母の日

 先週5月9日は『母の日』でした。ここ数年、母の日は、息子二人が競って、高級日本酒をプレゼントしてくれます。妻は「花より団子」派で、カーネーションなんて贈ってもまったく喜ばないので、息子たちもよく分かっていて、彼女が最も好きな日本酒を数年前から贈るようになりました。

 3年前に、長男が四合瓶720mlで12000円もした茨城県の銘酒「来福」の超精米(究極の精米歩合8%)大吟醸を買って来てからは、兄弟で競い合って、手に入りにくい酒、高い酒を買ってくるようになりました。次男は、自分自身は酒を一滴も飲まないにも関わらず、兄貴に負けたくないと、兎に角、ネットで調べまくって、凄いものを用意してくる。母の日の晩餐は、私もそれに合わせてご馳走を用意するので、食卓はそうとう豪華になる。

 今年は、長男が、青森は西田酒造の「善和鳥(うとう)」の四合瓶、次男は、福井は黒龍酒造の黒龍大吟醸「龍」の一升瓶でした。

 家族で酒談義をしている内に、かなり古い話ですが、農村づくりについての良い話を思い出しました。以前にも紹介させていただいた、私の敬愛する農村づくりの現場の師であります松阪市うきさとの西井さんとのお話です。

 この地域では、西井さんの奥様が中心になって始められた「ささゆりの会」が発端になって、農家レストランをはじめとした様々な地域づくりが進められていました。とにかく元気なお母さんたちが、いつも笑顔で働き、特に、都市住民との交流を大切にしたことで、農村づくりの輪が広がっていきました。私も支援者の一人として、県の普及員さんや専門技術員さんと連携して、いろいろとお手伝いをさせていただきましたが、実際には、私は支援者というほど何もしていません。寧ろ、聞き役みたいなもので、西井さんが、「こんなんどうじゃろ」、「ええんちゃうか」と言うのに、大きく相槌を打つのが役割でした。

 もう一年ぐらい以上付き合いがあってからの事でしたが、西井さんから急に連絡が入りました。「母の日にお母ちゃんたちを驚かしてやろうと思っているので、協力してくれないか」というのです。「母の日は子が母親に何かする日じゃないですか」なんて言う無粋なことは言わないで、いつも通り、「いいですねぇ」と相槌を打つと、とにかく、エプロンだけ持って来てくれ、後は、来てからのお楽しみだそうです。

 これ、25年くらい前の話ですので、まだ「サプライズ」なんて言葉は無かったのではないかと思いますが、正に、今でいうところの「サプライズ」です。

 言われるままに、つくばから松阪に半日かけて、エプロンだけ持って参上しますと、西井さんが待ち構えていて、「山本さん、山本さん、今日はこっちや」と、いきなり、集会所の台所へ案内され、こう言いました。

 「今日は、日頃、飯作ってがんばっているお母ちゃんたちに、男だけで飯作って振舞うさかい、手伝ってんか。山本さんは芋煮担当や」

 私が料理大好きで、皮の早むきが特技だと知っての抜擢なのだろうか。いゃ、知らないはずです。よくもまあ、私をここに呼んだなぁ、師匠西井は恐るべき感の持ち主でもある。5、6人のお父さん方に混じって、私もエプロンして、日頃の3倍ぐらいの芋を洗い、皮をむき、料理を始めました。あまりにカッコいいところを見せようとして、調子に乗って早むきの包丁さばきをやるものだから、最後は指切っちゃって、包帯巻いて、ちょっとしたお荷物状態になってしまいました。それでも、芋煮も完成、それ以外に確か、アユの塩焼きや野菜サラダやタケノコの天ぷらなんかもあって、たっぷりな料理が庭に設営したテーブルに所狭しと並び、キャンプライトに照らされました。

 日頃うきさとで働く10名ほどのお母さん方が集まって、男たちが作った無骨な料理を、それはそれはおいしそうに食べてくれました。お母さんたちにとってのサプライズとは、「男だけでよくここまでできたな」ということだったようです。サプライズの期待を裏切らないように、その日は、片付けまできっちり、数人ほどの男組でやり遂げ、お母さんたちが、本当に驚いて返った後、再度、飲み会になりました。

 西井さんが男たちの夜の部の挨拶に言ったことを、そのまま覚えている訳ではありませんが、なんとなく西井さん風に再現するとこうです。

「今日は、みなさんご苦労さんでした。お母ちゃんたちは日頃、農家レストランの食事も作ってるし、その合間に、ぼくらのご飯も作ってもらっている。感謝せなあかんと思うんです。当たり前のことと思ったらあかんのですわ。今日、男だけで作ってみたら、大勢の人のご飯作るってやっぱり大変やったでしょ。今日、母の日に、そういう体験してもらおうと思って企画しました。ええ企画やったんやないかなと思います。専技(専門技術員)さんも山本さんたちも遠くからありがとうございました」

 この挨拶だけなら、私は西井さんを、決して「師」とは崇めません。夜の部の席で、缶ビール持って私の横に来た西井さん が発した一言が洒落ていて、私はとても大事だと思いました。

「むらづくりは人と人との交流が大切やろけど、一番大事なんは、身内の交流、夫婦の交流やと思うんや。山本さんそう思うやろ」

 私は、この日最大の相槌を打たしてもらいました。

 『農村づくり』というと、すぐに、地域の活性化、地域資源の管理、文化・景観の継承と、改まって活動をしがちであるが、真の農村づくりを突き詰めていくと、おそらくは、夫婦であり、親子であり、家族であり、隣近所というところでの信頼関係なしにうまくいくものではないことは分かってくる。最終的で大きな目標ばかりを見るのではなく、一番身近なところに目をやり、心配りをすることが『農村づくり』の第一歩ではないのだろうか。  あなたの地域でも、いかがですか。母の日ではなくても、妻の日もあるし、愛妻の日もあるし、いい夫婦の日なんてのもありますよ。一度、お母さんたちへの心配りをしてみませんか。

※写真を撮る前に、すでに開けて口をつけたのは、何を隠そう私です。

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