伝承も地図で読め

 国土地理院が日本全国の地図のすべてを取り仕切っているということは皆さんご存じでしょう。本院は国土交通省設置法及び測量法に基づく測量行政を司る国土交通省の一機関であり、すべての測量の基礎となる「基本測量」を自ら実施していて、国家座標の維持管理を行う他、国の行政機関や公共団体が実施する公共測量の指導や助言を行い、地理空間情報の活用を推進し、国民生活の向上、国民経済の健全な発展に寄与しています。

 スマートホンではGoogleMapやAppleMapを使っているし、一番よく使う住宅地図はゼンリンだから、国土地理院にはお世話になっていないなんて言われるかもしれませんが、それでも、いざ地域の事業計画を立てたり、土地評価を正確にしようとしたり、面積を正確に測定し、建物を設計しようとすると、正確な地図が必要となるので、やっぱり国土地理院の基盤地図情報はたいへん重要な地図となります。

 私の仕事は農村づくり支援研究でしたので、現役時代は毎日のように地図に接してきましたが、特に、東日本大震災の復旧・復興の計画策定においては、国土地理院の地図にたいへんお世話になりました。外付けハードディスクの技術的最大容量が4テラバイトの時代で、なけなしの研究費でなんとか買える容量が500Gバイトぐらいだったので、地図情報を限界まで一杯にして使ったのを覚えています。

 さて今日は、この11日が東日本大震災から12年目を迎えたこともあって、この国土地理院のホームページで見つけた防災対策に関するちょっと興味深い情報について紹介したいと思います。これまで毎年、この時期になると防災・減災に関する情報を提供し、私の一貫した考え方として、日常的なソフトの取り組みが大切であることをお話してきましたが、今回は記憶や伝承の情報整備の観点からの防災意識づくりについてお話してみたいと思います。

 国土地理院のホームページ、昔はなんだか敷居が高く、説明も小難しかったように思います。地図情報そのものがどちらかというとクローズ的(閉鎖的)に扱われていた気もします。また、Web地図の技術も発達していなかったので、直ぐに手に入れるのも厄介で、大きな本屋や日本地図センターに買いに行くしかなかったのですが、今はトップページもカラフルで、分かり易く親切で、地図提供のサービスも満載です。

 下図は現在の国土地理院のトップページで、タイトルの下に分かり易く青い帯で「国土地理院について」から「申請」まで6つのグローバルメニューが表示されていて、その中にたくさんの地図情報が提供されています。ちなみに、下図は「地図・空中写真・地理調査」のメニューのサブメニューを表示したものです。

 見たとおり、「地図・空中写真・地理調査」では、基盤地図や国土基本図の参照とデータのダウンロードが可能となっています。

 また、「防災・災害対応」では統合災害情報システムDiMAPSやハザードマップのポータルサイトに繋がっています。研究会のホームページの読者の皆さんは自分の地域のハザードマップを見たことがない方はいらっしゃらないと思いますが、ほとんど方は自分の住む市町村から配布される紙ベースのものや、ホームページに掲載されている地図をダウンロードしたりコピーしたりして見ているでしょうが、国土地理院のホームページからでも「わがまちハザードマップ」としてダウンロードできますので、覚えておいてください。また、国土地理院の方では、重ね合わせハザードマップを参照すれば、洪水や土砂災害などの危険情報を市町村の域を超えて広範囲に確認することが出来ますし、道路や河川、避難場所等の情報を重ねてみることができます。

 地域のことを考える時に、地域内の自助、共助で行える防災・減災対策は絶対に欠かせない課題ですが、国土地理院のホームページに地図が提供されていて、検討するときの材料になります。そして、その中から本日、私が皆さんにご紹介したいのが、「地図・空中写真・地理調査」の主題図の一つとして作成されていた「自然災害伝承碑」地図です。

 これは、全国にある自然災害の伝承に関わる石碑等の情報を公開しているもので、2020年8月から公開しているそうです。2023年3月に19市区町村46基を追加公開したことで、現在の全公開数は 全国529市区町村1821基となったと説明があります。しかも現在は、上記で紹介したハザードマップへも重ね合わせて表示することが出来るようになっています。結構頻繁に国土地理院のホームページを訪れていたのですが、恥ずかしながら今日初めて見つけました。

 他の主題図は、道路とか河川位置とか土地利用だとか、活断層の位置等の防災対策を検討するための直接的な情報なのですが、これだけなんだか性格が違っていますね。伝承碑の情報なんて、ややもすれば、定性的であるとして公開情報として採用されにくいように思うのですが、こういう情報を国土地理院がしっかりと採用し、情報として整理してくれているところに感心しました。地理情報の何たるかを本当に知っている専門家たちの気概を感じます。

 この取組について国土地理院はホームページで次のように説明しています。

 我が国は、その位置、地形、地質、気象などの自然的条件から、昔から数多くの自然災害に見舞われてきました。そして被害を受けるたびに、わたしたちの先人はそのときの様子や教訓を石碑やモニュメントに刻み、後世の私たちに遺してくれました。

 その一方、平成30年7月豪雨で多くの犠牲者を出した地区では、100年以上前に起きた水害を伝える石碑があったものの、「石碑があるのは知っていたが、関心を持って碑文を読んでいなかった。水害について深く考えたことはなかった」。(平成30年8月17日付け中国新聞より引用)という住民の声が聞かれるなど、これら自然災害伝承碑に遺された過去からの貴重なメッセージが十分に活かされているとは言えません。

 これを踏まえ国土地理院では、災害教訓の伝承に関する地図・測量分野からの貢献として、これら自然災害伝承碑の情報を地形図等に掲載することにより、過去の自然災害の教訓を地域の方々に適切にお伝えするとともに、教訓を踏まえた的確な防災行動による被害の軽減を目指します。

 私も復旧・復興の農村づくりで岩手県、宮城県のいくつかの地域のお手伝いをしている時に、災害碑を常に意識して暮らして来た集落もあれば、誰も知らなかった集落もあることを知りました。場所によっては、「この町には津波は来ない」と何の根拠もない都市伝説みたいなものが広まっている地域もありました。

『昭和八年三月三日三時十五分襲来・・・現在地における津波遡上高は碑頭より三m上と追想される。(大船渡市三陸町吉浜)』(言わせてもらえば「災害の記録と記憶」2019.3.13)この一言で良いのです。それがこの地の地理情報、伝承を地図の中で読んでいく地理情報データベースなのだと思います。この活動をしたからと言って、みんなが石碑を見るようになるというものでもないが、情報がこうして地図に開示されることは意識啓発の第一歩ではある。私が見た多くの石碑がまだ掲載されていないようなので、この取組はもっと進めて欲しいと思いました。

※国土地理院のホームページは https://www.gsi.go.jp/top.html です。

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