とんとんとんからりんと隣組

 小学校の時、♪とんとんとんからりんと隣組♪と口ずさむと、何故か母に叱られました。そのうち、♪ド・ド・ドリフの大爆笑♪と同じフレーズだが替え歌を口ずさむと、また母に叱られました。「そんな低俗番組を見て」と。『ドリフターズの八時だよ。全員集合!』が低俗で、教育上良いか悪いかはよく分かりませんが、なんとなく叱られる理由は分かった気がしました。でも、♪とんとんとんからりんと隣組♪がなぜ悪いのかはよく分からなかった。

 戦争体験をした母からすると、「となりぐみ」という響きからは、大政翼賛会の末端組織である町内会の内部に形成されたあの隣組が即浮かび、戦争に向かって総動員で戦い、言論の自由も奪われたという嫌な思い出が甦るのかも知れません。でも、私は、当時も今も、この歌詞からそんなことは全く想像できません。

♪とんとん とんからりんと 隣組 格子を開ければ 顔馴染み

 廻してちょうだい回覧板 知らせられたり 知らせたり

 とんとん とんからりんと 隣組 地震 雷 火事泥棒

 互いに役立つ 用心棒 助けられたり 助けたり♪

 断片的にしか覚えていませんが、どの歌詞の一部をとっても、『共助の力』、自分たちの地域は自分たちで守るという地域住民の『隣保互助』の精神を歌ったもので、戦争の影などどこにも感じられません。

 病気で退職して、自宅で療養している時間が長くなり、テレビを見る機会が多くなりました。先日、『ドリフターズの八時だよ。全員集合!』という番組の懐かしい映像が流れ、それを見ている内に、このテンポの良い替え歌とともに、三十年も前の佐賀県東与賀町でのとある集落での調査を思い出しました。

 東与賀町は、佐賀の南部、有明海沿岸に位置し、平成になって、佐賀市に編入されました。町のほとんどが干拓地です。ほとんどの集落は、干拓とともに開けた低平地に、昔の堤防沿いに列状集落が形成されています。

 割と大きめに整備された農地での米・麦が中心の農業でしたが、イチゴやメロン、ナスやトマトなどの施設園芸なども取り入れらはじめた頃でした。また、農業と並ぶ産業としては「海苔養殖」もありました。有明海に面して、長い堤防の上に登ると、一面潟が広がる独特な景観が印象的です。

 有明低平地で、有明海奥部に位置していたため、高潮被害は頻繁にあり、多くの防災事業が図られてはいましたが、なかなかハード事業だけでは追いつかず、消防団では、住民の命と財産を火災や水害から守るため、住民と密着した幅広い防災活動が行われていました。 特に、その中でも大野集落は、隣保互助の精神が徹底しており、すばらしい活動をしていました。

 ここからのお話は、私の調査ノートと記憶だけに頼るので、もしかしたら間違いもあるかもしれませんが、話の本筋が変わるものではないので、間違っているところに気づかれた方も我慢して読んでもらえれば幸いです。

 この集落は、当時200世帯を超える大集落でした。干拓堤防に沿って開けた集落なので、掘割となる生活排水も兼ねた用排兼用水路が列状に並んだ家の裏側を流れ、玄関側は狭い道幅の小路が、両隣とお向かいさんの家々を繋いでいました。集会所もこの小路に面してあったように思います。

 区長さんにお話をお伺いするために、集会所近くまでレンタカーで向かいましたが、兎に角、道路が狭くて、一台路上に駐車すると、もう他の車は通ることができないという感じでした。列状に並んで家が建っているので、これじゃ、火事にでもなれば、風向きでも悪ければ、ドミノ倒しのように全焼するのではないだろうかという印象を持ったのを憶えています。

 一通り、区長さんにお話をお伺いしている内に、ちょうどその火事の話が出てきました。聞くところによると、大正初期に数回に渡って、続けざまに不審火や原因不明の火災が起こり、数軒が全焼したと言うことです。私が、「道路の拡幅工事を何故しないのですか」と訊いたところ、「夜警ばやっとーで、火はもう出さんけん大丈夫や」と言うのです。

 ここで、『とんとんとんからりんと隣組』なのであります。

 私も小学生の低学年の頃には、大人たちと混じって、拍子木をカッチンカッチンと鳴らし、「火の用心、マッチ一本火事の元」と声を上げながら、集落内を回った経験はあったが、中学に上がる頃には無くなっていました。あれから20年以上経つというのに、この集落では、今もそれをやっているというのです。この大正の火事以来、一年間で最も火災の多い、11月~4月までの冬場は、毎晩12時から翌朝の4時まで、一日足りと欠かさず、4人ずつ二組に分かれ、拍子木を打ち鳴らし町中の辻々を歩き回ると言うのです。

 雨の日も風の日もかかさずの六十年間「夜警と火の用心」を続けたことで、大正の火事以来、火事を出したことが無いそうです。消防署からは火災訓練で毎年賞をもらうと自慢していました。

 「救急車などの緊急車両も通りにくいじゃないですか。拡幅すべきですよ」って言うと、区長さんは、「いんや、こんままでよか。集落みんな家族、親戚んごて思うて、助け合わんば困るちゅうことがよりよう分かるばい。『とんとんとんからりんと隣組』ちゅうやつばい」とニコニコしながら断言しました。

 ここまで徹底した地域互助のソフト対策があれば、ハード対策を凌駕するのかも知れないと思い、久しぶりに聞いた「隣組」という響きに、心地よいものを感じました。

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