災間に記録を読み解く

 「武士の家計簿」で有名な歴史学者の磯田道史氏は、東日本大震災後の社会が「災後社会」と呼ばれてきたことに対して、歴史の光をあてて、私たちは襲ってきた災害と次の災害までの時間である「災間社会」を生きているのだという意識をしっかりと共有すべきであると唱えている。

 彼は、テレビなどに出ると、歴史話が楽しすぎるのだろう、少々早口で、興奮して話すきらいがあるので、視聴者としては訊きづらいところもあるが、彼が出版した数々の書籍を読むと、本当に興味深いことが坦々と綴られており、実は、私は大ファンである。

 「殿、利息でござる!」の題で映画化された「無私の日本人」は、農村集落を守るために奔走する歴史に名を残さない村人を描いた作品として、特に気に入っている。興味ある方は是非一度読んでみてほしい。一昨日、フィギュアスケート世界選手権2019で惜しくも第二位となった羽生結弦さんが殿様役で出ているのは必見だ。

 さて、先日送られてきた、農村計画学会誌の37巻4号(2019年3月出版)を開くと、「災間」という特集が組まれていた。災害の後にどういう復興をしたのかということも重要だが、より重要なのは、薄れゆく過去の経験から逃れるのではなく、これから未来に経験することになろう災害を向かい打たねばならないということで、「事前計画」、「事前復興」、「事前連携」などについて5つの論述が並んでいて、どれも事例などを交えて、災間意識の醸成を図り、備えることの重要性を説いていた。

 3月なので、私も意識をして、前2回、「防災・減災と農村づくり」の視点からの投稿をさせてもらい、前回は「記録」もさることながら、「記憶」の伝承が重要だとお話したが、ここで3月最後の締めくくりとしてもう一つ重要な点を述べておきたい。それは記憶も記録も、自ら読み解くという行為が必要だと言うことである。

 これについてお話するに当たって、ここも磯田氏の話題を使わせてもらうことにする。磯田氏によると、歴史の教科書に出て来る菅原道真は、現在は学問の神様として九州は福岡の大宰府に祀られているが、彼ほど「記録」で後世の日本人に役立った古代人はいないそうだ。彼だけが編纂したのではなさそうだが、彼が中心となってまとめた歴史書「日本三代実録」には、それまでの地震の詳細な記録が集められている。887年の仁和地震は南海トラフが動いたとされる大地震だし、東日本大震災で知られるようになった869年の貞観地震についてもこの歴史書に整理されている。編纂途中で彼は失脚し、非業の死を遂げるのであるが、彼の記録者としての功績は大きい。

 記録者としての功績・・・・。えっ、重要なのは「記録」なのか。いや違う、記録する彼の感性ではないのか。道真が歌に秀でていたのは有名なことだが、こういう歌を詠む人というのは、季節、自然、人、時間の微妙な変化に心を馳せることのできる人である。つまり、小さな環境と時間の変化に気づき、感じ入る力を持っているのだ、歌を詠むことは環境と時間を詠むことと同義だと思う。只、単に何年に何が起こったではなく、どういう状況だったのかが見えるのであろう。現代なら、撮影された写真を見たら、状況は分かり、文章になるが、当時はそういうものは無い、つまり、伝え聞くことや地方役人の文章を読んで、状況を把握するということなのだろう。地方役人もそうだが、感性が無ければ、記録することさえ不可能なのではないか。

 「災間」を意識した農村づくりの取り組みとして、様々な活動が実践されているが、おそらく、最も重要なのは、活動の内容や計画の仕方そのものではなく、そこに参加する住民の感じる力を養うことなのだろう。感じる力が付いて初めて、記録は活かされ、記憶は消えなくなるのだ。

 学会誌の特集の中に、大阪大学の下田元毅氏が「井戸の視点から見る事前復興」という論考で、地域の井戸を起点にしたワークショップをやった事例が紹介されているが、住民が井戸を確認し、評価することを通して、井戸以外の地域が抱える潜在的問題を読み解けていったのではないかと思う。これは、感性を養うにはとても良い取り組みだと感じた。

 記録、記憶の土台となる地域の環境と時間を読み(詠み)解く力の醸成は、重要な防災・減災対策だと言えるだろう。

(※三陸鉄道リアス線が8年ぶりに3月24日に全線開通した。写真は東日本大震災被災4ヶ月後(平成23年7月)大船渡市吉浜駅に寂しく停車したままの車両)

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