アベノマスクは残った

 新型コロナウイルス対策として国が全世帯や福祉施設などに配った布マスク、通称「アベノマスク」について会計検査院が調べたところ、国が調達した計2億9千万枚のうち3割近い約8300万枚(約115億1千万円相当)が今年3月末時点で配布されず倉庫に保管されていたことが27日、関係者への取材でわかったと新聞にあった。内訳は全世帯向けのアベノマスク約400万枚と、福祉施設や妊婦向けの約7900万枚の計約8300万枚だということだが、保管にかかった費用も昨年8月~今年3月で約6億円に上るという。

 確か、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として政府が妊婦向けに配る布マスクで不良品が見つかった問題で、昨年4月にも問題になり、自治体から返品された布マスクの検品費用に約8億円かかると言っていたが、そう言えばあれはどうなったのだろうか。8億円掛けて検査したのだろうか。

 不織布と布マスクでは体積は異なるが、不織布だと一般的に100枚一箱で0.004㎥(10cm×20cm×20cm)、8300万枚だと830000箱ですから、単純に計算すると830000箱×0.004㎥で3320㎥入る倉庫があれば十分。高さ5mまで積み上げられると想定して、運搬スペースの余裕分を入れても30m×30mの敷地があればこと済むだろう。もしかしてコストコの倉庫より小さくないか。

 いやいや、保管業務とはそんな簡単なことじゃない。固定費だ、空調費だ、業務管理費だ、保険だといろいろと要りようだ。昨年は日本郵便、今年は日本通運に保管料を払っているということで、信頼できる大手だとこれくらいは当然かかると言いたいのかも知れないが、委託先を変えることで固定費だって最初からの支払いになるだろうし、僅か半年で6億円とはいったいどういう計算になっているのだろうか。素人としては、さっさと配ってしまえばそれで良いじゃないのかと思ってしまう。

 先日、町医者へ行く機会があったが、患者の方で、窓口でマスクを着けていない方がいて、着けるように促され無料マスクを渡されていたが、日本の病院施設は歯科も入れると18万施設ほどあると言われているのだから、一施設に平均して500枚配布したら全て捌けるではないか(※布マスクは必要ないと言われるかもしれないが・・・)。

 最初の布マスクの購入も随意契約であったし、会計検査院によると発注書の衛生基準も簡潔過ぎだと言うではないか。業界の品質を満たしていないものが納品されてもしかたないような内容だったのではないか。郵送代や事務費も100億円以上かかっていることを考えると、最初から全体的に胡散臭い感じがする。

 そもそも、政治家の意識そのものが気に食わない。これだけの無駄をしておきながら、磯崎官房副長官は「全世帯向けの必要な枚数、それと介護施設向けの必要な枚数、これを想定して調達をしたということでございます。当時の状況におきましては適切であったというふうに認識をしてございます」っていたいどういう神経なのか。本当にそう思っているのか。官僚ペーパーをそのまま読むなよと言いたい。

 国費とは誰の金なのか分かっているのだろうか。また政府も政府だ、いくら当時パニック状態だったとしても、こんなに先を読まないで、その時任せの調達はあり得ない。余った時の対処や配布スケジュールの遅れまで含めて考えていないからこういうことになるし、政策そのものがあまりにも出たとこ勝負過ぎるのだ。政治家がなんと言おうと、メディアやSNSが恐ろしかろうと、それにお金を出す官公庁は絶対的な調整能力と公僕としての誇りと自信を持って、施策を推進してもらわないとだめだ。政治家に言われてあっちへこっちへ右往左往しているようではだめだし、政治家に受ける小賢しい提案をしているようでも困る。

 山本周五郎原作の「樅ノ木は残った」ではないが、逆臣となろうが極悪人と罵られようが、絶対的な権力者に畏れも反発もせず、ひたすら凡庸に徹し、愛する者を静かに守り、忠義をつくすために信念を貫くことが大切。小説では、この静かなる信念が庭にある樅の木に投影される。「私はこの木が好きだ。この木は何も語らない。だから私はこの木が好きだ」と。

 選挙が終わったが、政治家と政府のあり方そのものが問われるのはこれからだ。政党云々でも、政策云々でもなく、無責任な言いたい放題ではなく、やること一つ一つに身を滅ぼしても国民を守る信念を持ってもらいたい。これが今の彼らには必要なのではないか。「アベノマスク」という施策が良かったか悪かったではなく、これが必要だと信じて決めたのなら、最後まで死力を尽くして運用する信念が大切だ。「アベノミクスは残った」では覚悟を何も感じない。

※「残った」の意味が違い過ぎました。語呂合わせだけで失礼しました。

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