シビックテック

 今日はちょっとICTの話。カタカナ多くて申し訳ありません。

 身近な社会問題を解決するための取り組みとして、『シビックテック』と呼ばれるものが注目されています。これは、少子高齢化や人口減少、都市への人口集中、行政の広域化に伴う自治体サービスの低下、コロナ禍で深刻化する社会的孤立などに対抗するため、市民自らがICTを活用して調査情報を提供したり、自治体サービスの改善や地域社会の課題解決に向けたソリューションを開発・提供していこうという動きのことを言います。市民(シビック)と技術(テクノロジー)を合わせた造語です。

 ようやく日本でも潮流となりつつあり、主に自治体行政ベースではありますが、全国各地でシビックテックに関する推進グループなどを立ち上げたり、コンクールを開いたり、また、オンラインコミュニティ(インターネットで繋がる仲間社会)の活動も加速化しています。

 シビックテックが学術誌に取り上げられたのは十年ぐらい前からですが、発端となる政治的背景としては、オバマ大統領の2009年の「オープンガバメント・イニシアティブ」の覚書の発表からと言えるでしょう。この中で、開かれた政府として「透明性」、「参加」、「官民の協働」の三原則が提唱され、政府情報を公開するポータルサイトがすぐに立ち上がり、公共事業の透明性や政府データの信頼性が高められました。民間もこれに続き、マイクロソフトや Google もシビックテックを推進し、大きく成長を遂げてきたと言えます。皆さんがよく使っている グーグルマップ(GoogleMaps)などもその方向性の一つです。

 また同時期に、技術的背景として、専門家だけではなく利用者個人が主体的にサービスを改良、公開できる『オープンソース』運動が盛んになったのもシビックテックの推進に大きな役割を果たしたことでしょう。市民の中にもICTの手練れはたくさんいますので、これらの人たちが活動に加わることは技術の市民化が一気に進むことになります。

 そして、日本では2011年の東日本大震災、今回のコロナ禍において、自治体財政のひっ迫も含め、いよいよ、政府や自体行政だけでは、複雑多岐に渡る社会問題は解決しないことが明らかとなり、市民、私としては「住民」と言わせてもらいたいが、住民自身が自らテクノロジーを操って、社会に貢献していく必要性が本格的に求められ始めたのではないかと思います。

 先日、11月19日の NHKの「ニュースウォッチ9」で「市民×IT技術・劣化マンホールを把握せよ!」が放送されたのを興味深く見させていただきました。紹介されたのは、石川県の加賀市内にある約8000個のマンホールの老朽化や劣化の状態を把握しようと、市民が市内を歩いてマンホールを探し、スマホで写真を撮って、位置データとともにWeb-GIS(ネット上の地図)に送り、行政と市民がデータを共有する取り組みです。東京都でも「マンホール聖戦 東京23区コンプ祭り」としてこれまでに開催されており、今回の加賀市は地方版の第一弾で、11月6日から一週間の期間限定で行われたということです。

 プロジェクトの仕掛け人でIT企業代表の森山氏は「想像をはるかに超えて一般市民に参加してもらって、すごいスピードでマンホールの収集がなされている」と語っていましたが、市民もたいしたもので、情報を収集するインセンティブとして賞金や景品がもらえるということもありますが、それ以上に社会への貢献を喜びとして、自転車で市内を駆け巡っている。ほぼ一日で大半のデータが集まったというようなことも言っていました。莫大な市民の力が発揮された訳で、役所の職員が少人数でチョロチョロ移動してデータ収集していたこれまでがなんだかむなしく感じます。これなら、重要なところだけを職員や専門家が点検できて、超効率的です。 

 私は、2003年にGISをはじめとするICTの農村社会での貢献について、農業共済新聞で6回に渡る連載をさせていただきました。その時に、将来、GISは『住民参加型調査』に運用されることになるだろうと指摘しましたが、正にこのシビックテックの取り組みがそれに当たります(ちょっと自慢)。当時は技術的に実現が難しかったが、いよいよ本当にそういう時代がやってきたなとテレビを見て実感しました。 今回の「言わせてもらえば」では、以下に当時の新聞の記事を掲載させていただくことにしますが、シビックテックはまだ都市部を中心にした動きですが、是非、この流れを農村部でも進めて欲しいと願います。

<2003年9月24日農業共済新聞「IT化でeむらづくりを」より引用>
 「GIS」(地理情報システム)が農山漁村振興において果たす役割は、地図とデータベースが一体となって使えるといった、その実質的な機能だけからくるものではない。地図による情報の表現を一つの言語と考えれば、GISは地図を使ったコミュニケーションのツールとして働き、農山漁村の振興においても大きな役割を果たすのだ。この夏、新潟県松之山町にオープンした「森の学校」キョロロは 自然、生活、文化などの幅広い町内情報を収集・展示したミュージアムであり、この施設を核に、町内外の人々が松之山町の自然・文化等の体験活励をしたり、森林や棚田の保全活動をすることによって、都市農村交流を含めた地域活性化を進めている。
 ここの情報コーナーにあるGISは、「GPS」(全地球測位システム=人工衛星で地球上の位置が測定されるもので、自動車のナビゲーターにも使われている)が付いたカメラと連動しており、昆虫、植物、野鳥などの生息位置とその生態情報や集落の祭り、行事などのさまざまな里山情報が、カメラを持った住民によって、季節の変化に合わせ更新され、かつ、ダイナミックに映像が館内に投影され、閲覧できる。GISが、町住民間、町住民と町外者との情報交流の場を広げるツールであると同時に、住民参加による映像芸術となっていることは、発展性のある画期的な取り組みと言える。まだ、GIS上の情報量は少ないが、これから2、3年と歳月を重ねれば重ねるほど、住民が集めた情報の価値は上がる。
いつの日か、住民が撮影した一枚一枚の写真や観測記録が貴重な資料となるとともに、地域の環境保全に大きな役響を果たす日がやってくるだろう。
 また、最近では、これまでのGISをインターネッ卜上で公開し、広範囲な人々との地図上での情報交流を可能にする「Web-GIS」と呼ばれるシステムの運用によるさまざまな取り組みも始まっている。
 島根県中山間地域研究センターではこれまでに、全県中山間地域の3554集落の人口、世帯、高齢化率等のデータをGIS上に表示できるようにしているとともに、各集落での活性化プランの展開状況等も含めてインターネット発信し、地域情報の発信・共有を支援している。
 地域住民が、わかりやすい地図で、地域の現状を読みとり、地域の将来像を考える仕組みとして、このようなWeb-GISによる支援はこれからも期待されるであろう。そして今では、この仕組みは、さらに発展し、住民参加型誦査による環境マネージメント支援にも運用されるようになっている。
 「神戸川環境マップ」の取り組みでは、島根県東部を流れる神戸川流域の29の小中学校1103人の児童・生徒が一斉に各校区内の川に入り、56力所にわたる生物調査や水質調査を行い、その結果を、各校から直接インターネットを介してWeb-GISに入力し、神戸川流域の環境把握を住民が自主的に行った。地域住民が地域環境情報について共有認識を持つことは、自然豊かで地域文化の醸し出されるゆとりある農山漁村の空間を保全・形成していくための第一歩であり、GISはこれらの活動を支援するツールとしてたいへん有効である。
 GISはコミュニケーションツールとしての役割を今後さらに拡大していくであろう。IT化の基本は、やはり人である。人が使いこなせば使いこなすほど、GISはさらなる進化を遂げ、一段と農山漁村振興に貢献するツールになっていくだろう。
(山本徳司:独立行政法人農業工学研究所集落整備計画研究室) 

 私は、将来的には、服や帽子や靴に装着されたセンサー(こういうのをウェアラブルセンサーと言います)によって、人が意識しなくても、環境データを集積できるような仕組みも重要だと考えています。ため池や水路や田んぼの状況を把握するのに、いちいちセンサーを取り付けて、データを通信するのではなく、農村住民が豊かな自然を楽しんで、農村をジョグングしたり、買い物したり、田んぼの様子を見に行ったりするだけで様々なデータが集積されて、AI(人工知能)で重要なデータのみが、個人情報保護をクリアして引き出せ、農村社会に貢献できるデータとなる仕組みも必要だろうと思っています。

※つくば市のマンホールの写真を撮ってみた。これは新しい方のマンフォールで、古いのは同じデザインで凹凸が逆のがあるんですよね。 ※新聞写真は著作権上加工を施しています。イメージとしてご覧頂き、文章は引用を参照ください。

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