クラウド活用で多面事務負担の軽減

 令和4年度の農林水産省の当初予算が昨年12月24日に閣議決定しました。多面的機能支払交付金の推進については、昨年とほぼ同額の487億円が計上されています。田んぼダムの推進についての加算措置も加わり、小規模集落支援や広域化の推進なども引き続き強化されています。

 ただ全国的に見渡すと、地域リーダーの後継者不足、構成員自体の高齢化と人口減少による組織の弱体化等の問題があり、活動の継続が危ぶまれている地区も多く、予算規模に見合い、質の高い制度となっていくには、ハードルも高いのではないかと思います。ある地域のリーダーは、「地域資源の維持向上のためにはこの多面交付金は無くてはならないものであることはよく分かっているが、兎に角、人も後継者も居ないのだから息が続かないよ」と言う。

 これを打開する一つの方策として、活動組織の広域化や事務委託による負担の軽減及び組織運営体制の強化があるのですが、これについても、広域化や事務委託の場合のメリットとデメリットが十分把握できず、二の足を踏んでいたり、組織統合の合意形成への一歩が出ないという地域もあります。

 そんな中、最近になって、事務軽減にもっとICTを導入してはどうか、またクラウドの利用も考えてはどうかという話が多くなってきました。もちろん、研究会が推奨している多面事務ソフトの「楽ちん多面」は、これまでにも全国でたくさん活用されており、事務軽減に貢献して参りましたが、最近になってようやく、「楽ちん多面」の底力であるモバイルやクラウド(主にストレージサービス:文末で説明)を使った情報伝達が注目され始めたようです。ほぼ毎日、数本の質問を受けていますが、最近、その半数はこの問題となってきました。

 地域のリーダーが無理してパソコンを覚えて、不慣れな事務をやるのではなく、事務処理を適正にやってくれる事務局を別に設けて、積極的にICTを導入、高度化して、事務軽減を図ればいいのではないかということです。多くの地区では、広域や委託事務局がすでにパソコンでの事務処理を行っていますが、個別活動地区のExcelでの処理程度に留まっていて、本格的なクラウド利用のICT化には踏み切れていないところも多く、十分な作業軽減には至っていません。

 当研究会に問い合わせのある地域も、ICT導入の初期段階では、事務の煩雑さをすべて事務局が理解していることはなく、不安で仕方がないのです。ソフトを導入したり、ICT化を高度化したら、お金もかかるし、新たにその操作も覚えなければならないし、担当者も変わっていく中で、本当に誰でもが使えるようになるのだろうかと心配の種は多い訳です。

 特に、広域化を目論んでいる地域や事務委託を受ける予定の組織から多くの質問をいただくのが、活動組織から活動実績や金銭出納の情報を、どうやって人件費をかけずに効率的に収集すれば良いのかということです。ある広域事務局から聞いた話では、活動地区の中には事務局から遠く離れたところに組織があって、なかなか活動状況を聞き出すことが難しく、組織の代表が月に一回鉛筆書きで活動状況を書いたものを事務局まで持って来てくれるが、写真が無かったり、領収書を失くしたり、足りない情報も多く、結局しっかりと聞き取りしないといけなくなる。領収書探しを手伝ったなんていう笑い話もある。また、大規模な地区で、事務局との接触も容易で、組織内にパソコンが使える人もいくらでもいるのに、何も事務作業をせず、「事務局に全部任せたから」と活動の日程だけを連絡してきて、当日の参加者の確認や写真撮影まで事務局員に丸投げしてしまう組織もあり、人がいくらいても間に合わないなどとも言う。こうなると、事務局の人手不足の問題だけではなく、活動組織の地域協働力やコミュニティ力の低下にも繋がり、多面活動どころか農村社会そのものの存続問題にも発展しそうだ。

 しかも事務軽減についても、ICT化の問題というよりは、事務軽減をするための運用システムの不備ということになり、単にソフトを導入して効率化すれば良いと言うことではなさそうです。どの部分はICT化を図り、どこはアナログで対応するのか、また、アナログ部分をどういう戦略でデジタル化するか、逆にアナログの良いところをどう残して、更なる事務軽減を図るつもりなのか。ここを考えることが重要なのです。私は、そういう質問にはいつもこう答えます。

 「ちょっとパソコンに触ったことのある人なら、ICTの導入そのものを心配する必要はありません。大切なのは、ICTの運営システムと人の連携システムである」と。

 「楽ちん多面」は、ちょっとパソコンを知っている人なら、誰でも使えますし、ネットワークに繋がっていなくても使えるようになっていますし、高度に運用したいなら、「楽ちん多面モバイル」を使って、ネットワークに繋げてクラウドで事務局と活動組織との情報を共有することもできるようになっています。しかし、便利だからとか、事務負担が軽減するからと、むやみにクラウドを使い、高度化する必要は何もありません。

 今回の投稿では、ちょっと長くなりますが、最近研修で使った情報共有化(活動組織と事務局との)についてのテキストを元にして、広域化・事務委託の課題と活動組織と事務局との情報共有の考え方について、クラウドを含めて整理してみます。これから事務局を立ち上げようとしている地域の参考になればと思います。

※クラウドは本来は、「ユーザーがインフラやソフトウェアを持たなくても、インターネットを通じて、サービスを必要な時に必要な分だけ利用できる考え方」を指しますが、本稿では特に、データ共有インフラとしてのデータストレージ(外部記憶)サービスのことを言っています。

  
      ・多面活動を継続するに当たって、様々な課題がある。
      ・特に、リーダーの後継者がいないこと、事務処理の負担は大きな問題だ。
      ・更に、ICTを導入しようにもICTリテラシーが低いことも課題となる。
      ・活動継続の対策として広域化は本省も推進しているが、事務軽減のためだけに広域化を目論むのは良くない。
      ・広範囲に多面的機能が発現される活動になることが広域化では重要だ。
      ・地域の実情に合わせて、事務委託、広域化、活動組織での存続を選択していく必要がある。
      ・広域化は活動継続の打開策の一つであり、効率的な運営と広範な活動には繋がるが、
      ・大規模になることで、地域のオリジナリティは薄れ、事務局依存が大きくなり、活動組織の協働力は落ちる可能性もある。
      ・広域化を目論んでもなかなか合意形成が進まないこともある。そんな場合は、事務委託から始めるのも手である。
      ・事務委託の場合は、事務軽減だけを委託するので、活動組織の協働力は広域事務局よりは守られやすいが、
      ・事務局は実情の異なる多様な活動組織に対応しなければならず、活動組織は委託費の負担が生じる。
      ・事務委託と広域化は、地域の実情に合わせて選択することになる。
      ・考え方として重要なのは、事務軽減の問題だけでなく、
      ・地域資源の管理体制、多面的機能の維持増進をどう築くかを検討することが重要である。
     ・事務局(広域でも委託でも同じ)と活動組織との情報の共有の形は紙ベースからクラウドでのデータ共有まで4タイプある。
     ・一つのタイプに拘る必要はない。
      ・地域の実情は隣同士であっても大きく異なる。情報共有の方法を一律化する必要はない。
      ・事務効率だけで言うと、すべてをデジタル化するのは理想ではあるが、それも人と人の繋がりに課題が生じる。
      ・アナログ的対応を含めながら、できるところのデジタル化を伸ばしていくことを考えねばなるまい。
      ・クラウドで活動組織の活動や金銭出納情報をすべて共有化することもできるが、飛びついてはいけない。
      ・運用計画は慎重に行うべきである。

※ご相談事があれば、是非「農村づくり・ICT支援研究会」にメールをください。

※アイキャッチの写真は2022/2/2に行われた静岡県主催の「ふじのくに美農里プロジェクト」担当者会議でのZoomの様子です。(一部加工)

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