関係人口

 皆さんは、『関係人口』という用語をご存知でしょうか。読者や会員の中には、そんなものとっくの昔に知っている、今更何をという方もあると思いますが、今日は、この『関係人口』についてお話します。

 先ず、総務省のホームページの地域力の創造・地方の再生のページに掲載された『関係人口』についての説明は、『「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。』とあります。

 明治大学農学部教授の小田切徳美先生が言われる定義は、「農村に対し多様な関心を持ち多様に関わる人の総称」であり、簡単に言うと、その地域のファンであり、地域のかかえる問題を解決するために、地域住民と共に関わっていく地域外のネットワークされた人々のことを言うと解釈して良さそうです。

 この用語は、実際には小田切先生が作った言葉ではなく、農と共に生きる新しいライフスタイルを発する雑誌『ソトコト』の編集長の指出一正氏が作られたようですが、さすがに農政学の第一人者である小田切先生がうまく農村政策論議に持ち込んでいると思います。まぁ、その先は細っていますが。

 『関係人口』というと、まるで新しい概念のようにも思いますが、この定義にあたる人の存在は、これまでにも十分に認識されており、私はこういう人のことを『地域外のコミュニティ支援者』とか『外部の農村づくり支援者』と単純に呼んできましたし、関わりの大きさは大小あれども、地域貢献ボランティアもそうでしょうし、二拠点居住者や長期滞在型市民農園の居住者なども関係人口の範疇に入ってくるでしょう。外部から来た学生のコミュニティ支援者もということになります。

 また、私の提唱する『農村づくりの技法』では、直接、農村づくりのコーディネートを支援する人のことをプロセスメーカーと呼んで、住民が主体となりながら、周りで手助けして、活性化へのプロセスをうまく展開できる農村づくり支援の人材を定義していますが、これも関係人口ということになるでしょう。

 まぁ、学者先生方は、きれいに概念を整理して、論議の舞台を作るのがうまい。『外部の農村づくり支援者』では、確かに議論しくいですわな。

 地方では、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることがますます期待されています。

 ここまでは納得できますし、関係人口を増やすことで、農村社会は新しく生まれ変われるように感じます。また、成熟社会への潮流があるように感じ、社会全体がその方向に動くようで、大きな夢を描いてしまいます。でも、問題は実はここからなのです。

 この農村政策を実現するための施策としては、「関係人口を増やすための自治体への支援強化」をということが一番に出てきますが、有識者の理論が、国行政を通して施策化されると、なんとも頼りないものになってしまうのが常であります。

 総務省はお題目を立て、旗を振ることに躍起になり、その実現は地方行政任せになりますし、農林水産省は足が遅くて、ついて行くのが精一杯。他省庁は独自で展開し、競い合っているだけです。多くの地域政策は、『題目は完成度が高く、唱える地域は意味知らず』の状態であります。国の政策の本当の意味が、末端へ流れるうちにどこかで薄まっていくのでしょうね。最近では、基本法に基づく農村政策も、正確に議論されていないほどに真の意味は薄まってしまっているように感じます。だから、どの施策も成就しない。

 そして、特定の都道府県、市町村、集落のちょっと変わった首長等が、理屈は後付けで、先にやっちまったところだけが生き残っていくという構造であるようです。

 肝心の問題は、関係人口を増やすためにどうしたらよいかと関係人口を如何に活かすかについて、地域が各々で知恵を出すというところであります。ならば、その知恵を早く拾い上げ、コミュニティを形成し、実現化していくため、弱体化した自治体農政の組織自体をなんとかしないといけないのではないでしょうか。(※関係人口だけじゃなくて、なんでも地域が考えるということろは同じですが・・・)

 でも、自治体農政組織を見ると、すでに組織自体がよく見えないところもあり、なんとか昔の名前で出ていても、すでに、人員不足で、自転車操業中、若い職員が新しいことを勉強する余裕もなく、上位機関から流れてくる面倒な書類作成に日々責め立てられ、職員が丁寧に集落を回って、囲炉裏を囲んで、「最近どうよ」、「米はどうやっても苦しいよ」なんて会話もほとんどない。住民と会話する能力や多様な意見をまとめる能力も消失しかけており、住民の想いに答えられないという悪循環になっている上に、何と言っても、国が農業政策に偏重しているため、農村問題をどう解くかにまで頭が回らないというのが本当のところだろう。

 農政施策を実現するためには、格の高いお題目だけではなく、お題目を理解し、地域へ展開し、そして地域住民に浸透させ、そこから掘り起こして地域のオリジナルを作り上げていくための仕組みと体制の方に力を入れるべきだろう。

 関係人口を必要としているのは、農村地域そのものよりも、先ずは市町村行政内部ではないのか。

※(写真イメージ)夜、光るオブジェは綺麗に見えるが、その周辺に何があるかは分からない。

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