磨きをかける政治家

 大学の農業土木系講座の東京近郊在住者の同窓会があったので顔を出させていただいた。私自身は現役を去ってから、学会も辞めて、今は農業土木とは程遠い位置にいるので、参加させていただくのは烏滸がましいのですが、有難いことにかつての仲間たちが同胞として見てくれているようなので、ここは遠慮をせず顔を出すことにしました。今回は、農林水産省のOBなども加わり25人ほどの会となりました。年齢的には上から3人目になった私は、下の世代との繋がりがほとんど切れてしまっていて、また仕事の面でもまったくちんぷんかんぷんになっているので、話していることは半分ぐらいしか理解できません。只、みんな何を喋っているのかなぁとハイボールをちびちび飲みながら遠巻きに静かに聴くだけでも楽しいものでした。

 若い現役組はみんな頑張っているなぁと感心しますし、退職組も民間建設会社や団体職員となって精力的に第二の人生を送られていて、羨ましい限りです。そんな中今回は、国会議員のMさんも来られていました。6年下の後輩ですが、元農林水産省の職員で、彼は行政職、私は研究職と仕事は異なりますが、若い頃からいろんな場面で接点があって、いろいろとお世話になりました。議員の先生ですからあちこち飛び回って忙しい御様子で、遅れて来られましたが、到着するとすぐに挨拶をしてもらうことになりました。

 実は、Mさんが議員になってからの話は、国会質問などはテレビで拝聴したことがありますが、挨拶も含めて直に聞いたことがありませんでした。農村部へ行くと各方面から彼の評判を聞き、とても良い先生だという人もいれば、良くないという人もいました。選挙民の彼の捉え方は様々でしょうが、人柄の良さについては私自身が良く知っている彼であればそれで良いと、外野の評価など気に留めずにいましたが、やっぱり直接話を聞いてみないと「人となり」は分からないものですね。

 外部の評判に惑わされてはいけません。同窓会という特殊な場ではありましたが、直に接した印象はとても大切ですね。この日、Mさんがされた短い挨拶を私はかなり気にいり、その後、宴もたけなわとなったところで、隣の席に座らせてもらい、5分程度でしたが、直接話をさせてもらいました。私は今や農業や農村からは離れた人間ですし、農政事情もそれほど詳しくないので、彼が本当に言いたかったことを読み取れてはいないかも知れませんが、上から目線で先輩面して言わせてもらうなら、「Mくん、よく分かっているじゃないか!」ということになります。

 彼の挨拶の趣旨は、”議員になってから全国各地の農家や土地改良区の方とお話し、農村の活動を視察させて頂き、農業・農村の実態を見て来たが、どちらかと言うと理事さんや役員さんといったお年寄を中心に話を聞いてきた。時には若い農家から話を聞くこともあるが、それは優秀な農家代表ということになる。それだけじゃいかんのではないか、もっと普通の一人の生活者としての農家、農業の苦しみも楽しみ感じている農家、いわゆる農業・農村の本当の所と向き合っている人々、若い人、女性、様々な属性の方から話を聞かんといかんのだと考えている”と、言うようなことでした。

 少しほっとしました。彼が発行している『M通信』という季刊誌を隅から隅まで読ませてもらっているし、ホームページも時々見ていますが、私からするとなんだか優等生過ぎて面白くなかったのです。何処へ行った、地域の主立ちが出て来た、意見交換をした、国政報告をしたということばかりで、彼らの意見をどうとらえるべきなのか、社会のどこに矛盾を感じたのか、本当のマイノリティはどこに存在するのか。その上に立っての意見徴収であり、視察であるべきだと思うのだが、現農政を是とした上の円滑な施策推進ばかりで、あまりにも優等生の答えしか書いていない。現場からは事業推進の予算陳情が中心になってしまいがちだろうが、それらに終始せず、根本問題を紐解くことが大事だと思うが、そこの一歩の踏み出しは少ないように感じていました。現場の願いを叶えることばかりが政治ではないはずです。比例代表、参議院議員としての表現の限界もあるのだろうし、一議員としてマイノリティに傾き過ぎるのも難しいことであると思うものの、私としては不満があったのです。しかし今回の挨拶で、もっと多様な意見を聞かねばならぬと意識していたのだと分かっていてくれてほっとしたのです。農業や農村の問題を紐解くには、形式化した生産者、消費者、流通業者だけ、代表者や上役だけの話を聞くだけではだめだ。先生が視察に行くというだけで、それなりのお膳立てがされてしまうからだ。それはサイレントマジョリティの真っただ中に放り込まれるようなものではないのか。マイノリティの多様性を求めるところからが意見を聞くスタートであり、国政を考える議員の始まりであると思うのです。

 彼は私に、「もっともっと幅広くいろんな人、いろんな分野、いろんな職種にも話をしてもらって、聞く耳を鍛えたい」と言ってくれました。自民党は次の選挙では厳しい試練を乗り越えなければならなくなるだろうが、個人的には是非、彼にはがんばってもらいたいと思いました。完成された政治屋ではなく、マイノリティの意見に耳を傾けることに磨きをかける政治家、日々学び育つ思想家こそが本当の私たち国民の押しとなると思うのです。

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