素人判断は良くないと言われる。新型コロナウイルスの問題でも、テレビや新聞で様々な情報が流されると、必ずと言っていいほど、その情報にプラスして、またはその情報の一側面だけに光を当てて、自分のちょっとした経験や周囲の取るに足らない噂を照らし合わせて、持論を持ち出す人はいます。メディアの断片的な情報の更にその断片を切り取って理屈づけるので、一見、正しいかのように見えますが、専門的な基礎知識がないところでの理屈なので、大方は素人の稚拙な理論にとどまっており、幅広く読み解いていくと、当たっていないことはないが、大事な側面が抜け落ちている場合が多い。だから、素人判断は良くないと言うことになります。

 「新型コロナはインフルエンザと変わらない」とか「納豆が効くとか、アルコールの摂取が効く」とか「マスクは効果がない」とかいろいろあったが、日本人の死亡率だけを比べていたり、エビデンス(科学的根拠)がなかったり、マスク効果の問題などは、その効果の有無を示すエビデンスそのものが乏しかったにも関わらず、効果が無いと断言してしまっており、情報の断片性が浮き彫りなった案件だ。更に、「うそのような本当の話」をした吉村知事のポビドンヨードのうがい薬に至っては、大学の研究途中の論文を持ち出して、それでもって、「本当の話」だと切り出している。統計学の先生たちからしたら、もう一度中学生ぐらいからやり直した方がいいんじゃないかと言いたくなるのではないだろうか。独自の政治判断をスピーディにしっかり決めて、なかなかやる知事だなと思っていたら、やっぱり大阪人だったのか、調子に乗りすぎたみたいだ。

 何か拠り所になるものを探し、藁をも掴みたいところに、本当に「藁」を差し出してくるものだから、思わず掴んでしまうのだ。

 こういう素人評価や判断は、さまざまなところで明るみに出てしまっているが、特に、病気なんかは、この素人判断が命取りになることもあるので、情報をしっかりと見極めねばならないだろう。

 ただ、それじゃぁ、なんでも素人なんだから、「わたしはよく分かりませんので」と言うことで、病気のことは医者に、法律のことは弁護士に、車のことは車屋に任せるということで良いのだろうか。私はそれは違うと思うのです。

 問題なのは、素人判断だけで決めてしまうということであり、かつ、それを真しやかに世に知らしめることであって、自分なりの事象に対する見方、素人ならではの判断は絶対に持っておかないといけないと思います。

 私は、九州農業試験場の佐賀の研究室で、若い時にクリークの研究をしていた時期がありました。佐賀平野には、クリークと呼ばれる用排兼用水路で、貯水池も兼ねていて、早く流れるものからゆったり流れるものまで、大小さまざまな水路が縦横無尽に張り巡らされていて、佐賀平野の農業用水を供給するとともに、貯水機能による洪水調整の役割も果たしています。そのクリークの研究を初めて1年目に、柿沼さんだったか柿田さんだったか、名前は忘れましたが、佐賀市内に住むあるお年寄りが風呂敷に一杯資料を包んで、研究室に来られました。研究室長はすでに何度か会われているようでしたが、「またあの人だ。山本くん、彼はクリークを研究している地元の方なんだ、お相手してあげて」と、厄介者扱いみたいでした。後で聞いたところでは、時々、クリークについての持論をしに来るみたいだが、一般的に言われていないことを素人考えでぶつけてくるということでした。初めは親身になって聞いていたようですが、室長も水路は専門ではなかったし、同じ話の繰り返しになるので、その頃にはもう相手にしていなかったようです。ちょうど私がペーペーで九州に来たばかりで、勉強するのにちょうど良いと思って、宛がったのでしょう。

 もう、詳しいことは忘れましたが、「国や県が事業で、クリークの統廃合を行っているが、あれは、実際には排水機能を低下させていて、統廃合が進めば進むほど、ちょっとした雨でも、浸水するようになる。国や県を正さないといけない」というような抗議だった。彼が風呂敷包みから出したのは、何年もに渡って収集した自分の庭の裏堀やその近辺で計測した雨量とクリーク数本の水位のデータでした。その中には、スクラッチブックに水害についての新聞の切り抜きや途中まで書いた400字詰め20枚程度の論文もあり、それらを一つ一つ説明しながら、「この新聞にある浸水被害の時の水位データがこれで、昔、これぐらいではどうもなかったが、○○江(クリーク名)の支流を潰したから、家の周辺一帯ちょっと降っただけで、すぐ水浸しになる」みたいなことを言ってきて、興奮して来ると、最後は必ず事業批判となり、「国の研究所なんだから、あなたたちがこれを立証して、農政局に訴えるべきだ」と、トバッチリを食らう。

 彼はとても熱心でしたし、80歳に近いというのに、元気に足繁く通ってくるので、お年寄りは大切にと言うことで、放っておけず、何度も彼と話をしました。その中で、私は、間違っていることは間違っていると指摘し、なけなしの知識をすべて吐き出して議論し、かつ、こんな計測をしてみたら良いのではとの助言もして、終いには、大雨の時に家にまで呼ばれて、家の裏堀で取れたという泥臭いウナギのかば焼きをご馳走してもらい、裏堀の水かさが雨と共に増し、庭にまで浸水して、カニが座敷にまであがって来る様子を見させてもらいました。  

「山本さん、君んような若か研究員は、本にかじりついちゃーいかん。人ん困っとーことば直接解決すんような現場の研究ばせんと」と言われました。

 私と彼との付き合いは、佐賀にいる間ずっと続きました。あれ以来、私は、地元研究者を大切にしています。

 確かに、専門性から言うと、箸にも棒にもかからない。無理やりこじつけて、自分の都合の良い理論に仕立てているが、こういう場合、総論を評価してはいけません。彼の場合でも、クリークの排水機能が事業によって低下していると言う論はあまりにも短絡的なのだが、細かく見てみると、送水堀と貯水堀のつながりが変わったことによって、地域によっては、以前より早く水位が上がるところも見られるのであって、そこだけ取り出せばそれはそれで一つの課題となります。

 そもそも人というものは、自分のことになると見失っていることが多いものです。全体的に間違っているから駄目だと言うのではなく、この人の地元の眼とは何を見ている眼なのだろうかと探すことが必要だと思います。そして、彼自身が必至の思いで、勉強して取得したデータを大切にしてあげることです。間違ったデータや間違った方法でとったデータに意味がないと言うのは、それは研究を職業としているから言える言葉であって、暮らしという視点で取ったデータは、間違いその物も含めて大切なデータなのです。

 もし、地域に地元を愛しやまない地元研究家がいたら、是非、鬱陶しい爺だと思わず、話をじっくり聞いてみて欲しい。その一端に、地域問題の解決策が隠されているかもしれないですから。

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