アウターバンド

 大型でのろのろ台風6号と7号には日本国中が翻弄されました。昔から、台風が通り過ぎると「台風一過」と言ってすがすがしい青空が広がるものですが、最近の台風は大きすぎて、しかも連続でやってくるので、この風情ある気象用語が使えなくなってきているように思います。

 台風の規模や勢力が大きくなると、これまでの台風の概念を覆し、いつもの知識では事足りません。ですから、ここ数年で新しい気象用語が多く使われるようになり、気象に疎い私なんぞは用語を覚えるだけでも大変です。極端現象の一つとして使われるようになった『線状降水帯』も、やっとスラスラと言えるようになったばかりなのに。

 今回特に気になった用語が「アウターバンド」です。今では一般的に使われるようになりましたので、読者の皆さんもご存知でしょうが、とりあえず簡単に解説しておきますと、台風の目を取り巻く積乱雲のことをアイウォールと呼び、この台風の目に向かって巻き込むように螺旋状に分布する降雨帯のことをスパイラルバンドと言いますが、そのうち、中心から200キロメートル以内はインナーバンド、200キロメートルから600キロメートルはアウターバンドと言います。昔は外側降雨帯と言っていたようです。この辺りの横文字用語は覚えにくく、すっと出て来ないので、当たり前のように使って欲しく無いなと思います。

 当然、一般的な気象用語となる前から専門家の間では使われていたのでしょうが、なんだかいつの間にか出て来て定着してしまうと、雰囲気でしか覚えていないので、新聞で出る度に、「さて何だったっけ」と調べ直さなくてはならない。気象レーダーの技術の発展によって台風の構造がより明確に読み取れるようになったことと、より詳細に情報を知らせなければならない社会需要の中で、最近になってより頻繁に使われるようなっていますが、誰でもが気象の基礎力を十分に備えている訳では無いので、反応は遅れがちです。

 今回、6号においては沖縄、九州、四国で、7号では中国で線状降水帯が発生し、更に、ほぼ2日間に渡って東海道新幹線を麻痺させたのは、何重にも層になったアウターバンドが静岡、岐阜周辺に位置したことが原因だったようです。この現象の重なりも状況把握を困難にしている原因ではないでしょうか。

 それにしても、台風の目からはかなり離れているのに、結構な雨と風に見舞われて、被害に繋がったのですが、いやいやこれは困ったことです。以前は、台風情報を見て、「台風の進路予測」と「暴風域」と「強風域」の範囲に注意しておけば良かったものが、地球沸騰化の時代に入り、こういう連続大規模台風が普通になってくると、その程度の知識では太刀打ちできなくなる。よって、リアルタイムでレーダー情報を入手し、強風域の外側までも気にしないといけなくなってくることになります。

 技術が発達すると、人間側もそれ相応に技術についていかないと、技術を使えなくなってくると言うことなのでしょう。ここ数年で、気象庁の防災警報の表現が二転三転したことがありますが、これは、気象予測技術の進展によって複雑になって来る情報を分析して、誰でも分かるように伝えるためにはどうしたら良いのだろうかという専門家たちの試行錯誤の表れなのだろうとも思います。

 報道においても、ここ数年、お天気情報のコーナーの放送時間が長くなっているように思いませんか。低気圧がどうなって、高気圧がこう来て、偏西風が蛇行しているので、ああだこうだと、かなり基礎的な気象現象から説明を始めることが多い。また、ネットでの天気情報アプリも多様になりました。女優の広瀬すずさんがやっているウエザーニュースの宣伝の「まあまあ当たるお天気アプリと一番当たるお天気アプリだとどっちがいい!」と言われたら、そりゃあ当たる方だろうよ。彼女が『私はこっち』って言うからウエザーアプリにするということではない。しかし、実際に大切なのは、当たるからというよりは自分が情報を見た時に、すう~っとその情報が頭に入って来るかどうかとか、知りたい情報を素早く探し出せる操作性となっているかどうかの方が重視されるべきだと思う。解説が長い割に意外と外れるTBSの『ひるおび』の天気予報士の森さんも、それはそれで諄くて好きですが、国民総気象予報士育成のための教育番組ではないのではとも思います。今は、バラエティとして見る天気予報と的確な情報の即時伝達だけを目的とした防災情報が混在しているので、情報をより複雑にしているように思います。

 今回の台風で少し見えてきたのは、あまりにも情報が多すぎて、天気情報を視聴する側が情報を消化しきれなくなってきているということです。視聴者がそこまでの知識を持っていると思って、過剰に専門用語を入れて説明されると、逆に分からなくなってきて、「とりあえず、警報・注意報と雨雲レーダーで雨雲の位置を確認しておくだけにするよ、難しいことは後で聞くことにするよ」と言いたくなってきます。 アウターバンドと言わなくても、「台風の周りには広い範囲で豪雨の帯があって、それがどの地域に何時ごろ掛かってきますよ」と言えば良いような気もするが、それでは情報が正確ではなく足りないということなのだろうか。地球沸騰化による極端な気象現象は、私のような鈍った頭には情報の沸騰化ともなるようです。

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