タイパ

 昨今、若い世代で、『タイパ』という言葉がトレンドとなっています。価格のパフォーマンスのことをコストパフォーマンス、略して『コスパ』というのと同じで、時間のパフォーマンスのことをタイムパフォーマンス、略して『タイパ』というのです。時間を使って勉強・仕事・趣味・家事などの作業をするときに、タイパが良いとか悪いとかと言って使われます。

 時間を掛けた割には勉強や仕事の成果が上がらないときは、それはタイパが悪いということなのだろうが、最近の若者の間で使われるタイパはもう少し極端で、違う意味に使われます。映画やYouTubeの動画を2倍速で視聴したり、歌を聴くときもイントロをカットして聴いたりと、作品の深みを味わってもらうために製作者が意図して作った間合いみたいなものはすっと飛ばして、内容さえ理解できれば、それも「タイパが良い」ということになるらしいです。「どういうこと」って聞き直してしまいます。

 この『タイパ』というセリフがよく出てくるのが、NHKで1月からのクールで放送している『正直不動産2』というドラマです。夏原武・原案、水野光博・脚本、大谷アキラ・作画の漫画をドラマ化したものですが、嘘のつけない男で、なんでも正直に話してしまう不動産会社の営業マン・永瀬財地役、山下智久さんの演技がすごく填まっていて、実に滑稽です。人気があったので、今はセカンドシーズンが放映中ですが、このシーズンに出てくる新入社員・十影健人はZ世代の申し子で、タイパ重視主義で、永瀬ら先輩社員たちを困らせます。

 住宅の内見に付き合うのもタイパが悪いからとネットで写真を見せて終わらせる感じですし、終業時間ぴったりに帰り、駅前でのビラ配りやポストティングなんてタイパ最低なので絶対にやらない。とにかく無駄だと思われることは絶対やらない。そして究極のタイパとして意識しているのは「不労所得」だというのだから徹底している。高度経済成長時代に、無駄に無駄を重ねて、無駄をプラスに変換してきた我々世代としては、怒りを込めて「そんなことで仕事になんのかっ!」、「無駄は仕事の肥やしになるんだ!」って叫びたくなります。

 さて、農村づくり活動は仕事ではありませんが、それに使われる時間と内容からすると、この活動はタイパ最低の部類にはいるでしょう。人と人の繋がりを大切にする活動ですから、その根回しにも時間がかかりますし、時間を掛けてもまとまらない案件も多い。特に、集落環境点検などのワークショップなんてのは、まずまず掛けた時間と成果の大きさが見合っていません。そういう意味では、若い世代が最も嫌がる時間の使い方となると思われます。しかし、実際には、大学などで農村づくりのワークショップをやってみると、学生たちは生き生きと無駄な時間を楽しんでいるように見えます。10年ほど前の学生の例なので、もしかしたら今はもっとタイパに厳しいのかもしれませんが、この頃では、多くの学生が、農村をどうしようかという議論をするときに、これやって何の意味があるのかと、そっぽ向いている人は少なかったように思います。ワークショップで集めたデータの整理なんかは、ポストイットで書いて地図に貼るより、パソコンで直接、地図上に整理していく方が良いと考えるようですが、メンバーとワイワイがやがやと議論することについては、タイパをそれほど気にしていないように見受けられました。

 このことを考えると、今時の若い世代のタイパとは、コスパとの関係性が強いのであって、コミュニケーションの時間をタイパだけで評価してはいないようです。もちろん、一つの問題で話し合う時間が長くなるのはタイパが悪いということで、タイムスケジュール管理は綿密に決めて、昔のように、納得いくまで夜を徹して話し合うなんてことはしなくなったことも確かです。

 我々、昭和の農村づくり戦士は、「夜なべ塾」と称して、とにかく酒を酌み交わし、喧嘩をしながら、朝まで話し合っていたことがありましたが、最近のワークショップは働き方改革が徹底していて、健康に悪いこと、生産性が悪いことは避けます。そりゃそうです。若い頃、朝まで話し合いなんてやっているところに何度も遭遇しましたが、みんなボケ~としていて、朝方になって良いアイデアが出たなんてことは先ずなかったですね。早めに寝た班の方が良いアイデアを発表したりします。そういう意味では、若い世代が仕切るワークショップの方がタイパの良い成果が得られるのかもしれません。

 ワークショップのやり方はいろいろとあるので、朝までやりたい人は朝までやってもいいし、さっさと切り上げたい人はさっさと切り上げても良いですが、大切なことは、タイパ主導で考えてはいけないということでしょう。ここは時間を掛けて話し合いの間合いを詰めたいと思われる時は、無駄と感じてもその無駄を楽しんで、なんとか成果にしていかないといけないし、データ整理のように、こんなものに時間を掛けたくないと思った時は、タイパを計算した方が良い。ようするに、無駄には無駄の良さがあるということも価値として認めた上でのタイパ最大化を目指していくべきだと思います。農村づくり活動でも、ICTをどんどんと取り入れてタイパを上げておけば、無駄な時間と思われがちな話し合いという大切な部分に時間を割いて、少々タイパが落ちても良いのではないでしょうか。若い人たちが農村づくりに積極的に参画する時の鍵となりそうです。

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