多面組織の広域化と事務処理ソフト

 農林水産省の施策をとやかく言うつもりはありませんが、多面的機能支払交付金において、活動組織の広域化が促進されていることについて、ちょっと気になっているので、自分なりに考えてみたいと思います。

 当研究会では、多面的機能支払交付金の事務処理ソフトを試作して、8月中旬から先行モニター版を配布するために、いくつかの地域で説明会を開いてきました。どの地域でも、たいへん興味を持って聞いていただき、前のめりで聞き入り、積極的に質問する姿を見るに、組織においては、如何に使いやすい事務処理ソフトを求めているかと言うことがよく分かりました。それだけ、事務処理の簡素化は切実に求められていると言うことなのでしょう。

 当会の試作ソフトは、まだまだ操作が難しいと感じられるようで、眉を顰める人もいて、開発者としては、農村のICT化に向けて更なる努力しなければならないと改めて感じています。

 そんな中、この説明会において、こういう意見をよく聞くようになりました。

 「組織のリーダーや役員のなり手がいない問題を解決し、特定の人物に事務処理等の負担が集中してするのを回避するためには、とにかく早く広域化を進めなければならないだろう。事務処理ソフトも大事だが、広域化をすることが先決で、事務処理ソフトも広域対応のものが必要になって来るだろう」と言うのだ。

 広域化しても、集落単位の活動日報や出納記録が無くなる訳ではないので、それほど事務労働の軽減が図れるとも思えないと言っている方も多くいますが、基本的には、事務作業を事務局に集約することで、各集落の事務作業の負担を減少させ、事務委託や工事発注、資材や物品等購入等をまとめて行い経費の節減も図れますし、優先度の高い施設への予算の重点配分などの選択集中の自由度を上げ、小規模ではできなかった、学校や企業との連携などの大胆な運営により、集落協働力の強化に繋げられるでしょう。

 また、市町村行政にとっても、事務処理の統合で、交付・実施状況の確認件数が減り、事務負担が大幅に軽減するでしょうし、市町村行政と各組織への連絡系統も集約化され、効率的・効果的な指導ができるということも言えるでしょう。

 しかし、私は活動組織の広域化が一概に良い結果を生むと言えないのではないかと考えるのです。

 事務処理ソフトを紹介している中で、すでにその一端が見え隠れする時があります。

 「末端の農家組織が、いちいち、こんな面倒な事務処理などせずに、事務局に活動記録簿と出納簿を同様式で送りさえすれば、広域の事務局が申請や報告は一括して作ればいいじゃないか。そのうち早かれ遅かれそうなるんじゃないの」という意見があります。

 事務処理は面倒であるということはよく理解していますが、果たして、便利になったからと言って、実質活動組織である集落から、自分たちで企画する力やルールを守り、技術を発信する力の元となる自治力を全部吸い上げてしまって良いものなのでしょうか。

 経理は難しいけれど、自分たちのやったことには最後まで責任を持つ、他でもなく我々が選択した活動であるという誇り、それによって発現された多面的機能の恩恵を受け、味わい喜ぶ。この自治活動の意義までを軽減化することはできないと思います。

 ソフト開発を推進している側としては、沢山普及するのだったら、広域用のソフトだっていくらでも作りますが、だからと言って、洗濯物を外に干して、畳むまでの全自動を開発しろと言われても、なかなか素直に開発できません。

 多面的機能支払交付金とはそもそも何なのでしょうか。その根幹となる法律である農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律の基本理念を再度読むと、『農業の有する多面的機能の発揮の促進に当たっては、地域における貴重な資源である農用地の保全に資する各種の取組が、地域住民による共同活動により営まれ、良好な地域社会の維持及び形成に重要な役割を果たすとともに、農用地の効率的な利用の促進にも資することに鑑み、当該共同活動の実施による各種の取組の推進が図られなければならないこと』とあります。

 『地域資源の保全に資する取組をせよ』とはどこにも書かれていません。大切なのは、『地域住民による共同活動により営むこと』であるのです。ここで言う『共同活動』において、『活動』は重心にはありません。まぎれなく、共同と協働の社会を通して、農家も非農家も、性別、年齢、属性に関係なく、あまたの集落住民が、地域資源からの恩恵を受け、国家的役割を果たす多面的機能の発揮に貢献し、互いの意思疎通を図ることを言っているのです。

 ならば、組織の広域化は最初の命題ではなく、住民、集落、集落間の意思疎通の輪を広げて行けば、自然と成るものであり、適正なところで落ち着くものです。広域化をすることが目的であってはいけないはずです。

 大切なのは、広域化ではなく、その方向性も含めて、集落としてのアイデンティティをどのレベルで纏めるかということで、アイデンティティを崩すような集落の広域化等、絶対にあってはならないと思います。

 事務処理ソフト開発は、もちろん様々な個性ある広域化に対応したものも作っていく必要があるでしょうが、広域化に当てはめるためのソフト開発ではないようにしたいと、開発者として考えます。

 皆さんはどうお考えでしょうか。

※写真の場所と記事の内容は関わりはありません。(多面的機能としての「水辺のやすらぎ機能」)

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