ゼロからはじめる農村のICTリテラシー

 本研究会の目的は、「農村づくり・ICT支援研究会」という名前の通り、全国各地で、農村づくりを推進している地域において、困っていることや、悩んでいることに応えることと、将来の農村づくりにおいて、今や避けて通ることができない上に、うまく利用することで困難を乗り切り、新しい道が開けると考えられるICTを農村づくりの中でどう活用していけば良いのかについて指導、助言をすることにあります。

 そんな中、最近、農村のICT化について思うところがあり、久しぶりにこのことについてお話したいと思います。

 農村のICT化の内、農業生産関連については、先進的な経営者や大規模事業者を中心に大きく前進しています。ICTの高度な技能を習得し、人手不足の解消を図るとともに、生産物の質と量の向上に向けて、ドローンや無人トラクターの導入を進めているところや、また、スマートフォンを利用した自動水管理、気象情報を駆使した生産管理システムを導入し、大きな成果を得ているところもあります。しかし、農村地域全体で言うと、まだまだICTは浸透していないと言わざるを得ません。特に、地域住民の福利厚生、環境管理、相互扶助にかかる情報利用、防災・減災のためのリスク管理等については、ICTが最も貢献する場面であるのにも関わらず、ほとんど進んでいないと言っても過言ではありません。まぁ、都心においても、医療現場のICT化はそうとう遅れていることが、このコロナ禍で浮き彫りになり、生活場面で一番進んでいるのは流通業界ぐらいで、医療、教育、福祉のICT化の遅れは、日本全体の問題のようです。

 農村地域は、平成の市町村合併などの影響や市町村財政の悪化に伴い、円滑な行政サービスにも問題が生じ、さらに、集落等の自治運営は、集落に丸投げされるような案件も発生し、菅総理の『自助』への偏重発言ではありませんが、『自分たちの集落のことは自分たちで』みたいなことで済まされつつあります。そんな中、ICT化の促進は喫緊の課題と言えます。

 何も準備されないまま、インフラが強化され、通信料金が下がったからと言って、「どんどんICTを活用し、自立してください」と言われても、そんなに急にICT化が進むものでもありません。末端で使おうとするとお金のかかる問題でもありますし、集落自治にそれだけの余力はないのではないでしょうか。そもそも、高齢者の多い農村部では、ICTの話について行けない人も多いのです。

 総務省の最近の調査では、60代以上のパソコンやスマートフォンの普及はすでに7割を超え、インターネットの利用率もここ数年で急激に伸びて、5割から8割となっています。これを理由に、「高齢者はICT弱者」はもう過去の話だとも言われていますが、さぁ、本当のところはどうなのでしょう。この数字は、メールやLINEで家族と連絡を取ったり、わからない言葉の検索をしたり、行政サービス系の防災関連アプリを使う程度であり、多様なアプリの利用ともなると、まだまだハードルは高いと言えます。『農村でのICT利活用は進んでいる』と高らかに宣言するためには、もう一歩利用レベルを上げる必要があるのではないでしょうか。

 ICTは便利ですから、経済的に問題がなければ、高齢者でもすぐに導入に進みそうですが、実はそうはいきません。実際には、アプリ導入のもっと手前のところで、多くの方が二の足を踏んでいます。その原因の一つは、パソコンやスマートフォンの基本操作技能そのものにネックがあることです。

 私の家内は、50代前半でスマートフォンを使い始めて、すでに10年が過ぎましたが、未だに滞りなく使えるのは、メールとLINE、後はゲームのダウンロードぐらいで、会員登録の必要なサービスアプリやチケットの購入のような、行先や場所、時間、内容などを入力するようなアプリとなると、パスワードの勘違いや文字の入力ミス等もプラスされて、急にハードルが高くなっているようで、うまく使えないと悩んでいます。先日も、「誘導、指示される言葉の意味が分からない」と嘆き、一日中スマホと格闘していました。

 シニア世代が支障なく使えるアプリは、キーボードでの文字入力が少ないものであったり、指示に従った選択画面だけであったりと、見るだけ、ボタンを選ぶだけの機能であり、とても使いやすくなっていますが、少し自由度の高い操作が入ると急に使えなくなるようです。もちろん、使いやすい機器やアプリ、更にこれからはAI(人工知能)等を搭載したものが増えて来ますし、パソコン世代が高齢者の仲間入りをするので、徐々にICTリテラシー(情報を自己の目的に適合するように使用でき、コンピューターを操る能力)は向上すると思いますが、それに合わせて、アプリの高度化も進むでしょうし、便利さが詐欺などの温床ともなるので、継続的に、技能の向上を図っていくことが必要となると私は見ています。実際、私も10年前までは、おおよそのアプリは使えていましたが、最近のアプリは意味が分かって使えるようになるまでに時間のかかるものも増えてきましたし、やはり、歳が関係するのでしょうか。ちょっと勉強しないと、時代に追いつけなくなってきました。

 そういう状況を鑑みるに、研究会のICT導入支援においても、これまでは、ある程度パソコンが使えることを前提に進めてきましたが、それでは、農村のICT化の底上げはできないと考え始めました。

 実は、分かってはいたのです。「パソコン触れますよね」から始めるのはダメだということは。でも、ICTリテラシーをある程度お持ちの方からすれば、基本的なことを指導されるのは、バカにされているみたいにも思えるでしょうし、パソコンが触れる程度までの技能は、街のパソコン教室で学んでもらえば良いのではないか。また、専門でもない私が、教えても、少し高度になりすぎて、「やっぱりわからない」と言われてしまうのではないかと思って、手を出さずに来ました。 

 しかし、農村のICT化を本気で進めるなら、「わからない」と諦めず、「一からはじめるICT」がダメなら、「ゼロからはじめるICT」にすればよい。そういうことだと思い始めました。

 最近の論文で、SNSを活用している高齢者とそうでない高齢者を比較したところ、SNSを活用している高齢者が8週間の利用で、認知能力が25%改善したという研究結果もあるようで、認知症やうつ病改善などにも効果があるという期待も出てきました。もちろん、別の習い事や適度な運動でもそういう効果はあるでしょうから、無理にパソコンを覚えることだけが認知症対策であるとは言えませんし、ダンスや将棋・囲碁クラブの方が楽しいですが、パソコンを使えれば、それこそ、遠く離れた家族や仲間とのテレ集まりもできますし、農村の事務仕事にも使えますし、趣味にも活かせるので、一石二鳥ではないですか。

 4月から本研究会は3年目を迎えます。そこで、この機に、ICT講座に、農村のICT化に向けた基礎講座、『仮題:ゼロからはじめる農村ICT』を始めたいと思います。もし、パソコンそのものがよく分からないが、六十、七十の手習いで、これから始めてパソコンを使ってみようと思われる方は、是非読んでいただきたい。この講座は、単に操作技能講習みたいにせず、なぜICTを導入すべきなのか、導入によって何が変わるのか、ICT導入の哲学から入って、ICTが担えるのはどこなのか、何ができて何ができないのか等を一緒に皆さんと考えていきたいと思います。この講座は会員だけではなく、全読者に開放したいと思います。是非、よろしくお願いいたします。

 高齢だからICTはやらなくても良いとか、若いものに任せとけばよいとか、外注したら良いとかではなく、是非、自らリテラシー向上に挑戦してほしい。自分の集落のことぐらいは自分ところでできる。それこそが農村づくりであります。

※「ゼロからはじめる農村ICT」を始めるに当たって、アイキャッチには、西国三十三か所の写真巡礼をしていこうと思います。その一回目は、第一番札所「那智山 青岸渡寺」です。言っておきますが、巡礼箇所と講座は何のつながりもありません。なんとなく、33か所を目指して進めば、講座も終わるというぐらいの意味です。

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