メロンこわい

 農村地域へ行くと、農家の方が、これ食べてみろ、あれ食べてみろと、いろいろと採れたての野菜やそれを使った特産や郷土料理等を振舞ってくれることがあります。農村づくり支援で全国を行脚していたので、様々な地域でいろいろな御馳走を頂きました。

 畑で野菜をもぎ取って、そのまま食べてみろって言われて、一かぶりすると、大方の野菜は、都会のスーパーで朝取りだと言われて売られているものよりも絶対に美味い。最近のスーパーでは、地元農家の野菜直売コーナーもあって、激甘!、新鮮!などの文字が躍るポップが付いた有名農家のものはかなり美味いものもあるが、それでも、畑の中で食べるということも影響するのだろうか、その場でもぎ取って、土を払って、朝露ごと食べる野菜の味には負ける。(空気に晒したり、熟すのを待ったり、熱を加えた方が美味いのもあるが)

 そして、農家さんの「どうだ 美味いだろう」というしたり顔に負けてしまいます。

 ただ、多くの農家さんは人が良いというのか、おもてなしの心が溢れているというのか、一度褒めると、その後、尋常じゃない量を出してくれることがあります。贅沢で罰が当たるかもしれませんが、これには美味しいと言う前に参ってしまう時もある。

 それでも若い頃は、出されたものはとにかく平らげるのが礼儀だと思って一所懸命食べたものだ。野菜の種類によってはあまり食べ比べたことがないものもあるし、嫌いなものもあるが、

「あっ、やっぱり違いますね。美味しいですね」なんて、まるで情報番組の取材レポートみたいに、お決まりの言葉が出てしまうので、それならもう一つ、もう一つ、こっちの方が甘いかなと、切りがなくなる。

 大学の時に、1週間ほど熊本のとあるメロン農家に研修に行ったことがある。この時は参った。3人が研修員となったが、初日にこれ以上ないと言うおもてなしを受けて、メロンを振舞われた。みんながみんな声を合わせて、「こんなおいしいメロン食べたことありません」と言ったものだから、

「どうだ、美味いだろう。研修中に一生分食べて帰ってくれ」と笑顔で返され、1週間毎日、朝昼晩とメロンが出た。特に、昼は最高最悪で、ハウス内で、このメロンとご飯とお茶だけが出る。メロンの漬物ではない。あの高価なメロンがそのままおかずとして出されるのだ。商品としての間引き処理もあったとは思うが、追熟を待たずにギリギリまでハウスで育つ完熟メロンを食べられるのは、学生3人にとっては、正直言って、生涯一の贅沢だ。だから、素直に「美味しいです」と言ってしまう。辟易としている顔なんて見せられない。

 たまに、こちらの心を見透かして、「そんな美味い訳ないやろに。無理せんで」なんてこちらの顔を伺う農家の方もおられるが、このメロン農家の方は、メロン以上の甘い笑みを作って、次々とメロンを切ってくれるものだから、3日目ぐらいからは、これは研修における新手のいじめなのだろうかと思ったぐらいだ。

 研修が終わる前夜に焼肉バーティ―を開いてくれた時に、「研修どうだった」と聞かれて、これまた3人が三人、「もうメロンは食べられません」、「本当の意味で、『メロンこわい』です」と言ったので、農家の親父さんもお母さんも、初めて学生たちがメロンを食べるのに苦労していたことを知ったのだ。

 お母さんにはそうとう怒られました。何故、もっと早くに言わないのかと。そんなこと言われても、学生かつ研修生の分際でそういう訳にはいかずというところだと言い返すと、お母さんはこう言われた。

「あんたら3人は、研修に来て一番大事なこと覚えたと思うよ。心に思っていないことは言ったらあかんということやね。言いたいことがあったり、ちょっと違うと思うことがあったら、『違うと思う』と、しっかりと相手に伝えんといかんということやね」

さらに、こんなことも言った。

「研修すると同時に、私らも研修になっとるんよ。都会の若い人はどんなもんが好きなんかなとか、メロンの味だって、只々甘い方が良いってもんでもないよ。あんたたちの食べっぷりを見て、勉強しよんやから。本当のことを言わんといかんよ」

 この研修以降、私は少々失礼ではあっても、ズバッと意見や感想を言わせてもらっている。味は良くても、ハウス周りが汚いなんてことまでズバズバ言うものだから、いらぬお世話だと喧嘩になったこともあったが、気になることは疑問を持ち、質問し、指摘する。 言い方は品よくしないといけないが、変な気遣いはしない方が良い。それがきっかけで人気が出た商品やサービスも多々ある。

 この記事を読んでいる学生諸君! もし、農家に研修に行ったり、体験宿泊したりすることがあったら、単純においしかった、楽しかったではなく、常に、ここはどうなのよと言う意見を持つことを心がけて欲しい。

※アイキャッチの写真は同じ熊本県内ではありますが、このメロン農家とは関係ありません。

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