ICT導入は身の丈に合わせて

 農業・農村へのICTの導入による農業改革は、これからしばらくの間は日本社会の大課題となるでしょう。これまで、農業・農村場面でのICTの活用は経済的な側面から他産業と比べてかなり遅れてきましたが、技術の低価格も進み、これから相当なピッチで農業現場に取り入れられると思われます。

    政府のスマート農業研究会では、①超省力・大規模生産の実現、②多収・高品質化のビッグデータ栽培技術、③きつい作業、危険な作業から解放、④誰もが取り組みやすい農業の実現、⑤消費者・実需者に安心と信頼を提供の5つの農業場面でICTの導入が重要としています。 超省力・大規模生産に向けては、無人トラクター、無人コンバイン、無人水管理など、省力化の技術が開発され、現場実証に向けて進んでいますし、高品質化については、気象・土壌データベースを活用した適正防除や施肥技術なども開発が進んでいます。また、きつい作業に対してはアシストスーツと呼ばれる作業の支援装置に当たる機器の利用も現実味を帯びてきています。

    只、このようにICTが極端に進んだインテリジェント社会については、その明るい将来性だけで無く、同時に問題点を持っていることも忘れてはなりません。私自身が長い間ICT研究を進めてきた中で、おしなべて言うとICTの導入は人の生活スタイルとのバランスが大切という事が言えます。 ICTを導入したが、使える人が育たない。すぐに宝の持ち腐れになる。よくある話しです。こうやって無駄にしたシステムはいくつあることでしょうか。

    いきなり高度になるということは、人の思考スタイルも変えないといけない訳です。 末端の農家で使う水門のゲート操作に、最新鋭の高額なテレメータシステムを導入する必要は無く、ゲートが開いているか閉まっているかだけを携帯電話で確認できる程度で十分な場合もあります。今の状況だとどのレベルの技術が必要なのかということを試行錯誤していく事の方がICT技術の導入よりも重要であります。

    更に、使っていく内に、利用者はあれもしたいこれもしたいと要求がエスカレートするものですが、その利用者に素直に応えていると、また使えない物になっていきます。システムがなんでもやってくれるとなると、最終的にはシステムに人が使われはじめます。データを分析することが目的であったのにもかかわらず、システムを維持していくことの方がメインになってきたりもします。誰が触るのか、誰がデータを入れるのか、誰が面倒を見るのかをしっかり見極めて保守体制も勘案した中でのシステム活用としていく事が大切です。

    ICTの導入にあたって、最も大切なことは、初めから多くをICTに求めないことです。自分たちにとって必要な部分はどこなのかをしっかり検討して、自分たちの身の丈に合ったシステムを導入しなければ、数年すると埃をかぶる代物になりかねません。

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