退職してから、歌舞伎をよく見に行くようになりました。それまでも年に一回は行っていましたが、今は新作やスーパー歌舞伎も含めて年5回は足を運んでいます。昔から興味はありましたが、現役時代は忙しくて、なかなかうまく席も取れず、諦めていました。今は、ネットチケット売り出しの10分前から、パソコンをスタンバイし、売り出し開始とともに、素早く目当ての日の席を探して、素早く購入のボタンを押して、良い席をゲットしています。

 6日は初春大歌舞伎を観劇させてもらいましたが、私は最前列で家内は花道が取れました。昨年は海老蔵でしたが、今年は猿之助、團子の連獅子と勘九郎、七之助の鰯売恋曳網が目当てでした。猿之助も圧巻でしたが、勘九郎が昨年のNHK「いだてん」の低迷を吹き飛ばし、「俺の実力はそんなもんじゃないよ」というような見事な演技で、先代の勘九郎を彷彿させるものがありました。

 さて、私のレベルの低い歌舞伎評論はほどほどにし、今日は農村歌舞伎について考えてみたいと思います。

 私が農村歌舞伎、地芝居について知ったのはもうかれこれ三十年前で、元号が平成に変わってすぐの頃です。初めは、景観条例の調査で、山形県の金山町を訪れた時です。この時に、初めて、安沢歌舞伎について町の職員から説明を聞いて、農村で歌舞伎が伝承されていることを知りました。更に印象に残っているのは、その後、平成四年のことですが、この時は親水整備の調査で水車を手作りで整備した事例を群馬県の富士見村に視察に行った折に、町に横室歌舞伎という伝承があることを知りました。その時は、公園の横にある衣装蔵についてもお話を伺い、農村歌舞伎全盛期だった明治後期は、これらの衣裳を東京まで運んで、公演をしていたと言うことも聞きました。

 その後、様々な調査で、折に触れ、農村歌舞伎、地芝居の舞台を拝見することはありましたし、有名な愛媛県内子町の内子座にもいきましたが、結局は地元で、おひねりが飛び交う臨場感ある観劇は一度もできず、子供歌舞伎などが公民館や全国伝承イベントなどで演じられているのを見るのが精一杯でした。何しろ、年一回とか数年に一回しか演じられないこともあり、なかなか日程が合わなかったのです。

 調べてみると、この地芝居、農村歌舞伎なるものは、江戸時代にはすでに発祥していたらしく、旅芸人による「旅芝居」から影響を受けています。農村部には映画館も劇場も無かった時代ですから、農村の人々の娯楽といえば、地方巡業でくる旅芝居や人形劇だったのでしょう。伝統芸能としての神社への奉納芝居もあったでしょうが、多くは、なかなか巡ってこないような山奥というか、街道から離れた地域では、待てなくなって、この際、自分たちでやってやろうと、巡業芸人に教わって見よう見まねでやり始めた訳ですね。

 素人が忙しい日々の暮らしの中で、時間を割いて練習をするものですから、当然時間は足りないので、所作や台詞は覚えられない。子供歌舞伎なら、黒子が横から囁いてもかわいいものがありますが、大人芝居だとプライドもあってそうはいかない。台詞が完全に抜けてしまって、「あっぁー、台詞忘れたりぃー」と見栄を切ることもあったそうです。

 私なんかは、こんな見得を切られたら、思わず「よっ、○○や」なんて大向をかけて、おひねりも弾んでしまいます。その度胸と努力の姿に感動してしまって。

 でも、少子高齢化、農村の過疎化は、間違いなく先ずこういうところから攻めてくるんですよね。文化庁が、少子高齢化に伴う人口減少等にともない、全国で行われてきた地域の民俗芸能の存続危機の実態を調べるため、平成二十七年に、全国の地芝居(地歌舞伎)団体の実態等の調査したところ、現在活動中の団体は218で、活動中止している団体は30にも及んでいました。おそらくはそれ以降も活動を継続できない団体もますます増えているのだと思います。

 ネットでは、「地芝居ポータルサイト」なるものが立ち上がっていて、とても素晴らしい情報を出してくれています。NPOなのかと思いきや、本当に地芝居を愛するスタッフの皆さんが無償で情報サイトを作っておられるようです。昨日、このサイトに登録されている団体を私が数えたところでは、全国で93団体でした。活動中止ではないが、積極的な活動ができているのは100に満たないのかもしれません。

 芝居好きの私としては、是非、中断しているところがあれば、数年に一回でもいいので、復活させてもらいたいと思うのですが、現状をそのまま受け取る限りでは、そんな簡単なものではないでしょう。お金もかかりますしね。でも、何か農村歌舞伎の復活や活性の手立てはないものでしょうか。

 農村歌舞伎の苦しい実情とは違って、逆に都会では、演劇やダンスに夢中の若者が食うや食わずのような生活であっても、一所懸命、練習をして自分たちの公演を立ち上げています。芝居好きなものですから、2000円程度のチケットを買って、私もよくそういう若い人の演劇を都内まで見に行かせてもらいます。内容は奇抜過ぎて私の歳ではよくわからないものもありますが、演劇にかける意欲は溢れています。あのエネルギーを農村に持ってこれないものでしょうか。農業をしたくて農村に定住する若者もいますし、陶芸や絵画などのアトリエを農村部に求める若者もいるのですから、演劇のための定期的移住だってあって良くて、人手不足の農業を手助けしながら、演劇すればいいのではないかと思うのです。

 農村歌舞伎の伝承はどうしても地域の若者でなければならないのでしょうか。もちろん、農村地域の文化を代々伝えていくことが、農村地域のコミュニティを醸成していることは確かなので、その効果を求めれば、地域内の子供や若者への伝承は重要な意味を持つと思います。しかし、令和の時代としてどうなのでしょうか。文化は地域のものですが、それを守るのは地域ではなく、もっと広いコミュニティであっても良いのではと思います。都会で演劇を志す若者は、「農村歌舞伎、なんだそれ、俺たちの劇は違うから」と敬遠するかも知れませんが、中には、興味を持ってくれる集団もいるのではないかと思います。

 そんなところから展開させるのも、農村歌舞伎を保存する一つの方法かもしれません。

 さきほど紹介した「地芝居ポータルサイト」が、今年の公演スケジュールを更新していました。2020年は岐阜県の「ぎふ清流の国 地歌舞伎勢揃い公演」から幕開けですだそうです。 興味のある方は、是非足を運んでもらいたい。私も今年はどこかで一回見に行こうと思っています。

地芝居ポータルサイト https://jishibaiportal.com/

※演劇部隊や伝承館などの稼働率は低いようだ(写真はイメージ)

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