マイナンバー保険証とITリテラシー

 先日の人間ドッグで、目の異常があると指摘されたので、個人眼科へ行ったのですが、受付でいきなり「マイナンバーカードは持って来ていますか」と問われました。紙の健康保険証がなくなることは知っていましたし、前立腺がんの治療で行っている総合病院でも、マイナンバーカードの読み取り機も置かれているので、そろそろマイナンバーカード一本に絞られるのかなとは思っていましたが、いきなり言われるとさすがにドキッとしました。

 「紙の方は持って来てますが・・・」と返答すると、「ああ、それでいいですよ」と言われたので、そりゃそうだよな、まだ早いよなと思いましたが、紙の保険証を見せながらあたりを見回すと、そこら中に、『12月2日から保険証が廃止されます』というポスターが張ってありました。「えっ、いつのまに」という感じです。そう言えば、デマ太郎などと呼ばれている態度の横柄(おうへい)な大臣が24年の秋には紙の保健証は廃止だと言っていたのを思い出しましたが、「ちゃんと聞いていなくて、ごめんね大臣!」あまり気に留めていなかったので、12月からになったとは驚いた次第です。保険証を使うことが多く、しかも社会のICT推進派の私がこの程度の認識なのだから、健康な人やデジタル化に疎い人にとってはもっと関心が薄いように思うのですが、どうでしょうか。それとも、知らない私が情報不足なのだろうか。ちなみに、病院へ滅多に行かない妻に聞いたところ、やっぱり知らなかった。住民票の誤発行や情報登録時の紐づけ誤りなどが発生したというマイナス面のニュースだけはよく覚えているんですけどね。

 さて、マイナンバーカードの普及率は2024年6月30日時点で74%となっていますが、健康保険証のマイナンバーカードへの紐付け率は57%で、更に現場での利用率は6.5%程度だそうです。私はデメリットがあろうがなかろうが何も考えずにさっさと何もかも紐づけしてしまいましたが、考えてみれば、いろんな情報が入っているマイナンバーカードを持ち歩くことは怖いことでもあります。病院へ行く時というのは、もしかしたら少し普通の状態ではなく、頭がぼやっとしているかも知れないし、注意力が散漫になっているので、紛失する可能性も日頃より高いかもしれない。そう考えると、いっそうのことマイナンバーカードの提示なんてまどろっこしいことはやめて、顔とか指紋とか指静脈認証とかのネットワーク生体認証にしてしまい、身体一つで病院へ行っても保険証の本人確認ができれば良いのに (マイナンバーカードの写真と提示者の本人確認の顔認証は今の機器でもされています) と思ってしまいます。セキュリティの確保は難関だろうけど、今のICT推進社会はなんとなく中途半端な感じがします。

 さらに農村のICT化の推進はなかなか大変だと言えるでしょう。通信インフラが整っていなかった時代が長かったことから、そもそも都市部より住民のITリテラシーが低い上、高齢化も進んでいて、居住分散性が大きいため、研修システム等による一斉のリテラシー向上が図れず、どうしてもIT難民を置き去りにしてしまうことになります。つくば市は農村ではないかもしれませんが、冒頭の眼科でも、私の後に来た80代後半と思われるお年寄りは元気そうなので、病院に慣れておらず、全体的によく分かっていないみたいで、保険証も持って来ておらず、「電話で尋ねたら、マイナンバーカード持って来いと言いよったが、持っとらんし、よく分からんで、何も持たんで来たが、ここで作ってくれんじゃねぇのか」とお年寄り独特のボケをかましていた。受付の人に「市役所に行って作ってきてください」と説明されて、「不親切じゃねぇか」と怒りをまき散らしていました。いやー、これが実態です。

 私は農村のICT化は農村づくりにとって重要であると信じて、現役時代、全国多くの地域で様々なICT研修会をしてきましたし、昨今では多面的機能支払いの会計事務の簡易化を目的に、事務ソフト「楽ちん多面」の普及に努めてきましたが、とにかく、ICTの推進にはひと山もふた山も越えなければならない山があるのです。ITを推進している方たちからは、リモート研修会をするとか、公民館毎に集まっての研修会をやれば良いのではと簡単に言われますが、公民館にネットワーク回線が引かれていないところもまだまだ多く、リモート講習会をしようにも、農村組織としてのITリテラシーがそのレベルまでも行きつかないのです。実際この5年間、Zoomを使った「楽ちん多面」の操作説明会や質問会を無料で引き受けてきましたが、毎日のように電話やメールで質問は来るものの、Zoomでやって欲しいと言って来たユーザーはたいへん少ない。何故かと聞くと、「ようやくメールが分かって来たばかりで、Zoomの設定はよくわからない」と言われてしまいました。もちろん未だにメールでさえ覚束なく、電話が多い訳です。便利だからすぐICTが普及するとはいかないのです。

 農村のICT化と比べると、おそらくはマイナンバーの取得と保険証の紐付け作業などは必要性が高いので、なんとか普及率を伸ばせるところではありますが、必要に迫られればみんなやってくれるだろうということでもなく、やはりそれなりの移行期間、もっと言うならば、インセンティブの働く移行期間が必要なのだと思います。健康増進、経済活性、医療費低減などとリンクした日常的なポイ活もフルにセットしないと(今でも、マイナンバーカードを使えば医療費は少し節約されるみたいです)、黙っていても、みんな必要に迫られたらなんとかするだろうとか、高齢者でもパソコンを使える世代が増えて来たから待っていれば良いでは何も進まない気がします。紙切り替えの移行期間は1年だそうです。本気でやるなら、ありとあらゆるITリテラシー向上戦略を立てる必要があるのではないでしょうか。こりゃ、12月2日が見ものであります。

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