農村RMO

 去る3月10日、農林水産省の主催で、「地域で支え合うむらづくり 農村RMO推進シンポジウム」が開催されました。コロナ禍ということもあって、Web配信のみでしたが、私も研究会として参加させていただきました。900組以上の参加者があったということです。

 「農村RMO」とは、複数の集落を単位として多様な組織や関係者が連携して、農用地の保全管理、地域の農産物等を活用した農業振興、買い物や子育て支援等の生活扶助といった地域コミュニティ活動を維持する組織です。Region(地域)の「R」、Management(運営)の「M」、Organization(組織)の「O」の頭文字をとって「RMO」、日本語にすると「地域運営組織」ということになり、農村を対象としているので「農村RMO」となります。

 多様な分野の人材が集まり、地域で支え合う共創のむらづくりを推進していくことは、高齢化や人口減少により地域の運営機能が低下している農村集落などで急務とされていますが、これは農村だけではなく、高齢化や少子化が進んだ街中でも、地域活性化や生活支援として成り立つものです。総務省の調査では、現在全国で5783団体、46.4%の市町村で設立されており、まだまだこれから全域設立に向けて展開するだろうと予想されています。

 そんな中、農林水産省では、令和4年度から農村振興交付金として「農村RMO形成推進事業」を創設し、農用地保全など農業を核とした農村RMOモデル地域の形成支援に98億円ほどの予算が計上されているようです。さらに、農林水産省だけでなく、関係府省も、これに関係する様々な支援制度を検討しており、今回のシンポジウムでは、厚生労働省、国土交通省、総務省などの関係者もパネルディスカッションに登壇され、関連事業についての紹介などがありました。

 地域運営組織は多様な法人によって複合的に運営され、労働者協同組合法(出資、協議、労働が一体となった組織であって、地域に貢献し、地域課題を解決するための非営利の法人を設立できる制度はこれまでなかった)の令和2年の法制化前からでも、自治体の支援や地域の自助努力で、全国各地で行われています。私も、30年前からの農村づくりの取り組みにおいて、多くの地域で、こういった組織づくりのお手伝いをさせて頂きました。しかし、行政支援がなかなか受けられなかった上に、先立つものもなくて、苦しかったのは事実です。みんなで助け合いながら、コミュニティビジネスを持続的に展開しようとしても、なかなか心意気だけではうまく行かないもので、みんなでお金を出し合った例もあるものの、断念した地域もたくさんありました。強い信念を持った地域リーダーがいるところは組織づくりにまで行きつきますが、リーダーが育っていないところは、途中で息絶えてしまうという流れになっていましたが、ようやく、この組織づくりを制度として支援する仕組みが普通に活用できるようになった訳です。農林水産省も地域施策についてようやくここまでたどり着いたかと、たいへん感慨深いものがあります。

 基調講演をされた小田切先生は、RMOは「小さな自治」としての多機能性を持ちつつ、集落の運営など地域資源保全管理や小さな問題解決などの守りの自治としての補完性を有しており、「手作り自治区」と先生が以前より位置付けられていた性格を持つものだとおっしゃっていました。近い内に、当日の公演内容は農林水産省のホームページに掲載されると思いますので、是非ご覧いただければ良いと思いますが、私が最も注目したのは、何と言っても、他府庁の連携でした。

 内閣府が音頭をとっているとは思いますが、厚生労働省の「重層型支援体制整備事業」は高齢者や障害者の就業や社会参画との繋がりという点で、国土交通省の「小さな拠点を核としたふるさと集落生活圏形成推進事業」は遊休施設を活⽤した既存施設の再編・集約に係る改修等への補填がなされ、事業の実現化に大いに期待でき、農村RMOとは親和性が高いように感じました。

 ただ、いつも思うことですが、制度が出来て、これを活用したからと言って、どの地域でもRMOがうまく機能するかと言うとそうではないでしょう。一部の関係者の取り組みの推進や一方的な組織の整備を進めるばかりに、真の意味での地域創生に全くつながらない場合もありますし、住民からしたら、弱体化し、手に負えなくなった行政サービスを丸投げされているみたいに感じて、活動意欲そのものを失くしてしまうことがあるかも知れません。

 農村づくりは、結局は制度ではなく、地域毎にしっかりと合意が取れた計画なのか、無理のない身の丈サイズのデザインとプロセスなのか、多様な人材が育ち、集まっているのかが肝となることは、いつも通りです。いきなり飛びついて形式だけを整えるというのだけは是非止めてもらいたい。

 また、いろいろとたくさん便利に使える制度は出来てきているのですが、実際には、なかなかその詳しい中身までは知ることができない上、いろいろと書類づくりやなんやらで難しい面も多く、自治体の職員に尋ねたいのだが、職員も人手不足で、十分に対応できない。何と何の事業をくっつけて実施すべきだとか、何と何は一緒にできないかなんて、てんで分からない。まるで、事業制度が保険の約款みたいになってしまっている。

 地域おこし協力隊とか地域プロジェクトマネージャーなどの活用もあるだろうが、事業支援のためのAIってのもあったらいいかもしれない。「ヘイ! シリー」とか「アレクサ!」と呼びかけると、直ぐに質問に答えてくれるみたいに、自治体へ行ったら窓口にワンストップの事業案内AIロボットがいて、組織形成から交付金、補助等を活用できる個別事業に至るまで、事務手続きも含めて案内してくれると助かるのにと思います。まぁ、もちろんそれでも、結局は実際にやっているところを視察するなりして、勉強しないといけないのだけれどね・・・。

※アイキャッチの写真はシンポ当日の農林水産省の資料から抜粋

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