避難情報は警戒意識に届くのか

 災害時の避難情報を大幅に変更する改正災害対策基本法が4月28日、参院本会議で可決されました。これまで、大雨の警戒レベルで危険度が2番目に高いレベル4においては「避難勧告」と「避難指示」が混在していましたが、同じレベルに異なる二つの避難情報があることで、住民が行動しづらく、避難を始めるタイミングが遅れる等の問題が生じていたことを解消するため、「個別避難計画」の作成の努力義務化や特定災害対策本部の新設等を含めて改定に踏み切ったものです。

 避難情報については、「避難勧告等に関するガイドライン」(内閣府(防災担当))が平成31年3月に改定され、住民は『自らの命は自らが守る』意識を持つことが重要であるという方針ができ、それに基づいて、自治体や気象庁等から発表される防災情報を用いて住民がとるべき行動を直感的に理解しやすくするために、5段階の警戒レベルが明記されました。

 当研究会でも、令和元年6月8日に「言わせてもらえば」のコーナーで、『梅雨入り災害事前準備』と題して、この内容についてお伝えしましたが、あれから2年、良くも悪くも、この時に決められた用語がようやく定着し始めたと思ったら、もう変えると言うのです。

 今回の改定では、何らかの災害が起きたと確認できた際に出していたレベル5の「災害発生情報」という言葉は「緊急安全確保」に変更され、災害発生が切迫した段階でも発令できるようになりました。この時点では屋外の避難所へ向かうことが危険なため、自宅の上層階や、近隣の頑丈な建物への移動などを求める情報だということです。そして、先にも述べたように、レベル4は「避難指示」一本に絞られましたし、レベル3は基本的には変わっていませんが、以前は「避難準備・高齢者等避難開始」となっていたものが、今回はシンプルに「高齢者等避難」となったのです。どれも必要あっての改定であります。下の図で旧と新の避難情報を整理しておきましょう。

 専門の先生方が集まり幅広い議論をしていただき、これまでの避難に関する問題事例も分析し、ここまで改定していただいたことは、たいへんありがたいことではあるのですが、「さぁ、皆さん如何でしょうか。この改定、ピンときますか」

 レベル4で、勧告と指示が二つあったのを一つにしたのと、「高齢者等避難」はわかりやすいと思いますが、「緊急安全確保」というのはどうなのでしょう。なんだか、切迫感がないように思いませんか。私は日本語の読解力が低いのでしょうか、レベル5という最大の警戒レベルであるにも関わらず、「緊急安全確保」という用語がとても軽く聞こえてしまい、言葉としては弱いイメージだと思います。「緊急」とは付いているものの、「確保」という言い方が、のんびりしているのだと思います。レベル4の「避難指示」も、もっとシンプルに「全員避難」ではだめなのでしょうか。更に、基本的なことを言うと、そもそも、全体的に『自らの命は自らが守る』という言葉になっていないような気がします。

 避難情報の呼び方を変えたからと言って避難に対する認識や非常事態時の行動への効果が急に変わると言うものではないことは、検討された先生方も、また、これによって指示を出す市町村の職員も、また、これを享受する住民の皆さんも分かっているとは思いますが、あまりに技術的用語でかつ法律用語過ぎるのではないでしょうか。

 今回のコロナ禍の「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」などの発出でも分かりましたよね。用語と言うのは、やっかいなもので、意味が通じず一人歩きはするし、長すぎて覚えてもらえないし、使っている内に慣れて効果が落ちて来るし、結局は用語の問題ではなく、これを使う側の記憶と意識の問題である訳です。

 法律用語としての「緊急安全確保措置」は理解できますが、この用語がそのまま、住民の避難行動の情報伝達用語として使われるのは如何なものでしょうか。住民に寄り添って考えてみるに、先ず、新聞やテレビなどでこういった情報を見たとしても、毎日のように報道されるものではないため、最初の内は右の耳から左の耳へ貫けていくだろうし、ちょっと強い雨などが天気予報される度に、報道される可能性はあるので、少しずつ脳裏に焼き付いていくのでしょうが、記憶の定着には最低1年は十分かかるでしょう。しかも、おそらくそれは用語が記憶されるだけで、レベル3から5の区別としては、3段階あるのだから、弱いのが3で強いのが5というくらいにしか理解されないのではないだろうか。自治体による住民説明会、広報等で何度も何度も繰り返して、ようやくなんとなく理解されるというところだろう。しかし、誰もがそんなに積極的に学習過程に入ってこられるだろうか。疑問に感じるのだ。

 検討委員会のメンバーに言語学者とかコピーライターとかが入っていたなら、もう少し、心に残る用語が選択されていなかっただろうかと、素人の私としては思ってしまいます。それぞれの道の人が考えれば、もっといい切迫した言葉が生まれるように思います。更に、聞こえ度という指標もあって、言葉を伝える時に、より遠くまで聞こえる音は広母音と言われるものだそうだが、こういうことも考慮すると、切迫感だけではなく、伝達度の高い警戒用語が生まれたのではないかなとも思いま す。

 また、避難行動は、それぞれの地域で、地域住民の言葉で伝えていくことが重要で、使う段階のレベルは同じでないといけませんが、法律用語そのままの「高齢者等避難」、「緊急安全確保」を使うよりも、地域毎に最も伝わり易い同じ意味の言葉を日常的に用意しておいいて、例えば、「高齢者ら皆逃げっぺ」、「もう避難できねえべ、近くで命第一の行動しろ」と、役場や役所のパトロール車から村長や市長の声で発せられたり、有線放送で流れたら、より強い切迫感と緊張感が生まれるのではないだろうか。

 例えばとは言いましたが、私のセンスはかなり悪いですね。いい加減なことを言っちゃいました。こんなの使ってはいけませんよ。もっとじっくり考えてもらいたいのですが、言いたいことは、『自らの命は自らが守る』というなら、避難情報は住民の警戒意識に届く言葉でないといけないということです。

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。