線状降水帯

 7月10日、つくば市は殺人的な暑さに見舞われました。その前夜は暑さにムシムシも加わって眠りにくく、何度も汗で目を覚まし、水を飲んではまた汗で、電気代を気にしながらもエアコンを付けたまま寝ているのに効きゃしない。寝られたのか寝られなかったのかよく分からないまま、朝早くからボケーとしたままリビングのソファに座ってテレビをつけたのが5時半ぐらい。今日が始まるかと思う頃には、室内はすでに29度で、エアコンの設定温度を下げて、早く室温を下げないとテレビも見ていられない。

 10日の朝は、つくばだけでなく関東近郊はおそらくはみんなそんな感じだったというのに、九州の福岡県と佐賀県には未明から線状降水帯が発生し、記録的な大雨が降っていました。気象庁が福岡県に線状降水帯の発生情報を出したのは午前3時9分。久留米市を含む筑後地方に大雨特別警報を出したのは午前6時40分。久留米市は午前7時34分に5段階の警戒レベルで最も高い「緊急安全確保」を市全域に発令したということです。

 片や暑すぎて熱中症になりそうな朝、片や一刻の猶予もなく、命の確保を強いられるほどの大雨。気候変動による極端現象はほんと手に負えません。その後、線状降水帯は大分県にも発生し、11日には特別警報は解かれ、警報、注意報に切り替わってはいるものの、土砂災害の危険性は残ったままで、現在分かっているだけでも6人の方が亡くなっています。(15日には秋田でも線状降水帯発生による被害が出ました。)被災された方々にお見舞い申し上げますとともに亡くなられた方、またご家族や友人を亡くされた方にお悔やみ申し上げます。

 気象庁では昨年から、線状降水帯の発生を予測する情報の運用が始まりましたが、昨年は13回の発表に対し、実際に発生した回数は3回にとどまるなど、的中率は25%とも言われ、予測精度が課題となっています。積乱雲が連続発生するメカニズムも十分に解明されていない上、予測のためには緻密でかつ膨大なデータを扱うためスーパーコンピューターでも使わないと難しいということで、今年6月からスーパーコンピューター「富岳」を活用したリアルタイム予測の実証試験が始まりました。今回の事例についてもいずれ実証される時が来ると思われますが、今回の予測でも、時間的・位置的ズレがあったようで、自治体の対応はなかなか難しいようです。

 早め早めの注意喚起を促しているものの、それよりも早い現象悪化があったり、思っていたところはそれほどの被害には至らなかったりするし、住民の反応にもタイムラグがあり、避難時にはあまり雨が降っていなかったりすると出遅れてしまう。今の気象予測技術と伝達方法では、公助部分の予知的対策は不十分で、後手に回ってしまうというのが現実なのかもしれません。

 気象庁から顕著な大雨に関する気象情報が発表された際には、「雨雲の動き」、「今後の雨」(1時間雨量又は3時間雨量)において、大雨による災害発生の危険度が急激に高まっている線状降水帯の雨域が下図のように赤い楕円で表示され、現時点で解析された線状降水帯の雨域を実線で、10~30分先に解析された線状降水帯の雨域を破線で表示したものが自治体をはじめ国民に提供されます。

 しかし、線状降水帯の雨域がかかっている地域であっても、顕著な大雨に関する気象情報の発表基準のうち、危険度の基準を満たしていないときは、顕著な大雨に関する気象情報は発表されません。また、線状降水帯の雨域の楕円の外側の地域であっても、大雨による災害発生の危険度が高まっている場合があります。だから、被害の出ている、またはこれから被害が出る可能性が高い地域では、このデータを見ながら対策を立てるなんてことは至難の業ではないでしょうか。

 被害に遭われた方のインタビューでは、「大丈夫だと思っていたが、数分で水は足元まで迫り、10分程度で床上まで浸水し、逃げないといけないと思った時には、もう動けない状態で、しかたなく2階へ避難した」と言う方が多い。おそらくは、スマートフォンで気象庁の下図のホームページを見ているだけでも数分ぐらいかかりそうです。

 しかも、情報が多過ぎて、事が差し迫ってからでは何をどう見てどうしたら良いかを考えていられない。自分の正確な位置を地図で確認するのも分かりにくい。ウェザーニュースのスマホアプリみたいに自分の位置中心に雨雲レーダーの情報が出て来た方が良いだろう。

 予測精度が上がらない以上、より安全側で見込まないといけないのだろうが、被害に至らない頻度が多いと、オオカミ少年になってしまい、避難しなくなってしまうし、かといって安全側を軽く見込んでしまうと、避難行動が遅れてしまい、取り返しがつかないことになり兼ねない。技術や方法よりも、この現象に対する人の意識改革が大切なのかもしれません。

 先週の「言わせてもらえば」では、エスカレーターの乗り方からの気づきとして、農村づくりにおいては、現状の社会や環境を「我事感」を以って認知する意識改革が必要であることについて述べましたが、防災に対する姿勢も、先ずはこの「我事感」を如何に醸成するかが大切でしょう。他人事みたいに災害情報を見ていては行動に移しにくいからです。そして、今日のお話を通して見えてきたもう一つの防災上の意識改革は、避難するという行動が非日常であるという感覚ではなく、日常の中にあるという意識を持つことではないでしょうか。すなわち、「日常非日常の連続性」の意識を持つことも大切ではないでしょうか。

 「線状降水帯」は「扇情降水帯」と語呂を当てはめたくなるほど感情的な動きをしますし、実際、性的な感情に近い高ぶりがあるようにも感じます。災害時は冷静に行動しないといけませんが、少し扇情的になるぐらいの意識改革をしていくことが求められるでしょう。

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