住民の住民による住民のための農村づくり

新年あけましておめでとうございます

 本研究会の会員の皆様、農村づくりに携わる全国の皆様並びにホームページの読者の皆様には、旧年中、一方ならぬご厚情を賜り、誠にありがとうございました。

 本年も、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げますとともに、農村づくりや多面活動の運営に向けて、研究会として皆様のお役に立てるようがんばって参る所存でありますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 昨年より、「言わせてもらえば」や「農村づくり講座」のコーナーにおいて、農村づくりにおける重要な視点等について紹介してきたつもりですが、投稿が断片的かつ一貫した流れでの公開ではなかったので、言わんとすることがうまく伝わらなかったところもあるかと思います。

そこで、本年最初の投稿として、私の農村づくりのスローガンであり、最も重要な農村づくりの視点と考えている『住民の住民による住民のための農村づくり』についてお話ししたいと思います。

 私は、元々は農業土木技術者であります。大学時代から水理学を中心に勉強し、農業用水路の水理設計にかかる技術を身につけてきました。就職も農林水産省農業土木試験場に入り、途中で一度行政の経験もありますが、基本的にはずっと研究者として過ごしてきました。

 研究生活は大変充実しておりましたし、用排水路の水理設計に関する研究は、持続的な農業経営の根幹に当たるもので、重要な研究であることには違いなく、誇りもありました。

 しかし、研究生活が十年過ぎた辺りから、なんとなく、この研究が農村や農業、地域住民の方々との距離が遠いという印象もあり、もっと地域へ踏み込んだ、住民との二人三脚となるような研究支援ができないものかと悩み、昭和60年ごろから、農村づくり支援に向けた研究をはじめ、その後三十年間にわたり、全国百カ所以上の農村づくり支援を続けてまいりました。

 特に、京都府舞鶴市与保呂地域での支援は、農業改良普及センターの普及員さんと協力し、支援活動は五年に渡りました。この時の地域の取組は、その後、農村アメニティコンクールの優秀賞にもつながり、その時に育んだ農村づくりの考え方や様々な技法は、農林水産省の「美の里づくりガイドライン」や農業高校の教科書「グリーンライフ(農文協)」にも多くの内容が掲載されています。また、それ以外の農村地域の活動でも、住民の皆様の努力により、表彰を受ける取組になったものや高い評価につながる農村集落も数多く出ました。

 もちろん、その中には、様々な失敗と成功があり、農村地域の皆様にはご迷惑をおかけしたことも事実であります。

 その中で、平成19年を過ぎた頃、ちょうど、多面的機能支払制度の前身である農地・水・環境保全向上対策がはじまった頃から、私が手がけた支援も含めて、全国で展開している様々な農村づくりに対して疑問が出てきました。地域リーダーが先導して地域づくりを進めている地域であっても、専門家や研究者が入ったり、市町行政職員が手掛けて、いい成果を出している地域であっても、一度、地域リーダーや先導する者がいなくなったりすると、その後勢いがなくなり、萎んでいく地域が多いことです。また、よくあるのが、事業として資金がある時はなんとかやれているのですが、事業が終わった途端に、活動が切れてしまう例です。「金の切れ目が縁の切れ目」という奴です。

 引っ張っていく者の想いが強過ぎたり、手をかけ過ぎたりで、ようするに過保護状態になってしまっているのではないかと思い始めました。親が手を添えないと立つことすらできなくなってしまいます。

 リーダーがいるうちは大丈夫だとか、誰かが引っ張ってくれればできるのではなく、住民一人一人が、高い意識をもって農村づくりを進めること、転んでも、転んでも、一人で立ち上がるそんな農村づくりこそが究極の農村づくりには成りはしないかと考えました。

 地域特産で経済的な活性があること、景観が美しく設えられて、多くの訪問者が来ること、それ自体は派生して成果があるならそれで良いが、何も、特別なことをして目立った農村づくりではなくても、住民一人一人が意識を高く持って取り組むことが重要なのではないかと思うようになりました。

 確かに理想論です。意識も高く、成果も目に見える地域はそうそうはありません。でも、ここを目指さないと、必ず農村づくりはいつか萎むのです。萎んだり膨らんだりするのは、活性化のアイデアだけであってもらいたい。住民の農村づくりへの情熱は萎んではいけないと思うのです。

 『住民の住民による住民のための農村づくり』は、ご存知のように、リンカーンの言葉の「人民」を「住民」に変えただけで、いわゆるパクリですが、住民自らが立ち上がって、住民自身が地域をよく知り、自ら考えて、互いを助け合い、住民の身の丈に合わせて自分たちのできる範囲のことから手がける農村づくりが重要であるという意味で、ぴったりと填まるスローガンであります。

 私が、そして研究会が、農村づくりのいいアイデアを出すのではいけないのです。研究会が成すべきことは、住民が自ら考えて動ける環境や人づくりを支援することだと思っています。そのための講座やブログを今年も目いっぱい展開していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 早々に答えが欲しいと思わないでください。遅くはありません。今からでも大丈夫、一緒に考えていきましょう。力量以上に今だけ活性したってなんの意味もありません。大切なのは、住民一人一人の力を結集することなのです。

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