ワークショップをやってみよう(9)

7.重ねて見えてくる農村の将来像

 地理情報システム(GIS)は難しいと言えば、確かに難しいものです。その難しさはアプリケーションの扱いの難しさ、いわゆる操作の難しさと、地理に関するデータを収集する難しさがあり、この両方が相まって、より難しいものにしていると思います。

 今は、アプリケーションの中で、情報を重ねて様々な複雑な分析ができるのですが、そういう難しい分析をしようとすると、かなり難解になるのですが、そういうのは、学者の論文でやることであって、一般的によくやっていることは何かというと、地理情報の色分けです。一番簡単でわかりやすいのは、テレビで説明される気象情報ですよね。どこに雨がたくさん降ったかというのを日本地図の上に立つ棒の高さで表現しています。また、最近では新型コロナウイルスの感染者数を県別に色分けしたりしていますよね。あれが最もよく使われる手法です。○○県で何mmの降雨と言われるよりも、その周辺も含めて、○○県の▽市と□町あたりに集中豪雨があったのかということが分かると、リスクを把握しやすいですよね。

 農村づくりにおいて、GISが無かった頃に私がよくやっていたのは、透明のセロハン紙を地図の上において、住民の皆さんに、「交通量の最も多い道路はどの路線か」「農産物を集積しやすい場所はどこか」「立ち止まらせて景観を鑑賞してもらいたいところはどこか」「空き地があるのはどこか」と聞きながら、セロハン紙にマジックでその範囲を書き取っていきました。初めは一枚のセロハン紙に全部の項目の色を変えて書き取っていましたが、次第に、見づらくなってきたので、一枚に一項目を書き取って、後で重ねることにしました。そうすると、どうでしょう。すべての条件が合うところが数か所見つかりました。住民の皆さんは、「なるほど、直売所を開くならこの辺りが効果的か」と、自然に地図が示す意味が分かってきました。

 「あの辺りが空き地になっているから直売所を開いてみるか」と、なんとなく置いていた直売所は閑古鳥が鳴いていましたが、これで少しは科学的に分析して、だれもが納得いく形で場所を決めることができ、少しは人が来るようになりました。

 GISのアプリケーションを高いお金を払って買う必要はありません。この程度で十分です。今なら、GoogleMapを使ってもこの程度のことならできます。

 私が、ワークショップの講座の最後に、紹介したいのは、地図上にデータを整理して、重ね合わせてみるというワークショップであり、決して、VIMSを使いましょうということではありません。

 前回も申しましたが、集落環境点検などのワークショップの最大の欠点は、データベースとして保存していないので、データが集積されないことです。これをアプリケーションを使うことで、永代に渡ってデータを使って行こうという目論見です。

 ワークショップの専門家の中には、これに反対する人たちがいます。ワークショップは簡単に楽しく、情報共有するものだから、一部の人しか分からないようなことをしてはいけないということなのですが、私はそれには反対です。もちろん、これまでのワークショップは大切ですが、ICTの時代に、情報機器を使ったワークショップがあってもいいのではと思います。そもそも、元々は話し合いだけだったワークショップが、地図をコピーできるようになったので、地図を使う集落環境点検ワークショップが生まれた訳です。ここでもコピー機という当時の文明の力が活用されています。GISアプリケーションがコピー機ぐらい簡単に使えるようになったのですから、それを使ったワークショップもあっていいのではないでしょうか。

 この講座では、現在、ワークショップで使えるGISとしては、VIMSが最適だと思われるので、VIMSを使った事例を紹介していきますが、学んでいただきたいのは、VIMSではなく、この考え方です。

(1)基本的考え方

 地域資源のデータベースをもとに、多様な機能の総合的な評価システムと活性化計画、環境保全計画などを地域住民にわかり易く提供し、地域の多様な計画を、地域住民と行政等が協働によって作成するための計画策定支援システムがあれば、これまで整備された、あるいは整備予定である農地基盤情報の有効かつ効率的な利用の促進を図ることにつながります。また、住民参加で行われるワークショップの結果についても、本システムで蓄積していけば、次世代への情報の継承にもなり、営々と地域振興につながるものだと言う発想から以下のようなシステムを開発しました。

住民参加による計画策定支援システムの概要
コミュニケーションGIS「VIMS」と「VMF」の総合利用

(2)地域活性化構想策定ワークショップでの活用例

 地域活性化構想は、地域の有する多様な資源を効果的に活用して地域振興を実現するための道筋を明らかにするものです。従って、構想づくりでは地域資源の賦存状態を的確に把握することがその手始めとなります。

 構想策定ワークショップ(以下、構想策定WSと言う)では、最初に地域資源調査として、住民への聴き取り調査と郷土史、自治体が有する総合計画、田園環境マスタープランなどの資料調査を行います。調査で得られたデータはVIMSにより地図上に図化整理します。なお、地域活性化構想を検討するために必要な資源情報は、農地、道路、水路、河川、施設、公園、社会教育、学校教育、景観・文化施設等の物理量として把握される資源情報(客観的資源)だけでなく、生活環境、農業環境、危険な場所、残しておきたい場所、誇りたい場所に対する住民自身の想いと言った主観的情報も重要です。主観的情報の整理においては、VIMSの複数の属性情報を収納できるテーブル機能が有効に機能します。

 地域資源データの収集は、集落環境点検等により現地を歩きながら収集するのが一般的です。しかし、時間的な制約がある場合や、すでに住民の意識下に様々な資源情報が十分インプットされている場合は、想起マップ法を応用して、机上で地図図面の色塗りを行い、データを整理する場合があります。ここで紹介するのは、山梨県甲府市A地区での実践例ですが、これまで地域活性化に係る話し合いを何度も行っており、住民意識の中に地域環境に関するデータは十分あると考えられましたので、机上での地図アンケートを採用しました。地域活性化に関する47の質問を「農業環境」、「生活環境」、「文化・歴史」、「自然・生き物」等の地域課題毎の地図7枚に振り分け、地域活性化検討の中心メンバーでもある参加住民17人に配布し、彼らが地域に対して“どんなところに”、“どんな”イメージを持っているのかを記入してもらいました。 この作業により、住民は、自分と他人では地域環境の認識に違いがあることを発見することになりました。

 なお、このワークショップでのVIMS利用では、山梨県、山梨県土地改良事業団体連合会にお世話になりました。

 地域資源データを入力したものが図1です。左は客観情報である農地、道路、水路、施設等の分布、右は地図アンケートによって得られた「美しいと思う場所」、「季節感を強く感じる場所」、「生き物が生息する場所」などの主観情報を表現した分布です。これらの表示により、実質的な資源の位置、賦存量や種類、その位置関係が明確になりました。3次元で表示されることで、住民は容易に地域資源の位置を確認することができますので、資源の現状について理解の共有が可能となります。

図1 地域資源データ(客観情報と主観情報)

 構想策定WSの第1ステップとなる地域資源評価作業では、土地の現状の上に、自分たちの主観的な意識がどのように入り込んでいるかを評価し、確認することが重要となります。従って、はじめから詳細な活性化方針を設定することなく、例えば「農業のさらなる進展において課題となる場所はどこか」、「道路の利用状況として重要地点はどこか」、「景観や文化などをPRするのに効果的な場所はどこか」等について、現況資源情報データを単純に重ね合わせる作業で地域資源の評価を行います。

 図2は、うまいお米や野菜がよく採れる場所の客観情報を評価したもので、青い色の中で少し白くなっているところがありますが、ここが、それぞれの問いかけに対して高く評価された地点となります。その後、基盤情報として耕作放棄地のデータを入力し、生産条件として評価の高い農地資源の近くまで耕作放棄が進んでいることを明らかにします。図3は、交通量が多くて、美しい景観を有する場所を重ね合わせています。棒グラフが高くなっているところを見て、住民は景観の見せ場として使えるのではないだろうかと言う評価をしました。図4は、文化や歴史に関する資源が集中しているところです。神社や寺、道祖神などが位置する場所が高い評価となりました。この図で評価の高い場所(棒グラフの高いところ)を、図3の景観ポイントの評価の高い場所と重ね合わせたところ、両者がずれていました。このことから住民は,景観資源と文化資源の価値を相乗的に活かすためには、これらの資源をつなげるソフト施策が必要であるとの検討を始めます。

図2 生産条件の良い場所    図3 景観条件の良い場所     図4 文化条件の良い場所

 ここには、3つしか事例を出していませんが、あれでもない、これでもないと、47の質問で得られた回答をとっかえひっかえして組み合わせ、重なりの意味を考えていきます。ここでは少し専門家の助言が必要になりますが、私が見ていたところ、この地区では、やっている内にだんだんと意味が読み取れてきて、住民自らが、この辺りに子供たちの遊べる公園があると良いのではないかとか、景観をビューポイントとして、展望台を作るのに最適ではないかというように考え始めるようになりました。

 図5は最終的に、協議会が総合的にこの位置は、これからの活性化の拠点となるところではないかと割り出した結果です。すぐに何か事業をこの3つの場所に施す訳ではありませんが、事業が来た時に、私たちは地域の土地の特徴をすでに分析しているので、急にあたふたと事業のスピードに合わせてすったもんだすることはなく、これをベースに再度話し合っていけば良いということになります。

図5 集落活性化ビジョン策に向けての地域空間の総合評価の事例

 ここで、やった事例はほんの一部ですが、このようにGISを使うことで、より分かりやすく地域計画を策定することができます。どうでしょうか。GISを住民参加の農村づくりに利用するとはこういうことです。只、最後に一つ注意しておきますと、この方法だけがそうではありませんが、計画はこれだけでは決まりません。こういったデータを元にあくまでも考える土台ができたという程度であることを忘れないでください。最後は、みんなで納得いくまで話し合うことが重要です。

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