リーダーは三世代で育てる

 三十数年余り、全国各地の農村づくりを見て来て、また支援してきて、科学的に証明した訳ではありませんが、経験的に確信に至った結論があります。それは、「地域リーダーは三世代で育てる」という鉄則です。

 元々この言葉は、私が農村づくり支援を手掛けた最初の地区である京都府舞鶴市与保呂集落で、当時、楽しい集落づくり推進委員会委員長であった石束輝己さんがよく口にしていた言葉です。

 最近でも、いくつかの農村地域を訪れると、地域でよく聞くのが、「後を背負ってくれる地域リーダーがうちの村にはいないんだ」という諦め感の強い嘆きです。昔も今もこの嘆きはそこら中で聞くので、地域リーダーの継承問題については、これまでも「言わせてもらえば」のコーナーで幾度となく取り上げてきました。地域のリーダーが次の人に継承できない苦しさは、私自身が当事者ではないですし、地域それぞれの事情も違っているので、一般論としては分かってはいても、実際には悩みの深さはよく分かりません。地域の実情を聞いても、人間関係の古くからのしがらみもあって、それじゃこうしたらどうですかと回答を出すのも難しく、また、それが本当に良い方法なのかはやってみてなんぼというところがあり、結局は、今のリーダーさんたちが、どうしたら良いかを自ら考えて、進めていくこと以外に真の解決はないのではないかと思えます。

 しかし、絶対に外していないと思うのは、この「三世代で育てる」という鉄則です。

 「三世代」というのは、一般的には親子関係の暮らしにおいて、「三世代同居」というように使われることが多い。高齢化や女性の社会進出に伴い、子育てや介護が社会的問題となっていることから、国や自治体なども、「三世代同居」や「近居」を推進し、支援制度もたくさんできています。

 三世代が生活を共有することには、扶助と経済的な面でのメリットも大きいが、価値観の格差によるデメリットもあります。子育てを手伝ってくれるとか、病気の時に扶助し合えるとか、介護が安心とか、生活費に無駄が無くなるとか、住宅費が要らないというメリットと、教育観の違いによるぶつかりや生活スタイルの干渉、古臭いが嫁姑問題による精神的な苦痛までデメリットもあり、これらが左右の天秤に乗っている感じだが、デメリットだから逃げるのではなく、デメリットを克服することで、世代理解にも繋がるし、互いを思いやる距離感も掴めて来て、天秤は常にメリット側に傾くこともあるはずだ。この距離感を「スープの冷めない距離」なんていう言い方もするようだが、言い得て妙なりと思います。

 近代の家族の孤立化は、個人の価値観と自由が、家族封建の安定性よりも勝ったということだと思うが、三世代同居は、昭和50年代は50%あったが、それから急激に低下し、平成28年には10%まで落ちたものの、ここ5年は10%を維持しているみたいです。ちゃんと三世代の暮らしというものに価値を見出したり、そうすることの方が合理的であると判断する家族も一定数はいるということだと思います。

 また、会社の事業継承においては、「三世代」という言葉は使われませんが、多様な世代人材の活用が事業の活性化に繋がると言う例はたくさんあります。これは「同族経営三世代は会社を潰す」と言うことではなく、組織内の三世代活用のことである。

 考えてみれば、技術が伴う継承ごとは、だいたいが三世代継承を基本としているように思います。もちろん、四世代、五世代と繋がっているものもありますが、基本は三世代で繋がりがあるかどうかということになります。最も分かり易いのは地域の「祭り」です。あれは基本、親子孫の三世代が分担しながら儀式の継承を行っています。親、子、孫の持ち場があり、孫は子を、子は親の背中を見ながら、自分の位置の役割を果たしていく。それによって、自然に郷土愛が育まれるようになっている。「地元人」になるためのキャリアパスとも言えます。

 勿論、人それぞれに人生はあるので、地元愛は様々な形で断ち切られることもあるし、地元愛を持ちながら、泣く泣く育った土地を離れることもあるのだが、重要なのは、郷土愛を伝える仕組みが『三世代継承』の構造になっているか否かである。

 老舗と言われ、代々その経営が後世に繋がるようなお店や会社は、大方は、秘伝の技術を親が子に教え、その子がまた孫に教えることでその技術が継承される。先代が早くに亡くなったりして、三世代が完全にそろい踏みをすることは難しいということもあるが、基本は、三世代が繋がっています。

 古い知識や技術によって得られた経験を持つ親世代と新しい知識や技術による実践に挑戦する孫世代は、真ん中の子世代の柔軟性という技術によって調和し、新しい技術に発展していくものなのではなかろうか。実は、『農村づくり』も技術と同じで、世代を超えて受け継がれていくものなのです。

 農村地域のリーダーをやっておられる方は、個性が強過ぎ、馬力のあり過ぎる方が多いように思います。ですから、ついついやり過ぎてしまい、他の人ができないことも多いのです。そうすると、自分だけが楽しんでしまって、子、孫世代への継承が遅れることも多いように思います。その人が馬力を出している時は、地域はどんどんと発展していくのですが、そろそろ引退かという時には、子や孫世代が誰も付いて来ていなかったなんてことにもなり兼ねません。三世代分断となってしまったという結果です。

 石束輝己さんは私に言われました。「ぼくは、地域リーダーと呼べるほどの技量はないんやな。だから、いつも次に誰にやってもらうかばかり考えてるんや。地域リーダーがいることが大事なんとちゃうで、三世代家族と同じや、昔は一家族に子供が三人も四人も、孫が数十人もおったろう、あれと同じように地域づくりも、親、子、孫世代をとにかく繋いでおくことや。誰をリーダーに選ぶかということじゃないんや」

 よく、役員を引き継ぐ土壇場になって、次、誰にやってもらおうと悩むことがある。そして、声を掛けてはみるが、断られるなんてことがあったりするが、もうこの段階で、継承技術としては成り立っていないのかも知れない。日頃からの地域リーダーの親・子・孫の三世代を作り、育てておく必要があるということになりそうだ。

※アイストップの写真は山形県の銀山温泉の老舗旅館の佇まいだ。老舗旅館の女将のおもてなしの技術や立ち居振る舞いも、三世代で継承されていくもののようだ。

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