教育DXはどこへ向かうべきか?

 今回は、ちょっと毛色の変わった話題をお届けしたいと思います。東京ビックサイトで5月10日~12日にかけて「第14回EDIX東京」という教育のDXについての展示会がありましたので、最終日の12日に行ってきました。

 DX(デジタルトランスインフォメーション)の急激な進展に伴い、昨今の教育現場は大きな変革を迎えています。2020年から2022年にかけて、小学校、中学校、高等学校の学習指導要領がすべて改訂され、「必要な教育内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを明確にしながら、社会との連携・協働によりその実現を図っていく」ことが目標となりました。特に『社会に開かれた教育課程』の実現が強調されており、多様な価値観の時代、急速な技術革新の時代において、常に「教育』が社会と如何なる関係性を持っているのかを意識させつつ、生き抜く力を育てることが教育においてより大切なこととされています。

 更に改訂に伴い、アクティブラーニング(文末に注釈)への授業改善、ICT化の導入と環境整備、GIGAスクール構想も実施され、小学校・中学校においては一人一台端末環境が整備され、学校現場の学びの風景は大きく変貌しました。

 当初の教育DXの目標は、プリント教材をデジタルでタブレットに配信することで、テキストの紙の消費量を減らすと同時に、タイムラグを解消すると言ったアナログをデジタルに置き換えることでの省資源化、効率化を求める方向でした。また、最近では、校務として、児童・生徒が家庭に持ち帰った書類に保護者がハンコを押して返す代わりに、インターネット上で確認して、返信するというような情報共有の例も出てきました。これらは、十年以上前にオフィスの効率化として行われてきたことが、遅ればせながら教育現場の校務にも導入されるようになったというものでした。

 しかし、本当の教育現場のICT化は授業や校務の効率化のみの実現で満足していてはいけません。やはり教育の主役は子供たちですから。先生の激務軽減は主役を輝かせるための一過程としなければなりません。ですから、本来の教育DXでは、DX時代における学びとは何かを明確にし、学び方自体が変化しなければならないでしょう。我々古い世代は、直ぐにデジタル化によって、子供たちの人間性が退化するのではないかというような意見を出して、「ぬくもりのある」とか「心の伝わる」教育のためにもICTの導入には慎重になるべきだと言います。

 もちろん、そういった側面は確かにデジタル化にはあります。しかし、過去の社会から新しい社会に移り変わる時は、決してICT化ではなくても、過去の価値観と未来の価値観とが様々な軋轢を生み、反対意見は出て、なかなか急激には進展しないものです。ICT化が「悪」なのではなく、使う人間側の学びの力が成長しているか否かの問題ではないかと思うのです。

 さて今回、EDIX東京の会場はコロナ禍明けの開催とあって、大盛況、前に進むにも四苦八苦しました。ざっと回ったところ、Googleやマイクロソフト、NTT等の大手に交じってICT中堅も多く出展しており、独自の技術を披露していました。AIに関係する技術も多く見受けられました。

 ただ、見たところやはり校務支援が目立ちます。成績管理、出欠席管理・連絡、指導報告管理など、先生方の業務負担を減らし、安全見守り・リスク管理のための便利システムです。中には、子供たちのさぼっている時間を記録するなどというシステムまでありました。「どうしてそこまで管理されないといけないのか」と、小学生の頃、落書きの教科書と外、届かない夢ばかりを見ていた私としては憤慨いたしました。

 次に気になったのが、eラーニング用の教材コンテンツです。コンテンツとAIが連動して、子供たちの学びのレベルを判定して、最もふさわしいコンテンツ(例えばテキストとか問題とか)を配信し、家庭学習の支援したりなんていうのもありました。ありとあらゆる電子コンテンツが製作されていることを知りました。これだけ多いと、何が良いコンテンツなのか逆に分からなくなりそうです。だからAIで選ぼうというのだろうか。ちょっと待てよ。こういうのって、選択に失敗するのも大事なことではないだろうか。子供が理解不能なコンテンツに出会い、ショックを受け、自らレベルを見極めるという行為も必要なのではなかろうか。「AI過保護」が生まれないだろうかとても心配になりました。もしかしたら、理解不可能なコンテンツに出会うという柔軟性さえもAIがコントロールするようになるのだろうか。

 また、もう一つ目立ったのは、リモート授業、対面授業、オンデマンド授業を組み合わせたハイブリッドな授業システムの構築です。これは、コロナ禍でやむを得ず使われたリモート授業の利点を生かして、新しい授業スタイルを提案しようというものです。これに関係する展示も多かったように思います。

 しかし、私が最も興味を持っていた、社会連携に対して、教育ICTツールをどう使っていくのかということに応えた展示はほとんど探せませんでした。いくつかのブースで、地域の活性化のアイデアを子供たちが発進する授業をやったという例はありましたが、農村づくりで一般的にやっているようなワークショップ方式であり、タブレットを使ってデータを共有したりはしているが、学びや気づきを引き出すツールではありませんでした。

 是非、開発してもらいたいのは、知らなかったことを知る、理解できなかったことが理解できるようになる過程において、事象の複雑性を分解し、頭が整理されていくようなツールであり、バラバラの意見を持つクラスの総意がまとまっていく過程が見える化されるようなツールです。「ここはICTでないと達成しない」と言えるようなツールを求めているのです。

 私は、そうとう古くから子供たちの教育と農村づくりとの連携を目論んできました。その中でGISを使ったり、ゲーミングツールを導入したり、農業現場と専門家と教室を繋ぐテレ事業をしたりといろいろとやってきましたが、まだ、これならいけるというものに出会っていません。下の新聞切り抜きは日本経済新聞の2003/10/24のものですが、その頃と比べてICTの機能は見違えるほど向上しましたが、約20年前にこの実験授業と今の授業の発想がさして変わらないと言うのが気にいらないのです。

 教育DXはようやくその扉を開いたばかりですが、子供たちに視点を置いて考えてもらうことを期待するばかりです。

※アクティブラーニング:学ぶ側が主体的に参加する学習方法のことです。一方的に知識を与えたり、やり方を教えたりするのではなく、学ぶ側が自ら考え、能動的に動き、仲間と連携しながら、知識を引き出し、解決策を模索し、見つけることで、現代社会で求められている能力を養う方法です。

著作利用了承済み

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。