災害情報伝達はシンプルに

 災害情報において伝達量が多すぎるのはよくないな。先日から台風10号の行方を毎日のようにテレビで見て確認していましたが、見れば見るほどやっかいだなと思い始めました。「言わせてもらえば」の投稿では、これまで何度も、現在の災害情報の伝達の表現が素人には分かり辛いということを申し上げてきましたが、今回も分かり難いのを一つ見つけました。「台風特別警報」と「大雨特別警報」の特別警報の意味が異なるということです。

 「台風特別警報」は中心気圧930ヘクトパスカル以下、または最大風速50メートル以上や、同程度の温帯低気圧が襲来する場合に発表される警報なのだそうです。この警報は、「大雨特別警報」のように、大雨がすでに降っていて、雨量などいくつかの目安が満たされた時に発表されるもので、緊急安全確保の「警戒レベル5」の判断材料に直結するような警報ではないということです。簡単に言うと「今までにも滅多にないような大きな台風が来そうだぞ。だから気をつけろよ」という単なる宣言みたいな感じです。それじゃ同じ、「特別警報」なんて用語を使うなよな。そもそも「特別」というのが何の意味かも分からないですし、「大雨特別警報」と同じ「特別」という言葉を使って表現したら、「大雨」が「台風」に変わっただけと解釈してしまい、台風に伴う災害がすでに発生していて、すぐにでも安全行動を取るべきなのかと悩んでしまいます。用語の整理についてはもっとよく考えてもらいたいということは再度声を大にして訴えたいと思います。

 更に、今回テレビを見ている内に、災害情報の伝達についての問題点を他に2つ見つけましたので、ざっくばらんにこの投稿で言わせてもらいます。

 まず一つ目は、「ハザードマップ」のことです。最近はかなり多くの人がこの用語に敏感に反応するようになったと思います。小さな子供たちでも知っていますし、お年寄りでもこれを参考にして日頃から避難のことを考えないといけないという認識を持つようになっています。用語が使われ始めてからもうかれこれ30年、整備と広報には長い年月かかりましたが、ようやく「ハザードマップ」の役割が社会に浸透してきたのだと思います。これはとても良いことです。しかし、メディアでは「ハザードマップを確認しておいてください」としか言わないので、どれだけの人がハザードマップを正しく読み取っているのか疑問になりました。

 私は地理情報システム(GIS)を住民参加の農村づくりワークショップで使った経験があるので、すばり言わせてもらいますが、一般の住民は、自分の住んでいる地域の地図の上になんらかの意味を持った色が塗られた場合、こういうのをオーバーレイ(重ね合わせ)による表現と言いますが、オーバーレイが多くなれば多くなるほど自分の位置を見失う可能性が高いのです。よって、メディアで「ハザードマップを確認しておいてください」なんて簡単に言われてもなかなか困難だということです。もちろん地図をゆっくり読み取っていけば、「ああ、ここがあの郵便局だから、この道路が国道○○号で、そうすると自分の家はここか」とか「この田んぼは○○さん所だから、この交差点の所が一次避難場所か」とか、小学校で地図を習った人なら自分の位置を読み取れないということはありません。しかし、オーバーレイは住民が日頃見慣れない独特な表現方法であり、多くの人が一瞬戸惑う地図だということを、ハザードマップを示す専門家には分かってもらいたいし、メディアに対しても、ハザードマップとはそういう性格を持ったものであることを意識して伝えてもらいたいと思います。

 また、地図の読み取りを習った、習っていないに関わらず、地図に弱い住民も多いということも認識しておくべきです。地図を見てその時は分かったような気になりますが、いざ地図に沿ってどこかに行こうとするとそれほどスムーズにはいかないタイプの人たち、「地図音痴」なんて言われますが、そういう人も多いということです。これは音痴である人が劣っているということではありません。空間認知からの平面変換の能力は個人特性があるということで、ちょっと鍛えて治るものでもなく、子供の時からの各人の性格みたいなものもあるのです。日頃から地図を何度も何度も見て、互いに確認しているからこそ使えるハザードマップになるのであって、災害が来そうだから確認しておこう程度の認識でハザードマップを見ても、冷静な行動には繋がらないということです。各自治体も、ハザードマップをネットで公開しているし、役場や役所に来てもらえれば紙ベースのものも配布しているから、もう大丈夫、役割は終わったと思ってもらっては困ります。ハザードマップは、それを読み取り、活用して使う訓練までして初めて整備したことになることを忘れてはいけないと思います。

 更に、技術革新への要望としては、これからはAIなどを駆使して、今自分が見たいのはどのハザードマップで、それをどの視点から見たいのかを自動で汲み取ってもらい、探さなくても情報が提供されるようにしてもらいたいものです。

 そして、もう一つ気づいたのが、災害情報の多さの問題です。気象予報士や番組の好き嫌いもあるので、人によって誰のどの番組を聞くことが一番分かり易いのかとか、信用しやすいのかというのもあるのでしょうが、気象予報士や解説者の表現の方法や災害情報を伝えるニュアンスがあまりにも違い過ぎて、たくさん見ていると、それぞれをどう解釈したら良いのか分からなくなってしまうことがあります。また、何度も何度も繰り返し伝えられているうちに、刻々と変化する情報もあって、自分の頭の中でも、「あれ、さっき言っていたことと違うなぁ」なんてこともありますし、私が「NHKではこう言っていたよ」と妻に伝えた時には、妻は民放で新しい情報を掴んでいて、「それ知らんかった」ってなるし、更に、子供たちがスマートフォンでネットから別の情報を引っ張ってきたりして、「それもう古いよ」なんて言われたりします。この情報のタイムラグや伝達の多様性が判断の混乱を来すことがあったりします。多様な情報をリアルタイムで入手しておくことが大切だというのは正しいことですが、情報もたくさん、タイムラグもたくさん、聴く耳もたくさんとなると、かえって混乱の元になるように思います。能登半島地震の時のNHKの山内泉アナウンサーの「今すぐ逃げてください!」の切迫感はNHKだけ見ていた人にはよく伝わって良かったが、いろいろとチャンネル変えてみた場合は、他局との温度差も際立つように思う訳です。高齢者には特に難しい情報リテラシーとなるでしょう。

 今回の投稿は思いつくままに書いてしまいましたが(いつもか)、とりあえず、災害情報伝達において、是非検討してもらいたい課題をまとめます。第一に、用語の統一と分かり易い表現、行動に繋がり易いシンプルな伝達方法の全国統一規範を構築してもらうこと、第二に、ハザードマップなどの地図を伴う情報の分かり易い表現方法と正しい読み取りと学習過程の充実をすること、第三に、メディアによって標準表現をチェックすること、災害情報の時間的伝達の一貫性を確保することとなります。

 専門家やメディアの方たちはよく分かっていると思いますが、もし、この投稿を見られたなら、是非、こういうことも今後考慮して災害情報の伝達をよろしくお願いします。あなたたちが命の綱となることがあるんですから。

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