行けっ!草刈りロボ

 先日の休日、最近つくばに新しくできたイタリアンレストランに妻と二人で行った。初めてのお店ということもあって、予約をしたところ、店の方が窓際の良い席を取ってくれました。窓の外は豪華なお庭があるということではなく、広い芝生で、真ん中を横断するように緩やかに曲がった小道が芝生と段差なく設えられていました。周辺の建物はウォルナット色のキューブを繋いだような大変お洒落な作りで、無駄のないシンプル設計。建物の壁はほとんどがガラス張りとなっています。

 SDGsの目指す社会実現をコンセプトに、店舗内の運営エネルギーは敷地内に設置された太陽光発電と大規模蓄電池の100%再生可能エネルギーですべてまかなわれていて、駐車スペースにはテスラの充電施設が完備されていました。当然、厨房も『オール電化』ということです。しかし、窓際の席から見た限りではソーラーパネルは分からなかったので、屋根にでも設置されているのでしょうか。食品ロスにも取り組んでいるということで、徹底した近未来志向のレストランです。

 食事が運ばれて来るまで、しばらく妻と話をしていたところ、窓ガラス越しではありますが、妻の席の足元に何やら大きなカブトガニのようなロボットがやってきました。もちろん、向かい合って座っているのですから、私の足元にも近いのですが、周辺の建物ばかりに気を取られていたことと、音も立てずに近寄ってきたため、私は全く気付かないでいたところ、「これ草刈り機だよね」と妻が言ったので、初めて足元を見ました。

 自走式の草刈り機がいくつももう世の中に出ていることは知ってはいましたが、実は、間近でみたのは初めてでした。おそらく和同産業の「クロノス」、もしかしたらホンダの「グラスミーモ」だったかもしれません。イメージとしては、皆さんご存知の家庭用掃除ロボットのルンバのデカい奴だと思えばよいでしょう。

 しばらく見ていると、あっちへこっちへと動き回り、結構よく働いています。本体は5~60万円程度だと思いますが、設置費、保守費などを入れると、1haで100万円ぐいかかるのでしょうか。只、このレストランの庭のような芝生や果樹園の下草刈りなら、範囲設定も簡単だと思いますが、水田の畦畔や水路法面の草刈りとなると無理そうです。

 農地という場所は多様です。場所によって傾斜もあれば、凹凸もあり、土壌も乾燥から湿潤、石ころの多少まで幅広く、それらによって植生も変わってくる。背の高い草もあるだろうし、低い草もあるだろうし、蔦みたいなのもあれば、根が地面を這うようなのもある。

 それらの条件に対応して、草刈り作業のメニューも変わってくる。鎌で丁寧に刈りたい雑草もあるし、馬力の強い笹刃の回転でどっさり一気に刈りたい雑草もあるし、石垣周りなどはナイロンコードで優しく刈って石垣は保護したい。水路法面などの長い斜面ならスパイダーモアでもないと無理かもしれない。

 つまり、草刈りは単なる草刈りという一種類の作業ではない。草の生えている状態を見分ける能力と草を適正に刈る能力を持ち合わせたプロがさらにそれらを組み合わせる技を持っていなければならないのです。草刈りにも匠の技が存在するのです。私はよく石ころを飛ばすので、そうとう下手くそなのだろう。

 以前、ロボットの研究者に聞いた話ですが、ピアノを演奏するロボットを開発するだけで良いなら、鍵盤の上にすべてプッシュ機をセットして、音符通りにプッシュするプログラムを作ればよい。これはピアノ演奏に特化した産業用ロボットということになる。しかし、ピアノも弾けて、ギターも弾けて、ドラムも叩くということになると、楽器が人に使われるように設計されているので、人の形をしたロボットでないと演奏ができないということだ。

 草刈りに戻して考えなおすと、つまり、どんな農地の草刈りにでも対応できるためには、自立走行の人型ロボットでないとだめということになり、開発するのは至難の業とならないだろうか。

 草刈り技術の歴史は、鎌から始まって、手押し除草機、モーター式刈払い機になり、モアが出来て、乗用になって、今は自走式と、徐々に進化しているが、まだ、草刈り条件別に稼働するだけで、一台の機械やロボットでどんな草刈りもできるものは世に無い。

 さて、今日の本題はここからなのですが、様々な草刈り条件でも無人で草刈りをやってくれるようにするために、更に、人型の草刈りロボットの開発をしなければならないのだろうかということです。

 そりゃあ、草刈りプロのC3-PO(映画スターウォーズの全身金のやつ)みたいなアンドロイドがいてくれると便利ではあるし、楽しいけれど、人の操作技術が相まって便利となるモーター式草刈り機と、場所は選ぶが自走式の草刈りロボットがあれば、無人とはならないが、とりあえず「身の丈」技術には達しているように思う。(「言わせてもらえば」2019.02.04の「ICT導入は身の丈に合わせて」で説明:ICTの導入は高度化し過ぎず、使う側の身の丈に合わせたレベルが丁度良いという意味)

 様々な研究開発にジャブジャブと投資できる時代ではないので、自立走行の人型ロボットの開発のように、社会構造を変えるイノベーション技術の開発には集中投資が必要だが、「身の丈」まで達した技術については、精度・安全性・経済性を上げる改良は必要だが、新機構開発への資金投入は一旦立ち止まっても良いと私は思います。

 科学技術はこれまで連続性のある開発が基本で、少し技術が進んだらそれを搭載し、特許化・差別化によって企業利益を生んできたが、同じような技術開発に投資するため、他社にブレークスルー技術が生まれると先を越されてしまい、無駄が多くなる。もちろん、本来は無駄になる技術というものはなく、企業間の切磋琢磨は次のイノベーションを生んでいく技術力の深みとなるので、お金があるならいくらでも多様な技術開発を進めてもらいたいものだが、今の時代はもっと効率性を考えることが大切だ。技術体系の投資効果ももっと細かく分析して、イノベーションを「待つ」ことを最大の技術開発投資としていくべき時もあろう。

 齷齪(あくせく)と動き回るカブトガニみたいな草刈り機ロボットを見ていると、とりあえず「君はたいしたものだ 早めに充電しとけよ 行けっ!草刈ロボ」と声を掛けたくなった。「行けっ!草刈ロボ」は古い漫画のセリフのパロディのつもりだが、古すぎて誰もわからないかも。

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