研修の視察地域は自ら選べ

 農村づくりの活動では、2、3月になると、大方の行事が終わり、当該年度の報告書の作成、役員の交代準備、総会資料づくりと、役員を中心とした締めくくりの時期となるでしょう。多面的機能支払や中山間直接支払の地域の活動についても、多くの地域が2月の中旬にはほぼ活動を締めくくっているようです。

 例えば多面活動の場合、事業完了が3月31日ということになり、遅くても完了日から1ヵ月以内には報告するので、多くの組織が4月末までには市町村へ報告書を提出ということでしょうし、事業計画や更新は6月30日までに市町村へ提出ですので、役員さんはかなり忙しい日々となりますが、ここで是非、真剣に考えていただきたいのは、次年度の計画に盛り込む研修のことです。

 「次年度もまた、県の主催する研修でいいや」と安易に考えていませんか。また、一般的な農村づくりの活動でも、「4月になったら新メンバーで考えてもらえばいいや」と思ってしまっていませんか。多面的機能推進協議会や都道府県や国の主催する研修は、日程がセットされていて、参加し易いですし、事業推進に当たっての課題や問題点を総括して話してくれるのでとりあえず聞いておかないと思い、それで済ませてしまいがちです。

 でもどうでしょうか、案外行ってみたら、基調講演はあっちの世界の話、事例発表はすばらしいのですが、だいたいは知っている有名な地域、県の事務説明と来たらやたら眠たいという感じだったりしませんか。もちろん、充実した研修もあるでしょうが、私がいろんな地域リーダーから感想を聞くところでは、研修活動の項目の消化にしかなっていないということが多いようです。

 こういう研修は、発表者が見せたいところだけしか見せていないので、苦労話はあまり聞けないし、参加者が知りたいことにピンポイントで答えてくれない。大勢の前なので、質問どうぞと言われてもなかなか質問もし難いし、参考にはなるが、これはすばらしい研修だったというのは滅多に出くわさないようです。

 まぁ、仕方がない面もあります。主催者も研修の専門家ではないし、往々にして就任して間もない人が担当することが多いみたいで、会場の確保と日程調整だけでへとへとで、基調講演をはじめとする内容が、視聴者にピタッと来るかなんて考えていられないでしょう。私としては、苦言を言いつつも、その裏方の苦しさも知っているので、フォローをしておきたい。

 私は農村づくり支援研究の中で、何度か研修の効果について検討したことがあります。例えば、優良事例地区を視察してもらうが、問題意識を持ったグループとそうでないグルーブに分かれた場合や、先に視察する地域の情報を頭に入れてもらってから視察にいくグループとそうではないグループに分かれた場合に、学んできたことがどう違うのかを比べてみたことがあります。しかし、こんな実験はやるまでもなく、当然どちらも前者の方がたくさんのことを聞けてきましたし、帰ってから自分たちの地域の問題解決に繋がりました。しかし、先に問題意識が無かったり、情報が無かったりした人の方が、より感動し、やる気になった場合もないことはないので、なんとも言えないところもあります。

 それでは、研修効果の差が覿面に表れたのはどんな場合だったと思いますか。実は、視察対象の優良事例地区と視察に行った地域の活動のレベル差が大きい場合でした。どういうことかと言いますと、優良事例地区があまりにも自分たちの地域の活動レベルとかけ離れ過ぎると、最初から、この地域は参考にならないと思ってしまい、やる気を無くしてしまい、学べることが少なくなってしまうようです。本当は学べるポイントは一杯あるはずなんですが、心理的に負けちゃうんですよね。

 視察地域がセットされた研修はこういった効果のことをあまり加味していませんので、うまく填まる人もいるとは思いますが、多くの人は、「いい勉強になったな」ぐらいで、結局は「自分たちの地域は自分たちで考えるしかない」となってしまうのです。ですから、研修で視察に行く優良事例地域はしっかりと自分たちで選択して、事前に問題意識も情報も持って、万全の態勢で臨んで頂きたいと思います。

 前年度までの活動で、いろいろと自分たちの地域活動の問題も見つかったでしょうし、もっと発展させたいとも思ったことも出て来たでしょう。2、3月の役員さんは、取りまとめで忙しく、農繁期に向けての準備もあるとは思いますが、是非、この時期を利用して、次年度はどこを視察に行こうかと自発的に考えてもらいたいと思います。市町村も都道府県の担当者もたくさん情報を持っていると思いますし、今はインターネットを調べると、様々な事例が紹介されています。調べていく内に参考になりそうな地域に必ず出会うはずです。また、これまでの研修会の懇親会などでちょっと面白そうな地域の人たちとも交流があったと思います。近場で行きやすかったりしたら、役員以外も含めてちょっとおじゃましてみたいと思ったら良いのです。農村づくりは切磋琢磨であります。一気に高みを目指さず、団栗の背比べ程度でお互いの地域を磨き合えばいいのです。

 研修の段取りは結構時間の掛かるものです。この時期に当てを付けて、打診もしておいて、ようやく実現するのは半年後の秋口ぐらいになるものです。是非、今から考えておきましょう。

 視察される優良事例地域側からすると、個別に訪問されたり、質問されたりすると、時間ロスも多くなるし、対応に困ってしまうので、国や自治体のご指名なら出て行ってお話もするが、個別の視察はやめてほしいとは思うでしょうが、できればどの地域にも優しく対応してあげて欲しい。そして、教えてやるではなく、「視察に来るなら、あんたたちも何かいい話持って来てくれ」と相手に求めてください。農村づくりは「ネットワーク」と「Give&Take(ギブアンドテイク): お互いに与え合う」が原則です。

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