ワークショップをやってみよう(1)

1.真の住民参加を目指して

    住民参加の農村づくりを目指すにあたって、地域づくりワークショップなるものが開かれることがよくあります。この「ワークショップ」と言う言葉は、最近では日常的に使われるようになり、地域づくり以外でも、様々なセミナーや勉強会やシンポジウムでワークショップなるものが開催されています。また、地域の組織運営をされている方も、講習会などでこの言葉をよく耳にすることでしょう。地域づくりを指導する行政や、地域づくり支援者やから「ワークショップをしてみては」と言われたことがある方もいると思います。  今、住民参加のツールとしての『ワークショップ』は、全盛時代に入ったと言っても過言ではありません。住民参加による「地域環境計画づくり」、「地域振興計画づくり」と銘打って、全国津々浦々で、地域住民が集会所や公民館等に集まり、ワークショップが実施されているようです。

    猫も杓子もワークショップ、何はともあれワークショップと言う感じですね。

 地域づくりなどで展開されるワークショップは、基本的には、地域住民が集まり、一定の作業を通して、地域の問題点を探り、将来の解決策や実効性の高い計画を策定していく方法として位置づけられます。 例えば、 「地域特産の大根をブランド化して、もっと大々的に売っていきたいのだけど」 「農業用水路で子供たちが遊べる場所があれば良いのに」  「この道路、もうちょっと幅が広かったら車のすれ違いが楽なのに」 等の住民の要望や想いを、地域の環境形成や活性化に反映させていく場合に、これまでは、地域住民に対してアンケートをしたり、意向の聞き取り等を行って、行政の技能で計画を作り、整備をしてきましたが、昔のように同じ価値観を共有できる農家中心の集落が少なくなり、集落内に多様な価値観を持った人々の暮らしがある場合に、これまでの役員、重立の話し合いだけでは合意ができず、直接、価値観を異にする様々な職業、老若男女の住民が集まって話し合える場での様々な活動を通して、地域づくりが適正に展開されなければならなくなりました。

    もちろん、集落の農業生産組織、自治会や公民館などの社協活動がそれを担うことは間違いありませんが、人と暮らしの多様性が生まれたことにより、これまでの既存組織だけでは対応しきれなくなってきたのではないでしょうか。(図1)  

図1 子供たちによる地域景観評価会

    そこで、出てきたのが「地域づくりワークショップ」と言う住民参加のツールです。よく地域住民と方々とお話しをしていますと、「ワークショップと言う言葉がよくわからんのじゃ。なんか別の言い方はないのかい」と言われます。先ず、英語だから分らないと言うこともありますが、実は、私の拙い英語力で直訳してもよく分らないのです。「仕事のお店」、「仕事場」ですから。日本語でうまい言葉に直しにくいのですが、「工房」などと訳されている場合もあるようです。

 誰が始めたのかとか、誰が広めたのかと言うようなことについては、次回、簡単に触れますし、多くの書籍にも載っていますので、それを見て頂くこととして、一般的には、「みんなで勉強して、情報を共有しながら問題解決を図る話し合い」だと思っていただければ良いと思います。

  この方法は、課題に関係する代表者が集まり、議論する従来の代表制の方法(これが悪いわけではない)とは異なり、ある一定のルールの下で、参加者の誰でもが発言権を持つ点で、民主的な話し合いの方法であるとともに、情報の偏りを無くし、ひとり一人の「気づき」を醸成する点で、空間が持つ多面的な機能のトレードオフやバランス問題などを扱う農村地域づくり等の問題解決にはもってこいの方法と言えるのではないでしょうか。  これがうまく機能すれば、ワークショップは、たいへん有効な住民参加の方法になることは間違いないでしょう。但し、「うまく機能すれば」なのです。  今、全国で実施されているワークショップをよく見ると、「住民が自然と集まって」ではなく「住民を無理に集めて」であるし、内容についても、住民が首をかしげている内に、始まって終わっていくワークショップがなんと多いことでしょうか。

 つい最近も、とある地域づくりのワークショップを見る機会がありました。多面的機能直接支払いの組織運営に関しての問題点をみんなで出し合おうということで、問題点はいっぱい出てきたのですが、その先がよくわからない。この意見をみんなで共有して終わってしまった。このワークショップ自体はよかったのですが、このワークショップの成果をどう使って行くのかがよくわからないので、住民からすれば、「それでどうなるの」っていう感じではないかと思いました。

 また、地域住民が自ら立ち上がり、地域の将来を憂いて、または夢見て、ワークショップを展開している場合はそういうことはないのですが、住民から受託された行政が、住民参加による地域づくりの支援を行っている場合は、形骸化したワークショップをやられることも多々あるようです。ちょっと言葉が悪いですが、一般に言われる「ガス抜き」、「誘導」をやっているのですね。

 更に、住民の意見を聞きながら事業の見直しをかけたり、事業の位置づけを認識してもらうために行政等が自ら汗を流して取り組んでいるならまだしも、やり方がよくわからないからと言って、コンサルタント等に丸投げ的な委託してしまう場合も見受けられ、本当に住民を主体に考えているのだろうかと疑問を感じてしまう例もあります。上からお達しが来るからやっているだけのようにも見えます。

 もう一方で、行政や関係団体の地域づくりサポーターらが、本当に地域住民のことを親身になって考え、少しでも良いワークショップをやろうと努力しているのに、やり方がよくわからず、楽しんでもらえるはずが、しんみりしてしまったり、笑いになる予定のところが静まりかえったりと、主催者も参加者も同時にしらけ状態になってしまい、「なんか、この方法おもしろくないね」と言う場合も多々あります。(図2)

図2 ワークショップの発表会の様子

 良いツールなのに、活かし切れていないのですね。実にもったいない。 実は、今は偉そうにワークショップのなんたるかを話している私も、いやいやこれまでに何度となく失敗を重ねてきた口です。皆さんに、私はプロだと言って教えるほどのワークショップの力量を持っているとは言い難いのですが、少なくとも回数をこなし、今になってようやくなんとなくコツは掴めてきたように思います。

 そこで、ここから数回にわたり、住民参加とは何か、ワークショップの意義、景観・生態系を含めた地域環境づくりの流れ、ワークショップの仕組み方とノウハウ、楽しさの演出などについて紹介していきます。米国の社会学者シェリー・アーンステイン女史が言うところの「真の住民参加」に一歩でも近づけるような地域づくりをめざしていきます。

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