、良いことか否かはわかりませんが、少なくとも先人の教えを無駄にすることなく、うまく農村づくりのステップを踏んだ方が、効率が良いことは確かですから、これから、農村づくりを実践しようと思っている住民の代表や、彼らを支える支援者にとっては、これらのやり方が、明確に体系化されていくことが望まれていると思います。

 農村づくりに当たって、「あり方」がある程度熟成してきている今日、次の問題は、「やり方」はどうするのかと言った大きな壁を乗り越える事です。

 そこで私は、この「やり方」に答えるべく、ここに農村づくり技法の一つとして、プロセスに基づく手法を提唱し、その手法修得の方法と現場での有効活用についておススメしたいと思います。

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