マクドナルドが食べたい

 ここ数週に渡って、「言わせてもらえば」のコーナーのお話が少し硬かったので、今週は少し軽い話をしてみたいと思います。

 かなり昔の話、20年以上前の話になりますが、鳥取県の赤碕町での話です(巻頭写真は別の地域:文末に説明)。今は、平成16年に東伯町と市町村合併し琴浦町になっています。私は、その当時は東伯町にも、赤碕町にも訪れ、環境関連の調査に関わり、農村景観のアンケートなども頻繁にやっていた頃でした。

 ある時、赤碕小学校で、子供たちと自分たちの地域の好きなところや嫌いなところについて、先生も交えて話す機会を得ました。赤崎小学校は、他の町内の小学校と違い、比較的街中にある小学校で、校舎も大きく、生徒数もそれなりに居たように記憶しています。

 当日、私は五、六年生に聞き取りのアンケートができると聞いていたのですが、実際に現場に着くと、授業の関係もあってだと思いますが、なんと、一年生と二年生が待ってくれていました。

 聞き取りをするに当たって、この時ほど頭を抱えたことはありませんでした。何しろ、「自分たちの地域の風景でいいなぁと思うところはどこですか」とか、「自分たちの地域は、自然がいっぱいあると思いますか」とかを尋ねるつもりだったのですが、二年生はまだしも一年生ともなると、つい先日まで幼稚園や保育園にいた訳で、地域という概念さえあまりよく理解できないだろうし、風景だって、限定された場所しか経験が無い中で、何が良いとか良くないとかなんて聞いても、答えられないだろうと思ったからです。

 でも、貴重な時間をわざわざ取って、せっかく児童を集めていただいた先生方に報いねばならないし、時間を無駄にはできないし、何とかその場を切り抜けないといけないと思い、その時いくつか題材として持っていた写真の中に、下の4枚の公園の写真があったので、試しに「あなたはどの公園で遊びたいか」と訊いてみることにしました。

 この写真では、テレビのクイズ番組みたいに、4つに分けてうまくデザインしていますが、当時は、実際には一枚づつ別々のスライド写真を投影機でスクリーンに映し出して、見せていました。あまりに古すぎて、写真は相当画質が悪いと思いますが、当時はこんなものだったのです。

 一つ目の写真は、県規模の総合公園のようなところで、背景に洋館が立っていて、丁度その前の池の鯉を子供たちが見ているところです。二つ目の写真は、どこにでもある住宅地の横にある児童公園みたいなものです。三つ目の写真は、山の斜面は芝桜が植わっていて、遊具も休息場所も無い緑地で、芝桜を鑑賞しながら、家族で弁当を食べています。そして、四つ目の写真は、運動公園のテニスコートになっています。

 「どの公園で遊びたいか」を選択させるぐらいなら、一年生でも答えられると思い、咄嗟の判断としてはよかったと思ったのです。

 「1番はどうですか。こんなところで遊びたいかな」と尋ねますが、二十人ほどいたでしょうか。誰もシーンと黙ってこちらを見ている。モジモジする男の子がいるが、「ハイ」「はい」「はーい」とは反応が無い。「2番はどうですか。これはみんな好きだよね」って、ほとんど誘導みたいになって、もうアンケートの体を成していない。これまたシーンだ。こりゃあ、やらかしたかな。一年生、二年生にはやっぱり聞き取りは無理だったかなと思いながらも、しかたない「3番はどうですか。なかなか選ぶのが難しいかな・・・」って言いかけたところ。なんと、パラパラっと手が上がったではないか。そうすると、なんだかよく意味が分からなかった子供もそれに吊られて手を上げる始末で、最終的には、八割方、3番を選択したのだ。案の定、4番に手は上がらなかった。

 こんな小さな子供たちにも、自分たちの使う空間に対して、求めているものはあるのだと確信しました。風景でも、公園を選らんだのでもなく、家族と楽しい一時を過ごしたいという気持ちを選んだのかもしれないが、それは明らかに子供の意思であることに違いはありません。

 「ありがとう、みんな答えてくれて。みんなの求めている公園が、地域に整備されるといいね」と、嬉しくなって、急にハードルを上げた会話になってしまった。専門家は急に誰でもがわかる言葉には翻訳できないのだ。「整備」などと言う言葉を一年生に使ってしまった。そこは、校長先生が「この人たちはね。私たちの住むこの赤碕町が、みんなにとってとても住みやすく、子供たちにとっても安全に遊べるところを考えるために来たんだよ。だから、みんなの好きな公園はどんなのかなぁと聞いているんだよ」と助け船を出してくれて、子供たちはそれなりに分かったようで、一層やる気が出て来たみたいだ。

 その後いくつかの質問に答え始め、なんとか子供たちへの聞き取りアンケートは終了することができた。

 なんとかうまくいったので、調子にのって最後にこういう質問をしてみた。

 「赤碕町に、こんなものができたらいいなぁと思うものはありますか」

 すると間髪入れずに、後ろの方に座っていたおそらく二年生の男の子が答えた。

 「マクドナルド」

 この時、確かに赤碕町にはマクドナルドはなかった。おそらく今も無いだろう。鳥取市内にはあったのかもしれないが、車で一時間以上はかかるだろう。でもテレビでは、「タラッ・タッ・タッ・ター」と家族みんなでビックマックを頬張るところなんかが流されると、子供ではなくても行きたくなるのは当然で、3番の写真も形無しだ。

 しかし、校長先生がこの時発した言葉はとても粋だったし、農村づくりの真髄のように思えた。 「○○くん、マクドナルドなんかなくてもええやろ。△△商店の□□おばちゃんのカツバーガーは美味しいだや(語尾は覚えていないこんな感じだったような)」

※文頭の写真は、京都府亀岡市旭町でやった子供景観評価会、赤碕町での活動から十年後、子供たちとの会話がようやく成立するようになった。小学校の先生は本当に偉いと思いますよ。

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