努力は共助と共にある

 「受給者や貧しい人は努力が足りない」みたいなことをある著名人が発言したことで、ネットは炎上し、ここ2か月、新聞やネットで「貧困」と「努力」についての議論が続いています。この著名人の実際の発言はもっと酷いもので、人権問題にも関わり、そのまま載せることさえ憚れましたので、オブラートに包んで表現しましたが、兎に角、人の尊厳を傷つけるものでした。

 さらに最近は、女性の貧困に関する報道にも繋がってきて、多くのジャーナリストや学者さんたちが新聞、テレビ、ネット上で難しい議論を交わしています。この問題は、直接的ではないものの、岸田政権が提唱する「富の分配問題」にも行き着く根底の議論の一つではないかと思います。

 そんな中、11月2日に政府の令和3年度版の「自殺対策白書」が閣議決定されました。こんな白書があるのですね。これによると女性の自殺者数は前年度より15.4%増え、7026人になったと言うではないか。特に、コロナ禍の影響が大きく、働く女性の自殺が顕著になっているというのだ。非正規雇用で雇用止めが起こり、女性が一人で生きていけない社会になってしまっている(もちろん、女性だけの問題ではない)。

 にも拘わらずその一方で、地域創生の芽も出ず、若い女性は地域でやりたい仕事が見つからず、東京への集中が進んでいるのです。都会の多様性に夢を求めて上京するものの、厳しい現実の中、非正規という画一を甘んじて受けるしかなく、ブラックな社会の波に飲み込まれてしまうのかもしれない。格差の大きくなった厳しい社会の中で更にコロナ禍が覆い被さってきて、身動きが取れなくなるのだろう。

 社会そのものに潜む真の問題を見ずして、安易に「努力が足りない」なんて言葉は使ってはいけない。そもそも「努力は必ず報われる」なんて誰が言ったのだろうか。どう世の中を見たって、報われることなんてほとんどない。

 貧乏だったが、努力をして成功した人は、成功するチャンスは必ずどこかにあったと言うし、最初から能力や経済的に優位な人は、努力が報われるお膳立てがあるから成功するのであって、チャンスさえ見えず、努力しようにも踏ん張る土台さえなくなりつつある時代が来ていることに気づかない。しかし、報われないなら努力しても仕方ないと考えてしまうことも危険な社会に繋がる。

 論説者の中には、「がんばること」が正しいことであり、良いことであると当然のように価値づけられている社会に問題があるとか、「歯を食いしばって生きなければならない」と言わねばならぬ社会にこそ問題があると言っている人もいる。「受給者や貧しい人は努力が足りない」と言った心無い言葉を批判し、この情勢を作った社会や政治に問題を帰結させることは容易だが、強く批判をすればするほど、読解力の無いバカな私などは「じゃあ、みんな努力してなくて良いんだ」、「最後は社会が助けてくれるんだ」と間違って読んでしまう。

 違いますよね。「自助」としての努力に全部背負わせる社会そのものを批判しているのですよね。

 「努力しても成せないこともあるじゃないか」も正しいし、「歯を食いしばって努力する」のだって正しい。その頑張りや悔しさが新しい世界を生み出す原動力になるかも知れないではないか。そのエネルギーまで消してしまってはいけない。またその逆で、幸福のエネルギーが新たなイノベーションを生むこともあるかもしれない。みんなが成功するのでもなければ、成功する時もあればしない時もある。人はみんなそんな人生を背負っているのだ。そんな不安な世の中だから、家族がいて、集落があり、仲間がいて、地域があってと、社会が人を優しく包んでいないといけないのだろう。

 努力が足りないから貧乏なのではなく、努力してもだめなこともあり、それが自分に帰結する場合もあれば、社会に帰結する場合もある。要は、個と社会が如何に実情と心情を共有認知できるかが問題解決のカギとなる。努力と人への気遣いはバランスが大切だ。努力もしたいし、人の温もりも感じたいのが人間ではないのだろうか。

 「自助」というものは「共助」や「公助」のお互い様機能が発揮されているから成り立つもので、「共助」や「公助」ができないから「自助」でなんとかしろというものではないだろう。その逆も成り立つ。「共助」や「公助」としての互いを思いやる精神が宿らなければ、「自助」をしても独り勝ちの世界にしか行き着かない。

 いつも言っていることだが、農村づくりは単に経済活性化を目論むものではない。儲かればみんなウインウインの関係になるということを求めているのではない。人を思いやり、地域で支え合う精神を学べるか否かを真の活性化と定義する『農村づくり』を私は推奨するものである。政府は人権を守るのは当然だが、国全体に金で弱いものを助けたような政策を被せるのではなく、地域のコミュニティと互助の力、人の心を豊かにする政策にもっとテコ入れして欲しいものだ。

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