地域リーダーはイチブトゼンブ

 農村づくりを推進するに当たって、現場で何が問題かと聞くと、決まって言われるのは「リーダーの後継者がいない」ということだ。このことについては、本研究会でも、ここ3年間で何度も「言わせてもらえば」のコーナーで話題にしてきました。そして、後継者問題解決のためのヒントについてもいくつかお話してきたように思います。それでも、なかなか難しい問題で、ある一定の法則をクリアすればなんとかなると言うことでもなく、どの地域も後継者問題は深刻な問題のまま残っています。

 先日、某県のとある地域リーダーと話をしていると、こんなことを言われました。

 「地域を背負って、みんなを引っ張っていってぐれるのはあの人以外にねえべど思って、これまでも、地域づくりの役員を引き受けてもれえながら、おらの傍で活動や動きを全部見ていでもらったんで、そろそろおらも歳だしよ、いよいよあの人に託そうど思っていだども、彼は地域内で他にもいろんな役を背負っていで、今となってはとても忙しぐで、地域リーダーをやっでもらうのは難しぐなったべ。さて別の人を探すべぇと考え出したら、とにかく人材がいねえよべよ。どうすっぺ」

 ボイスレコーダーで録音しなかったので、おおよその再現で、おそらく方言は間違いだらけですが、方言などはどうでも良い(地域が特定されてしまうと、「某県」と言った意味がなくなってしまうし)。言わんとしているのは、一人にターゲットを絞って、地域リーダー候補として育てて来たつもりが、いざ交代しようと思ったら、元々そういう能力のある人だから、忙しすぎて対応できなかったということなのである。

 おそらく、農村づくりに励んでおられる読者の方の中には、こういうことよくあるとか、それ、私も経験したと言われる方がいらっしゃるのではないかと思います。

 地域リーダーの候補になるような方は、御座なり自治会役員の順番性とは性格が違うので、チャチャッと決めるという訳にも行かないし、前リーダーの流れを踏襲しながらもオリジナルな活動を提案していけるような人材となると、益々候補は絞られてくるものです。

 私も三十数年間に渡り、全国各地で農村づくりのお手伝いをしてきましたので、地域リーダーを後継するときの留意点はまとめています。前リーダーに申し上げているのは次の3つ。

  1. 後継者が自分のやったことを超えてくれるほど働いてくれると思ってはいけない。
  2. 農村づくりは農村地域の集団の意思であって、特定の人の想いだけを引き渡してはいけない。
  3. リーダーがいなければ地域の問題が解決しないと考えてはいけない。

 1については、よくある話である。前リーダーがこの人が良いと思って交代しようと考えているが、あの人は忙しいから思ったほど動いてくれないのではないかとか、少し考え方が違うので自分が思った農村づくりにはならないと考えてしまう事例だ。これは良くない。どれほど気が合う人であったとしても、また長年一緒に農村づくりに勤しんできた仲間だったとしても、互いの生活も違うし、場合によっては職業も違うかも知れない。人には人のやり方があるものなので、前リーダーは、自分が思った通りにはならないと開き直り、大きな期待をしないことだ。どんな結果になろうと、ここは完全に役割を移譲してもらいたい。前リーダーが顧問とか相談役なんて形で組織内に残ることもあろうが、できる限り口を出してはいけない。本当に困った時だけ助けるので良い。

 2については、気の合う仲間だけの取り巻きを集めてはいけないという教訓だ。農村づくりは一子相伝ではない。集団全部の意思の方向があるのです。前リーダーが元気なときに、一部の人にだけに想いを伝えることは避けるべきです。あの人一人だけが頼れて、後は、実際にはよく分かってくれていないなんて思ってはいけない。役員にはできる限り平たく、自分が考える農村づくりの哲学を伝えて、焦点を絞り過ぎてもいけない。方向性だけを継いでもらうようにすべきであるし、それは数人に伝わっているように育成していくべきである。もちろん、『言うは易し行うは難し』で、そんな簡単ではないということになるが、会社でもそうだが、カリスマ社長が引っ張っていく会社は、倒れる時は早いものだ。柔軟性のあるカリスマであるように努めるべきで、後継者も柔軟性があるから安心して引き継げるのではないだろうか。極端なことを言うなら、「今までのやり方とは違った農村づくりを俺はやりたいんだ」という次のリーダーがいても良いのである。

 3については、「言わせてもらえば」の2019年11月の投稿「地域リーダーは本当にいないのか」の中で、私は次のように申しました。『リーダーは、得意技集団とコミュニケーションが取れれば良いのであって、リーダーという気質もさることながら、コミュニケーション力が大切です。そして、そのようなリーダー的な人材は必ず地域には数多眠っているのです。』

 長年の農村づくり活動の中で、私は、優秀なリーダーばかりを見てきた訳ではありません。中には、少し優柔不断なリーダーもいましたし、地域に対する理想像も無く、役員たちの意見を聞くだけに徹していて、いつも最後は「各担当よろしくお願いします」しか言わないのに、なんとかいい具合に活性化を実現しているようなリーダーも見てきました。そうなのです。リーダーが一人で、その人が全員を引っ張っていくという考え方自体が少し古いのです。大切なのは、合意のあり方であって、リーダーが全責任を負うことのない体制づくりもあるのです。後継のリーダーがいないと悩む地域では、誰か一人に決めてしまわないといけないと考え過ぎています。もちろん、責任が生じるものもありますので、根なしリーダーというのも良くはないのですが、要するに役割分担です。1人が10の仕事の責任を持つより、3人が3.3ずつ責任を分ければ良い。昔風のリーダーの品格はないかもしれませんが、三銃士型の『One for all, All for one (一人はみんなのために,みんなは一人のために)』で良い訳ですし、その取り巻きも、何も地域内に住んでいる人ばかりでなくて良いのです。関係人口をしっかり使えば良いのです。

 ただ、これらの考え方を浸透させていくためには、やっぱりリーダー育成は必要となります。ですから、頻繁に寄り合って、日頃からそれぞれがいろんな考えを出し合って、ああでもないこうでもないと言いながら、自分たちの農村づくりの方向性を固めていく取組は重要となるのです。

 あの人しか地域リーダーは継げないと思った瞬間に、農村づくりとしては破綻していると思ってください。イチブとなる地域リーダーは集団なり組織というゼンブと一体であるのです。

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